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TRPG SS集  作者: るーちゃん
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花宮のXプロジェクト


「Xプロジェクトですか?」


 先輩に呼び出されて会議室に行くと様々な部署の若手社員が集められてました。噂をよく聞く新入社員のホープたちばかり。少しの場違い感が私を満たします。集まった私たちを見て先輩が深く頷き手を掲げるとブラインドが下されてモニターがスライドを表示しました。そこには大きく「花宮グループ、Xプロジェクト」という文字が。思わず口に出してしまいました。何人かの同期の視線が私に刺さってます……。


「うむ。これは花宮グループの極秘プロジェクトだ。そしてここに集められたのはうちのグループの中でも精鋭と見込まれた人間となっている。プロジェクトの成功が君たちの昇進にも直結する。心して取り組んで欲しい」


 重々しい空気がビシッと締められた気がします。ここに集まってるのはうちのグループの新人の中ではエリート中のエリート。私のようなペーペーが混ざってて本当にいいのでしょうか。


「すぐに御曹司も来るからゆっくりしててくれ」


 次期社長も来られるんですか。4月の入社式の挨拶で姿を見ただけですが、私たちよりお若い方ですよね。まだ学生……だったのでは?今日平日なんですが。


「待たせた。もう揃ってるのか」


 唐突に会議室のドアが開いて男性が入ってきます。入社式のモニターに映っていた人ですね。この人が花宮さおり、つまり花宮グループの次期社長ですか。


「お疲れ様です、御曹司。今年も有望な者を集めておきました」

「ありがとう、毎年世話になる。さて、新入社員ばかり集められてよくわからない状況だとは思う。私のことは御曹司でも次期社長でもなく、花宮さおりとして接して欲しい」


 言葉は固いですが、ぱっと見は普通の高校生に見えます。ただ、どう頑張っても一個人として会社の次期トップに接するには度胸がないです。同期たちも微妙な表情ですね。


「早速、本題に入ろう。まず最初に、このプロジェクトは機密扱いとする。この場にいる人間以外に情報を漏らすことは許さない。それが上司であろうと花宮家の人間だろうと家族であろうと、だ。特に御影には知られてはならない。漏れたことが確認された時点でこの場にいる全員がこの会社では働けなくなることを覚悟しておいて欲しい」


 あの、本当に関わっちゃいけないことなのかもしれません。あれですか、大企業特有の癒着とか。提携してる御影グループに明かせないというのは脱税とかそういうやつですかね。新人はすぐに切り捨てられるとかそういうやつですか?まずいです、まずいですよ。


「それに従えないならこの場から今すぐ去ってくれていい。それが君たちに不利益に繋がらないことは花宮の名で約束しよう」


 立つなら今ですが……何で誰も動かないんですか!えっ、みんなお互いの様子を伺って誰も立てないやつですよこれ。どうしましょう。


「なるほど。今年は度胸のある新人たちが入ったようだ。ではこれからプロジェクトの内容について説明する。これ以降の退室は認めない」


 あーーー、タイミング逃しました。ごめんない、お父さん、お母さん。もし犯罪に関わっていたら絶対に私が通報します。それで死ぬことになっても立派な娘だったと自慢してください。


「来週、12月25日は何の日だ?」


 前の方に座っていた同期が当てられる。その日は世界的に有名な日ですよね。それと癒着や脱税とどういう関係があるんでしょうか。


「……え、ク、クリスマスですかね」

「そうだ。君達が取り組むのはクリスマスに向けたプロジェクトとなる」


 あ、もしかしてクリスマス商戦に向けたプロジェクトってことですか?でも1週間前じゃギリギリ過ぎます。来年の計画ってことですかね。どっちにしても犯罪じゃなさそうですし、少しほっとしました。


「あの、クリスマスって来年のものでしょうか?」

「いや、来週だ。期限は迫っている。私の権限で君達は1週間、通常業務から外してもらった。こちらを優先して構わない」

「発言よろしいでしょうか?」

「うむ、いいだろう」


 よく皆さん質問したりできますね。私は怖くて縮こまってるだけです。そもそも質問していいなら何で私が呼ばれたんですかって聞きたいですし。そんな質問しても仕方ないですよね。


「具体的に何をするかを教えてもらっていいでしょうか。クリスマスに向けてというのは理解しましたが、正直なところ1週間前から何かをして間に合わせるというのは時間的に厳しいと言わざるを得ないのですが」

「そうだな。まず最初に言わなくてはいけなかった」


 次期社長は自分のUSBメモリーを挿してファイルを開く。モニターに映し出されたのは新しいスライドだった。


「君達には、クリスマスに彼女と過ごす上で何をしたら良いかを考えて欲しい。君たちも家族やパートナーと過ごすのではないか?何をしたら喜んでもらえるのか、どういう過ごし方が楽しんでもらえるのか検討して欲しい」


 沈黙で会議室が満たされます。これはつまりどういう話なのでしょうか。


「……あの、これは花宮グループのクリスマス商戦に利用するため、ですよね」

「いや。私が御影の御令嬢、御影ゆかり嬢と過ごすために計画を練りたいんだ」


 更なる沈黙が会議室を襲います。同期も全員絶句してますね。言葉を素直に受け取るとしたら、えっと、つまり……


「……つまり次期社長のデートの手助け、ということですね」


 と、無意識に口に出てました。慌てて口を塞ぎましたが手遅れのよう。そんな驚きの表情ができるんだとむしろびっくりする表情で私のことをみんなが見てます。これは言っちゃいけないことを言ってしまいました。


「その通りだ。私1人で考えるべきだということは重々わかっている。しかし私1人では限界がある。それ以上にゆかり嬢を楽しませる何かをしてやりたい。皆、頼む」


 そこにいるのは普通の高校生でした。なんとなく可愛く見えてきますね。そういえば御影グループの令嬢と婚約していたという話は社内でも有名です。そうですか、一時期ギクシャクしてるという噂もありましたが所詮噂ということでしょうか。


「だから機密扱いなんですね。サプライズプレゼントをしたいってことですか?」

「そう、御影の諜報網は凄まじい。あの人の影響力も図り知れない。花宮の内部にも広がっているだろう。だからこそ新人が中心なんだ。期間が短いのも、事前に準備を始めると必ず感づかれてしまうからだ」


 ただのクリスマスプレゼントにすごい覚悟と準備ですね。


「それに皆さんは大人だ。特に宣伝、営業、企画、商品開発それぞれで優秀な人材だ。流行にも敏感だろう。その経験と知識を貸して欲しい」

「しかし1週間ではデートプランを立てるには店の予約など厳しいところがあると思いますが」

「それに関しては大丈夫だ。去年の時点でレストランは押さえてある。定期的に確認しているから評価も下がっていない。予約には偽名を使っているから把握されていないはずだ。ゆかり嬢の味覚の好みの変化も把握してシェフには連絡してある」

「では、プレゼントと、その後のデートコースですね。確かクルーズ船を貸切にできる階層があったと思いますが」

「それなら花火とかどうでしょう!デートといえば花火です」

「クリスマスですよ?雪の降る階層でホワイトクリスマスが1番ですよ。この前のポスターを撮った階層が素敵でした」

「プレゼントはやはり指輪ですよね。今からならうちのジュエリー部門で割り込めると思います」


 とんとん拍子に進んでいきます。同期の皆さんもどんどん意見交換が白熱していってますね。でも……。


「どうかしたか、変な表情をして」

「あ、先輩。いや、その、プライベートな、それもデートの計画を立てるのに社員を動員するのは職権濫用ではないかと」

「ふむ、そうだな。そうとも言える。だがこのプロジェクトは研修でもあるんだよ。各部署の有力な若手が集まって意見を交換する、今の花宮が大きくなったのは部署間での連携が密だったことも寄与している。その土台になったのは昇進した以前のプロジェクトメンバーの交流によるものだが、その内容は花宮さおり君の恋路の応援だ」


 そんな裏話があったのですか。普通の高校生ではないですが頑張ってる高校生の恋路を応援したくなるのはたしかにそうですね。


「それはそれとして、次期社長には爆発して欲しいです」

「ははは、だな」

「なるほど、私が爆発するというのは面白い意見だ。ゆかりも笑顔になりそうだ。花火案を採用すれば火薬も用意できるだろう」

「それはやめてください!!!!」


 花宮さおり次期社長は不思議な人です。Xプロジェクト……あ、X'masプロジェクトですか。

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