ジャスかな 愛してるゲーム
「ジャスくん、ゲームをしましょう」
「改まってどうしたんだ?」
なんでもない昼下がり、二人は雑貨屋の掃除がひと段落してお茶をしていた。
「えっと、たまには息抜きに遊ぶのも悪くないかなって」
なんと言うことはない。奏多が友人たちと話していた時のこと。最近、パートナーからの愛情を感じられないと愚痴をこぼす友人たちの姿をみて、奏多は自分たちのことを思い返してみた。お互いを信頼しているし、想いあっているとは思う。しかし改めて言葉にするというのは気恥ずかしさもあるし、少なかったかもしれない。怒ったり、感謝したりはしてきたつもりだったけど、今の自分の気持ちをちゃんと正義に伝えただろうか、と。
「なるほど、確かに心の余裕は必要だもんな。けど息抜きでもゲームなら全力を尽くすつもりだ!ところでどんなゲームをするんだ?」
「えっ、あー、……愛してるゲーム」
奏多は正義の顔色を伺いながら、直球ど真ん中の提案をしてみる。正義は神妙な面持ちで奏多のことをじっと見つめた。
「愛してるゲーム……ってどんなルールなんだ?」
「えっ」
まさか知らないとは思わず、奏多がきょとんとして正義の表情を見た。正義は真剣そうに「愛してるゲーム……一体何をするんだ?」と悩んでいる。
「あ、あの。順番に相手に「愛してる」って言って恥ずかしがった方が負けってルールなんだけど」
「簡単じゃないか!よし、奏多、あい…」
「待って待ってゲームスタートって言ってからだよ」
心の準備ができていないタイミングで言おうとした正義の口を手で押さえた奏多は、大きく深呼吸をする。まだ何もしてないのに緊張していた。
「ふぅ、じゃ、じゃあ私が先攻ね」
「よし!どーんとこい!」
「……愛してるっ♡」
覚悟を決めて全身全霊を込めて口にする。目をぎゅっと瞑ってしまったせいで正義の表情は見えなかった。きっと恥ずかしがったはず、そう思って奏多は目をゆっくり開くと、目の前に正義の顔があった。
「そうか!僕はもっと愛してるぞ!」
正義はまるでそれが普通かのようにあっさりと、しかし力強く返事をする。
「あ、あわ……あい……」
「奏多、顔真っ赤だぞ」
「えっ、違っ、うーーー」
クリーンヒットした奏多は、両手で顔を隠しながらうずくまる。自分が想像していた以上に危ないゲームだったと後悔する暇もなく、何が起きているのかわからずに困っているであろう正義を見上げると悔しそうな顔をしていた。
「うーん、恥ずかしかった。僕の負けだ」
「……それでいいの?」
「それでいいも何も、恥ずかしがったら負けなんだろ?僕は奏多の一言目で恥ずかしかったんだから僕の負けだ」
「うー……なら返す必要はなかったんじゃ」
「せっかく言ってもらったのに返さないのは奏多に悪いじゃないか」
一応勝ったらしい奏多はすくっと立ち上がると火照った頬に手を当てながら正義の方を見た。顔を真っ赤にしながらそっぽを向いている様子を見てなおさら愛おしくなる。
「じゃあ私の勝ちで」
「ゲームって言ってたし、勝った人にはご褒美が必要だな。奏多は何かして欲しいことはあるか?」
「何か……」
奏多は顎に手を当てて首を傾げる。して欲しいこと……そもそもこのゲームをしようと決めたきっかけは。
「もう一回言って?」
「もう一回?何を」
「あ、愛してるって」
「っ!?わ、わかった。僕が言ったことだもんな。じゃあいくぞ」
ゆっくりと深呼吸して、正義は奏多の正面にまっすぐ向き合った。
「奏多、愛してる」
「うんっ!」
恥ずかしがる正義を前に満開の桜のような笑みを浮かべる。ゲームにも勝負にも?勝った奏多であった。