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「おはよう、奏多」
「Trick or Treat!!」
正義が朝、起きてリビングにいた後ろ姿の奏多に声をかける。奏多が振り返るとその顔は真っ赤に血塗れだった。その姿のままわーっと正義に倒れ込む。
「どうしたんだっ!もしかして怪我でも!救急車っ!!!」
「あー、待って待って!驚かせてごめんね。メイクなの」
「メイク?今日はハロウィンだったっけ」
「そうだよ〜。だから、Trick or Treat!!」
彼方はそう言って正義に手を出す。なにも持っていない正義はあたふたして困った顔をした。
「ごめん、奏多。お菓子持ってないんだけど」
「そっか。えーと、じゃあ……いたずらしちゃうぞ?」
恥ずかしさを我慢しながらはにかんで言って見る奏多だったが、正義は真顔で首を横に振った。
「いたずらは悪いことだからしちゃダメだ!」
「けどお菓子くれなかったから、その罰だよ。ほら目を瞑って!」
「罰なのか……それじゃあ仕方ない。僕がお菓子を買ってなかったのが悪いんだもんな。わかった。思いっきりやってくれ」
正義は覚悟を決めたように、ぎゅっと目を瞑る。
「そういうのじゃないんだけどな〜」
苦笑しながら正義に近づくと、奏多は少し戸惑ってからそっと正義の頬に手を添えると、フレンチキスをする。
「えっ……?」
「いたずらです……もう終わりっ!」
ぱたぱたと正義をリビングに置き去りにしてニコニコの奏多は部屋を出ていく。ぽかんとしたまま立ち尽くす正義。
正義が顔に残った真っ赤な手形に気付くのは、洗面台に向かった後だった。唇に残った赤いインクに気付いて、思い出して真っ赤になっていたことは、正義の心だけに仕舞い込んだ。