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TRPG SS集  作者: るーちゃん
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正義に誓う 第3章

キーンコーンカーンコーン

終礼のチャイムが鳴る。正義は掃除を終えてあと、急いで奏多の姿を探した。教室や掃除担当の音楽室を見て回ったが見つからず、今日は諦めようかと思った時、校門から出ていく奏多の姿を見つけた。

「奏多っ!」

「えっ、裁貴くん。どうかしたの?」

 正義は全力疾走で追いかけて、しばらくのところで追いつき、声をかけて引き留めた。ただ、正義は引き留めたものの声をかけてしまったことを後悔した。後ろからこっそりついていくはずじゃなかったのか……と。

「いや、奏多を見つけてなんとなく?」

「なんとなくって、じゃあ特に理由はないんだ」

 どことなく焦った様子の奏多に正義は違和感を覚える。いつも僕から話しかけたときの奏多の反応とは違う。いつもはもうちょっと顔を赤らめて?ん?なんで奏多は赤くなってたんだ?僕が話しかけたら体調が悪くなるとか?そんなことよりも、こんなに急いでどこに行くというのか、まさか本当に他の男のところに?好きな人……。

「うん……」

「じゃあ今日は用事があるから、帰るね。また明日」

「お、おう。またな」

 すぐに分かれるとは思わなかったが、これはこれで正義にとっては好都合だった。少し残念に思ったのは……残念?何が?正義はちょっとした迷いを振り払い距離ができてから、奏多が角を曲がったあたりで尾行を開始した。曲がり角を覗き込んだときには、奏多は割と全力で走っていた。まさか尾行するのがばれてたのか?と、思いながらも慌てて追いかける。

「奏多、あんなに急いで。そんなに早く会いに行きたいのか……好きな人……だからな」

 西町に言われてから、今日一日ずっと引っかかっている何かに気を取られつつも一定の距離を保ってついていく。忍者を題材にした戦隊ものを見ていた時に練習したものが役に立っている。やっぱりヒーローは最高だと、余計なことを考える余裕もあった。普段から鍛えているおかげで、全力で走る奏多の速さでも息を切らすことなく着いていった。そのまま15分ほど、かなりの距離を走ってきた。奏多は何かに気を取られているのか、たまに振り返っても正義に気付くことはなかった。

「かなり来たけど、この辺は……奏多が前に住んでたって言ってた場所……」

 確か奏多の実家がこの辺りにあったはずだ。正義は昔、この辺りでも活動していたので裏道など見覚えがある街並みだった。でも奏多の実家は火事でなくなったって言ってた気がする、僕はその燃える家を見たはずだった。あれ?じゃああの時の女の子が奏多だったのか……?

「ん?ここは……家か」

 それからしばらくして、奏多は一軒の家に入っていった。表札には「枝園」と出ている。実家?なのか?けど奏多から両親の話は聞いたことはない。あの火事で無事だったとも。じゃあ、親戚の家……保護者は母方のおばさんだったはずだ。

「よぉ、少年。うちの娘に何か用かぁ?ずっと後ろをついてきてたよなぁ」

 考え事をしながら立ち尽くしていると、正義は後ろから肩をたたかれた。振り返ると、明らかに不審者に見える男が立っていた。焦点が合わず泳いでいる瞳孔、やつれた頬、血色の悪い顔色、荒い呼吸。犯罪者と言われれば納得の姿に正義は距離を取ろうとする。

「誰だお前……」

「大人に対する口調がなってないなぁ。枝園正義(えだそのまさよし)、奏多の父親だよ」

「お前が……?でもそうか。僕は裁貴正義、奏多のパートナーだ」

「そうかそうか、いつも娘が世話になってるなぁ、迷惑かけてねぇか?」

「いや僕の方が迷惑をかけてばっかで……」

 正義(まさよし)が正義の方に手を回す。彼は避けようとした正義を捕まえると、肩を組み、正義の耳元で耳打ちした。

「なぁ、うちの娘は可愛いよなぁ。わざわざ追ってくるってことは好きなんだろぉ?いいなぁ、青春だなぁ」

「ち、違う、奏多はそういうのじゃない……」

 正義(まさよし)の腕を振り払い、正義は改めてかなりの距離を取った。こいつはやばいと正義の第6感が言っていた。

「なんだ、違うのかぁ?別にお前がヤりたいってんならヤらせてやってもいいぞ?」

「やるって何を……」

「なんだぁ?高校生にもなって初心だなぁ。ヤるって言ったらあれだよぉ、男女のア~レ!」

「なっ……自分の娘をなんだと、奏多は物じゃないんだぞ」

 正義は軽蔑の目を正義(まさよし)に向けた。正義は目の前の男が言っていることが最初は理解できなかった、だが大切なものを踏みにじられたことはすぐに理解していた。

「父親には娘を自由にする権利があるんだよぉ。大人しく俺の仲間になればいい思いさせてやるぞ?」

「ふざけるなっ、奏多は奏多だ、お前が自由にできるものか!」

「はぁ、お前、面倒くさいのなぁ」

 正義(まさよし)は頭を掻きながら、正義を無視して家の中に入ろうとした。正義は目の前をゆっくりと進んでいく正義(まさよし)の腕をつかみ、引き寄せる。

「お、おいっ。待てっ!!」

「なんだよ、お前にはもう用はないがぁ?」

「奏多に会わせてくれ……」

 正義にとってこの男にお願いするのは癪だった。ただ、今ここで引き下がるわけにはいかない。この男と奏多の関係をちゃんと把握しておかなければ、もしかしたら奏多はこいつに脅されてるのかもしれない。

「おいおい、娘のストーカーに娘を会わせる親がいると思うのか?」

「正義が来てるって、伝えてくれるだけでいい。それで奏多は出てくる」

「自信満々だなぁ。まぁ声かけるくらいはいいぞぉ。出てくるかどうかは分からないがなぁ」

 そう言って家の中に入っていく正義(まさよし)を正義は睨むような目で見つめていた。あの男が父親ならば、奏多の家庭環境は恵まれたものじゃない。奏多が実家に戻っているのは何か理由があるはずなんだ。しばらくして、浮かない顔の奏多が外に出てきた。

「……裁貴くん?なんでここに来たの……」

「奏多、いや、最近様子が変だったから……気になって」

「だからって……まぁ、来ちゃったものは仕方ないね。大丈夫、いつも通りだよ」

 奏多は正義に笑いかける。一週間前の笑顔と何も変わらない笑顔、変わらないからこそ、正義にとって奏多のその笑顔が不気味だった。

「あいつは奏多の父親なのか?」

「うん……そうだよ」

「そうか……本当に大丈夫なのか?」

 正義にとっても何が聞きたいのか分からない。だけど、奏多なら何かあれば僕に相談してくれると信じている。それくらいずっとパートナーだったのだ、仲間を信じなくて何がヒーローだ。迷いはまだ消えない。

「うん、大丈夫だよ……」

 奏多は気づかないでほしいと願いながら、目の前に立つ少年と目を合わせた。奏多は今の状況を正義に知られるのが恥ずかしかった。正義のヒーローの横に立つ自分がこんなに情けなくてみじめな姿をさらすわけにはいかなかった。奏多はもう一度覚悟を決める、正義の隣に立つ資格を取り戻すまでは隣には立たないことを。

「ありがとう、ただ、今日はここまで……もう帰って?」

「なんだよ奏多、もう少しくらい……」

 一歩下がった奏多の手首を正義が掴み、引き留める。しかし奏多は思いっきりそれを振りほどいた。奏多の手首に赤い手痕が残っていた。正義は強く握りすぎたことを後悔しつつも、それを振りほどいた奏多に驚く。

「帰って……早く」

「待って、奏多。まだ話は終わってない……」

 奏多は何かを確かめるようにひと言だけ呟いて正義に背を向けた、正義の言葉には目もくれず。その姿を正義はただ見送ることしかできなかった。正義はそれ以上言葉を紡ぐことをしなかった、できなかった。奏多の抱える何かに、あと少しで届きそうなのに、それが何かわからないから。

「奏多ぁ、そろそろ家に戻ったほうがいいんじゃねぇのかぁ?門限はとっくに過ぎちまってるぞぉ?」

「えっ、一度家に帰ったじゃない!」

「何を言ってるんだぁ、門限を過ぎてからの無断外出はしつけの対象だろうがぁ」

「……そんな……すぐ帰ります」

 家の中から出てきた父親の姿に、奏多が一瞬、恐怖の反応を示したのを正義は見逃さなかった。そしてその後の父娘の会話の内容がおかしいことも。だが、それを奏多に確認する前に、彼女は家の中に戻ってしまった。残った二人は無言のまま、片方は見下しながら、片方は敵意を向けながら見つめ合っていた。

「正義だったかぁ?これで気は済んだのかぁ?」

「分からない。分からない、が、お前が敵であることははっきりわかった」

「あん?敵?何言ってんだぁ?」

 正義(まさよし)の見下していた態度は一転して、敵意に変わる。ただこの状況で正義にできることは何もなかった。

「だが今日は帰る。奏多に帰れって言われたからな。でも奏多に何かしたら僕は許さない」

「許すもぉ、何もぉ、俺が娘に何をしたってお前に何かを言われる筋合いなんかねぇんだよぉ。さっさと帰んな、ガぁキぃ」

 正義は拳をきつく握り締めながら、枝園の家を後にした。このまま終わるつもりはない、だがただの高校生に何ができるというのか。

「奏多ぁ、今は21分だから21発だなぁ。いやぁ、過去最高回数だからなぁ、楽しみだ。お前が門限に遅れなかったからぁ、どうしようか困ってたんだがぁ、丁度いいおもちゃが来てくれて助かったなぁ。明日はお礼を言っておいてくれよ」

 少し歩いたところで後ろから、正義の耳にそんな正義(まさよし)の声が聞こえた。すぐに正義の脳裏にしつけと言っていた正義(まさよし)の姿が思い浮かぶ。21発ってまさか……正義は急いで振り返る。開いたドアの隙間から正義が見たのは、今まさに蹴られそうになっている奏多の姿だった。その瞬間にドアは閉じてしまい、正義にはどうなったのかはわからない。21という数字が正義の頭をよぎる。

「僕は……正しくても……奏多を……助けられないのか……?」

 予想が正しいのであれば、助けなければならない、だがここで飛び込んだとしてそれが根本的な解決になるとは思えなかった、昔の僕なら何も考えずに飛び込んでいたのに……奏多が早く帰れと言っていた意味が分かったような気がした。

「必ず、必ず助けるから。待っててくれ、奏多……」

 何もせずその場を離れることは正義に反する。それでも奏多を救うためには自分一人の力では足りない。正義は、自分の正義を掲げてから初めて、自分の正義を裏切ったのだった。大切なパートナーを救うために……。

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