出会い編そのご
いま私は、テレビのファンタジー物でよく見る両刃の、剣と評して差し支えのないものが突きつけられている。
銃刀法違反どこ行った。そもそもどこに隠し持っていたのか。
さっきまで目の前の美人は手ぶらだったはず。どこにも刃物らしきものなんか持ってなかった。もしそんなのを持ってるのが見えてたら会話なんて試みず、一目散に逃げだしてたもの。
今日、運がなさすぎないだろうか。残業なんて序の口だった。
「答えて。沈黙も嘘偽りと取るわ」
「ひっ だ、だから私は、ここに住んでる三柳という者で、こ……ココはわ、和歌山にあるマンション、です」
「ワカヤマ? ……アロイラでもないわけ?」
「あ、アロイラ……が、何なのか、わ……わからない、です、ごめんなさい」
「…………ねえ、アナタ。ナディランヴォルグ家って知ってる? ガールゴギナスでもいいわ」
「し、知、らない、です」
泣きそう。
なんなの。アロイラとかナディ……なんとかとか、知るわけないでしょ。日本語で話してよ。
私に剣を突き付けたまま、目の前の狂人――――もう狂人以外の何者でもないと思う――――は眉間に皺を寄せて何かを考えている。
どうでもいいから剣を下ろして欲しい。そして私を逃がして欲しい。誰か助けて。
「…………まさか……いえ、でも……」
殺されるのかな。嫌すぎるし死にたくない。まだ二十代後半で人生を終えるとか考えたくもない。
ダッシュで玄関まで走ればどうにかなるだろうか。その前に動いたら突き刺されるのだろうか。
怖くて動けない。泣き喚いていないだけまだ理性を保っている方だと思って欲しい。
果たして、1分ばかりが経過した。
目の前の人物がすっと剣を下ろして、私を見る。
……殺される、ことはなくなったの、だろう、か。
「非礼を詫びるわ。ありえないことを考える余裕がなかったの。アナタがダンジョンマスターだと想定する方がまだ現実的だったのよ」
「え、は、……だん、…………何……?」
「ダンジョンマスター。アナタを見る限りココにはそういう存在がいないみたいね。はあ……ホント御伽噺だとばっかり思ってたのに」
「なに、を、言ってるの、です……か?」
「あ、怖がらせてごめんなさい。民草に刃を向けるなんて……ドゥイエンヌの名に懸けて必ず償うと誓うわ」
よくわからないけれど、殺されることはないらしい。
名を懸けるとか偉くご大層な言い方だけど。あとドゥイエンヌとか一切知らないけど。
「教えて貰えるかしら。ここは何という世界なの?」
「せ、世界……? え……ち、…………地球?」
「チキュウ。なるほど。やっぱり全然知らないわ。アナタもインペリウム大陸を知らないでしょう?」
知るわけがないし、地球にそんな大陸はない。
「その顔はやっぱり知らないってことね。よくわかったわ」
そう言って、ふふっと小さく笑う。
先ほどまで険しい顔で私に刃物を突き付けていた人物と本当に同一人物なのだろうか。
恐ろしいまでの美人なのは変わらないのだけれど、雰囲気が変わりすぎて頭がついてこない。
「単刀直入に言うわね。アタシはインぺリウム大陸から来た、探索者。オリヴィア・レグ・ドゥイエンヌよ」
シュン、と、どうやったかまったくわからないが長物を消し、右手を胸に当てて、目の前の美人――――――オリヴィアさんが頭を下げる。
「わかりやすく言うなら、そうね。異世界からの来訪者ってことになるわ」
……頭沸いてんのかこの人。
次で料理ターンに戻ります。