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出会い編そのさん

『事故物件だったりしませんか?』


 誰かのその一言で自分が凍り付くのがわかった。

 自慢じゃないけど、私は怖い話とかそういうものが苦手だ。ホントに自慢にならないのはわかってる。

 テレビで本当にあった怖い話系の番組が始まると即座にチャンネルを変えるし、お化け屋敷なんか以ての外。あんなところ入る人の気が知れない。どうしてお金を払って自分から恐怖のどん底に突き落とされなければならないのか。

 友人にそういったら、私がジェットコースターに嬉々として乗る方がありえないと言われたけれど。

 価値観の違いって時に拭えないよね、とその場はお茶を濁したのは記憶に新しい。


 とにかく、だ。

 一気にお風呂場への恐怖心は別のものにすり替わった。

 ストーカーが死んでるのはモチロン怖いけど、幽霊的なものがいるかもしれないというのは私的にさらに怖い。

 ホントに。マジで。洒落にならないくらい。

 だって、ストーカーの話では警察に電話しようと思えたけど、今ホントにどうしたらいいのかわからないし、携帯を持つ手が尋常じゃないくらい震えてるもの。


 そんな私の状態は勿論画面の向こう側にいる誰かに伝わるはずもない。

 私からの追加投稿がなくても、ピロリン、と何度も携帯がリプ音を立てる。携帯に文字の羅列が表示されるが、目が滑って頭に内容が入ってこない。


 どうしようどうしようどうしよう。


 頭の中が混乱で埋め尽くされて何をどうしたらいいのかが判断出来ない。

 だって、もし本当にお化けだったら、さっき見たのが亡霊だったら、透けてたりしたら、断言する。

 泣く。

 アラサーの女が恥も外聞もなく、泣き喚く。


 だって、お化けよ! 怖いじゃない! 怖くない人は今すぐ私の部屋のお風呂場に来てさっきの人影の確認をしてくださいお願いだから!!


 すでにちょっと泣きそうになりながら恐る恐るお風呂場の方へ視線を向ける。怖い。

 因みに私が今いるのはダイニングだ。1DKに住んでます。風呂トイレは別で越してきて5年になる。

 今の今まで5年間、特に不思議な現象はなかった。事故物件だとも聞いていない。もし聞いてたらどんなに安くても絶対引っ越さなかった自信があるもの。


 かたかたと震える手でぎゅっと携帯を握りしめる。


 お風呂場の方から物音は何もしない。

 嫌な気配というか、そういうものも感じない。もちろん霊感なんかないから当てにはならないかもしれないけれど。


 深呼吸をして、携帯をもう一度確認する。

 私の呟きは流れて、当たり前だけれど色んなみんなの呟きが表示されていた。


 リプライ欄を開く。

 基本的にネタとして扱われていたけれど、私からの追加投稿がないのでいくつか本当に心配をしてくれているような内容も入っていた。


『再確認はされたのでしょうか。写メがあれば見たいですが、万が一リアルな話なのでしたら死体にしろ霊にしろ外に出られた方がいいかと思います』


 実在の人物か霊的なものか。

 残念ながら5分間ただただ震えていただけで、まだ浴室は未確認である。情けなくない。怖いもの。だって、怖いんだもの!

 死体より幽霊の方が怖いのかと問われれば、本気で死体 < 幽霊ですけど!?

 あ、でも死体があったらあったで後々幽霊になられたら怖い!


 この部屋から引っ越すことがたった今決定した。


 ある程度、真剣なアドバイスや馬鹿な話を見たからか、落ち着いてきて、震えも治まってきた。

 結論としては、一旦外出することにした。だって死体がいる部屋で寝たくないし、幽霊なら泣く。

 ささっと財布を用意してバッグに放り込む。

 あとは外に出てから友人の誰かとか弟呼び出したりとかして一緒に確認すればいい。ホントに幽霊なら警察呼んだら馬鹿にされるっていうか頭おかしいと思われるし……。

 よく考えたらSNSよりリアルの友人とか家族に相談すればよかった。よっぽどテンパってたのね、私……。


「さて…………」


 ともかく、漫画喫茶かビジホに着いたら友人なり家族になり連絡をするとして。後の問題は、ダイニングから玄関に行くまでにドアが開けっ放しの浴室の前を通らないといけないことだけだ。


 …………どうしよう、一番の難問が残った。


 見たくないけど、確実に視界に入ってしまう。

 目をつむって通り過ぎればいいのかもしれないけど、何も見えないのも怖い。だって、もし目に見えない何かの気配とか目を瞑ってる間に感じたら、二度と目をあけれなくなるじゃない! 見えるのも見えないのも怖いんだけど、詰んでない!?


 すでに半分涙目になりながら、浴室を睨む。なんにも解決しないけど。

 本当に、なんで私がこんな目に合わないといけないのよ……。残業死ぬほど頑張ったのに神様あんまりな仕打ちです。


「……行こ…………」


 神様を呪っても何も解決しない。

 とにかくお風呂場は見ないように足早に立ち去る。目は瞑らない。瞑ったら怖いから。

 バッグを肩にかけて気合を入れる。

 大丈夫、私は大丈夫。朝の占い最下位だったけど、それは残業でチャラになったはず。ラッキーランチとやらでオムライス食べたもの。たまたまだけど。


 意を決して一歩踏み出す。っていうか、ダッシュしよう。

 このまま玄関まで一気に走り抜ければ見たくないもの見ないで済む――――――


「あー、やっと回復した。意識飛んでたわね、これ……。安全地帯(セーフゾーン)みたいでよかった。ったく、ダガーグールまじないわ。曲芸かっつの」


 ――――――……何か聞こえた気がするのは私の恐怖心からの幻聴なのでしょうか。


「ってか、何ここ? 何この入れ物みたいなの。アタシ確か転移トラップで逃げて…………ダンジョンの安全地帯(セーフゾーン)にこんなとこあったっけ……?」

「…………」

「何階なのかしら。こっち明るいけど……………………」


 ばっちり目が合った。


「……」

「……」


 無言。

 この場合、私はどう反応するのが正解なんだろう……。

 死体じゃなかったっぽいしストーカーでもなさそうだし、幽霊的なものでもなさそうではあるんだけど……まさか第四の選択肢が出てくるとは思わなかったからどうしたらいいかわからないというか。

 いや、まあ、とりあえず。


「貴方は……」

「アンタだれ」


 こっちのセリフですけど!?

続・テンパり中

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