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豆乳とかがいいと聞く 〜ささみの大葉チーズ揚げとコーンスープ〜

「……」

「ねえ」

「…………」

「あのさ」

「………………」

「……一心不乱に人の胸揉むのやめてくれない?」


 相変わらず人の家のお風呂場からバタバタと走ってきたかと思うと、珈琲を飲んでいた私を自分の方に向かせて唐突に胸を鷲掴んできたオリヴィアに苦言を申し立てる。

 あまりにもナチュラルにすべての行動がおこなわれたので一瞬頭がついてこなくて、されるがままになっていたのだけれど、流石に1分以上も揉まれっぱなしだと冷静にもなる。

 というか、ホントに何事だというのか。

 いきなり胸を揉みまくられるこちらの身にもなって欲しい。同性間でもセクハラは有効になるということを滾々と説教してやろうかしら。


 いい加減意味が分からないし、無言のまま何も言わないオリヴィアの手を(はた)き落とす。

 せめて理由を言いなさい、理由を。

 理由を言われても納得はしないとは思うけど。

 私が手を(はた)き落とすと、オリヴィアはそのまま項垂るように床に手をついた。


「オリヴィア?」

「………………し……て……」

「なに? もうちょっと大きな声で……」


 うつ向いているから表情はわからないけれど、肩が震えている。

 ……まさか泣いてないわよね。

 心配になってオリヴィアの肩に手をかけようとしたところで、涙すら浮かんでいないオリヴィアに逆に肩を掴まれてそのまま前後に揺さぶられた。

 何、ちょっと、酔う、から、やめて。


「どうしてマスミはそんなに胸大きいのよぉー!! アタシが今日ラーミエルになんて言われたと思う!? ちょっとアタシよりおっきいからってアイツ……! ランクで勝てないからって減らず口ばっかり……ラーミエルなんてそりゃアタシよりはちょっと……ほんのちょーっと大きいかもしれないけど、マスミの足元にも及ばないくせにー! マスミなんか可愛くて料理も完璧でちょっとお人よしだけど性格もいいし胸も大きいんだから!! 大好き!!」

「私関係ないでしょ。後半意味わかんないから。何言ってんのあんた」


 ラーミエルって誰なのかまずわからないし、まずその話に私は関係しないでしょう。

 事あるごとに私を揶揄おうとするのだけやめてほしいんだけど。


 オリヴィアを宥めながら、要点だけまとめて話すように促す。

 テンションが意味不明な方向に走っていたオリヴィアだけど、まくしたてたら少しは落ち着いたのかようやくまともに会話出来るようになった。


 なんというか、小学生の口喧嘩かというような感じだったけど、要するに、同業のライバルに胸が小さいと馬鹿にされたという話らしい。


 まあ、こういってはなんだけど、確かにオリヴィアは少々小振りではある。

 初めは鎧のようなものを着ているから邪魔になるし潰しているのだろうと思っていたのだけど、流石に私の部屋の中で鎧で居られるのも落ち着かないのでTシャツを貸してあげたときに判明した。

 でも、B前後くらいのサイズはありそうだし、オリヴィアはそれでスタイルが物凄く綺麗なのだから気にする必要はないと思うのだけど。それに、


「こんなの脂肪の塊よ?」

「今度それ言ったらマスミでもぶん殴るわよ」

「あ、うん。ごめん」


 目がマジだった。


 ラーミエルのやつ、とまだ怒りが収まらないのかぶつぶつと文句を零しているオリヴィアをそっとしておいて、少し考えてみる。

 私自身は今まで胸の大小で一喜一憂したことはないからよくわからない感情ではあるのだけれど、オリヴィアは真剣に悩んでいる様子だし……あるに越したことはないんだろう。たぶん。

 ……いえ、そういえば、昔一度友人たちと温泉にいって驚愕を覚えたことがあったわ。

 あのときばかりはあっても邪魔なだけとか、口が裂けても言えなかった。本当にないって、ああいう状態なのね……。


 懐かしい思い出に少しばかり思いを馳せて、差異はあれど落ち込んでいるオリヴィアを見て、そのあと豊胸について若干調べたことがあったのを思い出した。


「……要するに、胸を大きくしたいのね」

「! 手伝ってくれるの!?」

「手伝うっていうか、気休めみたいなものだけど……」

「揉むと大きくなるらしいわ! アタシはいつでもオーケーよ!」

「揉まんわ。っていうか、それ迷信だから。……異世界でもあんのね、その迷信」


 両手を広げて満面の笑みで待たれても、しないから。

 先ほどまで盛大に落ち込んでいたのに、一瞬で変わるオリヴィアの表情に苦笑する。

 懐かれて悪い気はしないんだけどね。

 オリヴィアの頭をひと撫でして、キッチンに向かう。エプロンどこにおいたかしら。


「マスミ? 何をするの?」


 私がキッチンに移動すると、慌てて同じように立ち上がってきたオリヴィアが不思議そうに小首を傾げる。


「お腹空いたでしょ。一石二鳥の料理でも作ってあげるわよ」

「イッセキニチョウ?」

「えーっと、お腹も膨れて胸も大きくなるかもしれない料理ってこと」

「異世界にはそんな食べ物があるの!? す、すごいわ!! マスミが作りだしたの!? やっぱり本当は錬金術師なんでしょ!?」

「そんなファンタジー溢れる職業じゃないし、大きくなるかも(・・)だからね」


 迷信よりはまだ科学的根拠がある、だろうとは思うけど。

 目をキラキラと輝かせてるオリヴィアにいつもの位置までさがるように指示して、冷蔵庫を開ける。

 相変わらず大量に貰ってあるトウモロコシを取り出す。夏野菜には本当にしばらく困らないなぁ、これ。


 鍋にポットのお湯を入れて塩を適量投入。すでに沸いてるからすぐ沸騰して便利よね、ポット。トウモロコシは薄皮一枚残して鍋に入れる。残しておくと茹で上がったときにひげまでちゃんと全部とれるようになるからね。10分にタイマーをセットして、と。

 玉ねぎも皮を剥いて粗みじんに刻む。フライパンを用意したらバターと玉ねぎを入れて、玉ねぎが透き通るまで炒めておく。こっちは5分くらいで出来上がるので、火を止めてこのまま少し放置。


 チルドからささみを取り出して、下処理。筋取っとかないと結構気になるからね。筋の取り方はこの間テレビで見た簡単に取れる方法を実践してみる。あ、ホントに綺麗に取れるわ。コレ。

 筋が取れたら切れ目を入れて開いていく。開き終わったら、スライスチーズと大葉を乗せてくるっと巻く。巻き終わったところはパスタを刺して止めておくと、あとあとそのまま食べられるから私はいつもそうしてる。爪楊枝だと焦げたり抜けたりして気になるのよね。


 小麦粉と卵とパン粉を出して、順番にささみにつけたら一旦準備終了、っと。


「ねえ! マスミもそれを食べてたから大きいの?」

「…………まあ、そうね。無きにしも非ずじゃないかしら」


 たぶん、私は遺伝だけど言わぬが華だと思うので黙っておく。

 私の言葉に一層楽しみになったらしく、オリヴィアが鼻歌を歌いだした。……信じる心も大事だと思うのよ。


 心の中で折り合いをつけている内にトウモロコシが茹で上がったので、皮を剥いて粒を包丁でこそぎ、玉ねぎを炒めていたフライパンに入れる。

 再び火をつけたら、豆乳と水と鶏がらスープの素を入れて弱火で煮詰める。トウモロコシを茹でてた鍋は洗っておいて、深めのフライパンにチェンジ。揚げ油を入れて温めておく。

 豆乳が沸騰しないように直前で火を止めて、粗熱を取り、ハンドブレンダーを用意。ミキサーはね、洗うの大変なんだもん。好みのところまで攪拌出来たら、コーンスープの完成。今回は裏ごしはやめておこ。粒々の感触も結構好きなのよね。


 揚げ油もういいかな。……うん、大丈夫そう。

 下準備をしておいていたささみを順番に揚げていく。あ、梅肉入れてもよかったかも。まあ、また今度でいいか。


 あとは何があったかな。ザクロはないし……キャベツとアボカドと豆腐とプチトマトのサラダかな。切るだけで出来るし、ドレッシングも何種類かあるしね。

 頭の中で算段をつけて、ささみをどんどん揚げていく。ささみが揚がるごとにオリヴィアのテンションも上がってる気がするのは、たぶん気のせいじゃないと思う。お肉好きだものね、オリヴィア。

 揚げながら冷蔵庫から野菜を取り出し、キャベツはざく切りに、アボカドはスライスしてお皿に盛り付ける。プチトマトは洗ってヘタを取って、豆腐は賽の目切りに、っと。


「オリヴィアー、そろそろ出来るからフォークとか持ってって」

「オッケー! すっごくいい匂いしてて待ちきれないわ!」


 揚げるささみが残り少なくなったところで、オリヴィアに食器類を運んで貰うように伝える。

 こういうときふたりいるって便利だなぁ、とは思う。

 しっかし、あの子、尻尾があれば振り切れてるんじゃないかしら。


 最後のささみが揚げ終わり、大皿にすべて盛り付けたらオリヴィアに手渡す。

 ご飯はどうせ大盛りだろうから、めいっぱいお茶碗によそって。


「はい、完成」

「美味しそう! これがマスミの世界の豊胸メニュー……! 美味しくて胸も大きくなるなんて……マスミは神様なの!? アタシの女神!!」

「はいはい……。100%じゃないし、あくまでもそういう効果があるって言われてるだけ………………聞いてないわね」


 いつもより物凄く熱心に祈りを捧げてるオリヴィアに苦笑しか出来ない。

 まったくないわけじゃないんだし、そんなに気にすることないと思うんだけどねぇ。


「ふふ……! これでラーミエルに貧乳だなんて言わせないわ……っ マスミ、ありがとう!!」

「うん、まあ、頑張りなさいな」


 そんなに即座に効き目なんて出るわけないんだけど。

 嬉しそうにささみの大葉チーズ巻きにかぶりついて満面の笑みを浮かべているオリヴィアに、まあ、たまにはこういうメニューも組み込んでいってあげようかな。と、密かに頭の中でメニューを巡らせた。

コーンスープ

トウモロコシ2本・玉ねぎ1/2個・バター10~20g

豆乳500cc・水300cc・鶏がらスープの素大さじ1・塩胡椒(好みで)

ささみの大葉チーズ揚げ

ささみ(好みの本数)・スライスチーズ(ささみの本数分)・大葉(ささみの本数分)

小麦粉(適量)・パン粉(適量)・卵1個

サラダ

キャベツ(好みで)・アボカド2~4個・プチトマト(好みで)・豆腐1/2丁

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