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袋叩きにあったのは

 ルガーが騎士団本部の中庭に出てきたのは昼過ぎになってからだった。

 ルガーはリモが座っていた石造りのベンチに並んで腰を下ろす。

 「メシ食ってんのか?」

 リモはサンドイッチを手に持っている。

 (事件の事を考えてたんだ。にしても……今回はちょっと……スゴイね……何があったの?)リモはルガーの顔を眺めた。

 ルガーの顔は腫れあがって別人のようだった。瞼、唇、頬が風船のように膨らんでいる。

 「報告書を持って廻った先の中隊長、大隊長、団長に殴られた。あとモントーネの子分共にもやられた」

 (殴られたぐらいでそこまで酷く腫れあがるもんなの?)

 「マンチェとノーチェには、待ち伏せされて火かき棒で殴られたからな」

 (火かき棒って……鉄製の?)

 リモは大きな目をさらに大きく見開いて言った。

 「おまえの国じゃ火かき棒を鉄以外で作るのか?」

 (よく死なないね……君の頑丈さはちょっとした特異体質の域だよ)

 「まぁな、生まれつきだ。オマケに騎士団憲章前文の朗読を千回もやらされた。そっちの方がきつかったくれぇだ。ついさっきまでかかった。喉がカラカラだ。何かくれ」

 リモはルガーに水筒を渡した。ルガーはゴクゴクと飲む。

 「ブハッ!! おい! 酒じゃねぇか! お前いつもこれ飲んでンのか?」

 (そうだよ)

 「そうだよって……おまえ……涼しい顔して……アル中じゃねぇか」

 (ちょっとした気付けだよ。ところで前文って何だっけ?)

 「アレだ。 『マレク騎士団は王と国民の生命・身体・財産を保護し、犯罪の予防・捜査を通じて社会秩序を維持する事を誓います』ってヤツ」

 (ああ、アレね。いい理念だね)

 「おまえらは騎士団内の秩序も守れないがなァ」

 モントーネが二人が座るベンチのすぐ目の前に立っていた。

 「ルガー、おまえのクビ(退団)が近いって噂になってンぞォ。外国人のおまえは騎士団に籍を置くことでマレクの市民権も得ている。市民権を剥奪されたら、そン時はすぐにオレが叩きだしてやる」

 ルガーがベンチから立ちあがった。

 (丁度いい、モントーネ。君を探してた)

 リモはルガーを制止するかのようにモントーネに話し掛けた。

 「オレにテレフォノで話しかけるたァ珍しいな。オレに惚れたかァ?」

 (誰からのタレコミで教会にいた?)

 「教えてやる義理もねェが……偶然夜の見回りで居合わせた。それだけだ」

 (見回り? 当直でもないのに?)

 「自主的な活動だ。文句あンのか? じゃあなカマ野郎!」

  モントーネは立ち去ろうとした。

 (『薔薇の館』に通ってるね)

 モントーネが止まって振り返る。

 「おまえ……急に何を……」

 (騎士団で買春はご法度。しかも男色とはね)

 リモは立ち上がり、モントーネに近寄る。

 (バレたら出世の道は無い。脇が甘いよ。誰からのタレコミで教会にいた?)

 「……団長のご命令だ」

 (どんな?)

 「教会でコロシがあった。迅速に処理せよ。他言無用とのご命令だ」

 (団長が君の部屋に来たの?)

 「そうだ。驚いたぜ」

 (何時頃?)

 「二時前」

 (君達だけであのオークに勝てた?)

 「舐められたもんだ。オレが静止魔法を掛けてマンチェとノーチェがフクロにする。あれだけのデカブツだ。ちったぁ苦労したかもな」

 (オークの遺体は何処?)

 「裏の氷室アイスハウスだ」

 (検死? 監察医は?)

 「検死は午前中で終わってる。監察医が誰だかまでは知らねぇ。いつものギャラハットだろうな」

 (聞きたいことは以上だ。行っていいよ)

 モントーネを後に残してリモが騎士団本部の建物に入る。ルガーが後を追う。

 「カンオチ(完全自供)だな。いつ調べた?」

 (カマをかけただけだよ。両刀使いだって自分から告白したし)

 「カマにカマ掛けられたら世話ねぇな」

 リモがルガーの顔面に肘鉄を食らわす。ルガーの鼻から血が垂れた。

 「『薔薇の館』ってのは?」ルガーは鼻を抑えながら聞く。

 (非公認の娼館だよ。以前、客が起こした暴行事件の捜査で行ったことがあったろ? 王都で男娼がいる店はあそこだけだよ。例の金歯の店主の)

 「ああ、あの胸糞わりぃ店か」

 回廊をいくつか曲がって裏庭に出た。リモはドーム状の建物を指差す。

 (検死結果を手に入れて。僕は王都で調べたいことがある。夕方君の部屋で落ち合おう)

 リモはさっさと裏庭の木戸から通りへ消えていった。

 ルガーは円形状の氷室の外側をぐるりと半周してから入口に近づく。

 入口に巨漢のドラレスが立っているのが見えた。ドラレスはルガーを見ると露骨にイヤな顔をした。

 「こんなトコに何をしにきたんだ、ルガー? 道にでも迷ったか? よそ者のお前らしいこったな」ドラレスが言った。

 「うるせぇ、デブ。モントーネの腰ぎんちゃくの分際でここで何してやがる」

 「見張りだ。特にてめぇみてぇなのを入らせないための……な!!」

 ルガーとドラレスはほとんど同時に互いに襲い掛かった。

 ルガーの右パンチが空振る。瞼の腫れで視界が塞がれて距離感が掴めない。

 次の瞬間、ドラレスの体当たりがルガーに炸裂する。

 ルガーの体がボールのように宙を飛ぶ。

 ルガーのはっきりしない視界に雲と太陽が映った。太陽はすぐに木洩れ日に変わり、ルガーは自分の体が何かに衝突するのを感じた。

 ガッシーーーン!

 通りを歩いていたリモは物音で振り返る。

 騎士団本部の高い塀の向こうで一本のモミの木が大きく揺れているのが見えた。

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