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王子の流す涙は

 「王子! しっかり!!」

 トクビルはピスタを抱きしめて叫んだ。

 「さっきの……ワインか?」

 ピスタの声はとても小さかった。

 「いかにも。油断されましたな。ご自分が暗殺されるとは思いもしませんでしたか? ご自身は謀略を図っておいてそれはないでしょう」

 トクビルは火傷でただれた顔をピスタに近づけ、ピスタにしか聞こえない声で続ける。周囲は怒号が飛び交い騒然としている。

 「まだ死んではなりません。お伝えしなければならない事があります。お父様の事です。前王を殺したのは私です。ちょうどこのような毒殺です」

 「……知らない……と……でも?」

 「ほぉ。ご存じでしたか。それは話が早い。でも覚えてはいらっしゃらないでしょう? 大臣の誰かにでもお聞きになったのでしょう。あの時、王はテーブルをひっくり返してのたうち回りました。その拍子に五歳の王子、あなたのお顔に毒入りワインの飛沫がかかりました。あなたがペロリとそれをお舐めになったせいで、私達はパーティを組んで、ドラゴンを倒す旅に出るはめになったのです。王妃様が王子を助けろと泣きわめくものですから。本当に五月蠅い方でした。夫の毒殺を私に頼むような汚い性根をお持ちの方でしたのに」

 ピスタがトクビルの顔に震えながら手を伸ばす。まるで顔を掴むような仕草だった。

 トクビルはその手を強く握る。

 「やはり母親ではあったのでしょうね。でもその時は私も本気で王子を助けるつもりでしたよ」

 トクビルはピスタの耳元に顔を移動させる。さらに小声になった。

 「あなたに死なれては困りましたからね。王妃様も始末してあなたの後見人になるという筋書きがございましたからね。それに王子……あなたは私の息子でございましたから」

 ピスタは目を見開いて口を開けた。「カハッ!」という呼吸音がした。

 「ええ私の子です。王妃様は夜の声も五月蠅い方でしたよ。実の父親を陥れようとするからこのような目に合うのです。どうです? 驚きましたか? ん? ちゃんと聞こえてますかァ? あれ……もう死んでますね」

 参列者の中にいた医師のギャラハットがピスタに駆け寄る。

 それを見てトクビルは大声を上げた。

 「王子! 王子! 誰です?! 王子に毒を盛ったのは!!」

 肩を揺らされたせいで、開かれたままのピスタの目から涙がこぼれた。

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