34. 再起動
「な、何だ――」
士道は何が起こったのか確認しようとするも、その恐るべき速度で突っ込んできた何かに吹き飛ばされた。機械の体すら容易く弾き飛ばす襲撃者に士道は成す術もなく、粉々になった硝子と共に摩天楼の空へと躍り出る。
落下する士道はビルの反射光に照らされて浮かび上がった、その物体の正体に息を呑んだ。
「――エ、飛行車だと!?」
アナーオブアルカディアの最上階へと突撃し、士道を建物外にまで吹き飛ばしたそれは桜の飛行車だった。ここに来る前、非常時に備えた蓮が遠隔操作を出来るように取り計らっていたのだ。
「無駄な事を――!!」
他所から手段を持ってくるというハッカーらしいやり口に対し、絶体絶命に陥った士道は思いのほか冷静だった。
彼はこれ以上好き勝手させないために空中にてリボルバーを撃ち放ち、飛行車の機関部を破壊する。
制御を失って炎を上げる車体を無視し、士道は着地に備えて体術プログラムを起動する。五体満足とはいかないが、アナーオブアルカディアの三階は天窓になっていて緩衝材として代用できる。上手く衝撃を分散できれば問題ない。
飛行車を破壊した以上、それを阻害する存在などいないのだから。
そう彼は断じた。
そして、その目論見が外れていることをすぐに知ることになった。
「――ッ」
何かが最上階から飛び降りて、彼へと迫っていた。
その敵は動かない左手ではなく右手に一本の剣を携えている。立ち上がることすら不可能な肉体に、重い枷から解き放つような不可思議を身に纏っていた。
「――おのれええええええええええ!!」
士道は窮地に立たされたことを理解し、空になるまで半狂乱になって引き金を引く。
対する敵はまるで一人だけ時間が止まった世界に居るかのように、弾丸の軌跡の合間を縫ってさらに落下速度を上げ続ける。
「はあああああああああああああ!!」
敵は血を吐きながら剣を握り、刺突の構えを見せたまま士道へと突っ込んだ。
受け流すことも避けることもできず、真っ向から繰り出される尖刃が士道の体を貫いた。
「ぐおおおおおおおおおおおお!!」
組み合った両者は回転しながらその落下速度を増大させ、次の瞬間訪れる衝撃までいがみ合いを維持する。
そこで士道は敵の顔をはっきりと見た。
血を吐き、苦悶の表情を浮かべ、今にも泣きだしそうな相貌が見えた。
左眼の機械眼には誰かと同じ紅い炎が灯っていた。
ああ、そうだった、と思った。
思い出した。自分はあの目を見てかつての自分を取り戻したのだということを。
自分が自我を持った理由を、本当の苗床が何だったのかを理解した。
だとするなら、この結末は初めから分かりきっていたことだったのだ。
電源が落ちるその瞬間まで、赤い機械眼にその姿を焼き付けた。