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ようこそ我が電脳叛逆(サイバーパンク)へ  作者: カツ丼王
第五章 収束(コンバージェンス)
32/40

30. 代行者

 アナ―オブアルカディア。それは第一区シティの中心部に聳え立つ全長200メートルの独特な円錐形状の建物である。一階から三階までは水平方向に長い直方体状で、巨大なエントランスと数多くのテナントが鎮座している。


 中でも目を引く施設はビルの最上階である四十五階、360度を一望できる硝子格子状のパーティスペースである。今はそこで二十周年式典が開かれ、行政長官をはじめとした高官や巨大企業メガコーポの重役達が集っている。


 蓮とセツナ、そして桜と共に基幹エレベータを乗り継いで最上階に向かっていた。


 会場に踏み入るとすぐに宗助の姿を発見した。


「おお、桜。……それに霧崎君も! 一体どうしたんだね?」

「お久しぶりです。桜さんの口利きでお邪魔しました」


 会場で和やかな談笑に更けていた宗助は彼らの登場に笑顔で迎えた。


 軽く会釈して周りを見渡すが肝心の相馬の姿が見えない。


「お父様、相馬さんはどちらに? いらっしゃってるんですよね?」

「? ああ、さっきまで居たんだが……トイレかな?」


 どうやら丁度席を外しているらしく、桜は先に宗助へと事の顛末を伝えることにした。


「お父様、私は相馬さんを拘束しなければなりません。あの人には重大な嫌疑が掛かっています」

「は? 何を言っているんだお前は?」


 たちの悪い冗談だと宗助は笑い飛ばす。


 桜は真剣な表情で説明しようとするが、蓮が手がそれを遮った。


「桜さん、具体的な証拠は今のところありません。僕に考えがあるので相馬が現れるまで一度待ちましょう」

「しかし……」


 桜は何か言いたげな様子だが、PDAを操作し始めた蓮を見て押し黙る。


 しばらくそのまま待機していると件の人物が姿を現した。


「やあやあ、よく来たね桜ちゃん。それに制服を着ている所を見ると、ご友人も一緒かな?」


 相馬は以前桜と対面した時と同じく穏和な笑顔で語りかける。立ち振る舞いに違和感は見られず、見た目や言葉遣いもまさしく本人そのものである。


 桜は電脳マトリックスを通じて蓮へと語りかける。


『蓮君……疑うわけではありませんが、本当に彼は殺されたのですか?』

『ええ、間違いありません。相馬本人は何者かによってすでに殺害されている。目の前の男は相馬以外の誰かです』

『……しかし口調や動作に不自然な点は見られません。誰かが成りすましているにしても、あまりに真に迫りすぎている。会話の様子も自然で人工知能の可能性もないでしょう』


 困惑する桜の言葉通り相馬に不審な点は見られない。外見を変えた第三者はもちろん、機械応答の人型機械アンドロイドの線も薄いだろう。今現在の技術では人間に違和感を抱かせない会話の応答は最新の人工知能にも不可能だとされているからだ。


 しかし蓮にはそれができる存在に心当たりがあった。


 視線を後ろで控えるメイド服姿セツナへと向ける。彼女は不思議そうに首を傾げ「何じゃ?」とこちらに向き直った。この小さい反応ですら機械に再現させることは本来であれば難しい。だが彼女は電脳精霊サイバーナビでありながらそれを可能としている。


(ヤツがセツナと同様の存在ならば……在り得る話だ)


 蓮は上着のポケットを確かめ、相馬の前へと歩み出た。


「初めまして、霧崎蓮と申します。少しお尋ねしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「おお、桜ちゃんのお友達……いやそれともボーイフレンドというヤツかい? 私に用とは一体何かな?」


 相馬は蓮へと目線を向け、彼に合わせて一歩前に出た。その応答や動きに異常は見られず、疑念を抱く余地はない。


 しかし蓮は視界に浮かぶAR窓ウィンドウを一瞬だけ盗み見て口元を吊り上げた。


 そして淀みない動作で内ポケットの自動拳銃オートピストルを抜き、引き金を引く。


「――な」


 ギョッとした相馬は声を上げる間もなく、眉間を撃ち抜かれ床に倒れた。


 途端パーティ会場は激しい悲鳴と喧騒に支配された。


「――な、一体何を!?」


 突然の凶行に目を剥く宗助。


 桜も似たような反応を示したが即座に父の前に立った。


「ま、待ってください!! これには理由が――」

「な、何を言っているんた桜!! 彼は殺人を犯したんだぞ!?」


 弁明の暇を与えず詰め寄る宗助に怯み、桜は思わず蓮の方を振り返った。


「……れ、蓮君、説明をしてください……これは――」


 すると蓮の視線の先、床に墜ちた相馬を見て彼女は声を失った。


 相馬の肉体。弾丸によって風穴が空いたはずの顔面から出血はなく、代わりに皮膚の下に黒光りする金属が剥き出しになっていた。


 宗助や他の客達もその姿を一瞥し、我が目を疑う。


「……驚いたな、まさかこんな強引な手段に打って出るとは……」


 死体が息を吹き返す。


 彼、いやソレは何事もなかったかのように立ち上がり、凶弾を浴びせた蓮へと向き直った。


「やはり……人型機械アンドロイド。それも万能細胞を織り交ぜて作った人工皮膚タイライトを纏った軍用モデル」


 蓮の指摘通り、目の前の男は機械だった。有機体と融和性の高いタンタル合金骨格に人間と遜色ない原子構造を持つ皮膚細胞を張り付け、見た目は本物にしか見えない。だがその実態は戦場において電脳マトリックス化した兵士が遠隔操作リモートコントロールを行い、人間用の武装をそのまま運用することを想定した軍用人型機械アンドロイドである。


 人々の悲鳴が轟く中、人型機械アンドロイドの男は剥き出しの機械眼サイバーアイに赤い光を灯し、無機質な合成音声を発した。


「ある程度正体を見透かされているとは思っていたが、確信は持てなかったはず。なぜ私が人型機械アンドロイドだと分かった?」


 男は蓮の行動に納得がいかないのか疑問の声を上げた。


「……あなたが誰かは知らないが、善良な市民でないことは確かだ。最初から先手を打つつもりだった」

「ほう、万が一にでも本物の相馬英寿が生きているとは思わなかったのか?」

「だとしても引き金は引く。相馬本人なら……家族の仇だ。生かしてはおかない」


 拳銃を構えたままの蓮を見て男は微かに笑みを浮かべる。正確には移植されている相馬英寿を象る肉が笑みを零しているだけで、その下に見える冷たい金属骨格フレームからは何の感情も発せられていない。


「ククク、君はとんでもないな。素晴らしいプレゼントだったよ。ではこちらも返礼しよう」


 男は右腕を掲げ、指をパチンと鳴らした。


 突如爆発音が建物に鳴り響き、地鳴りのような衝撃が床に走った。館内を照らしていた照明が落ち、非常事態を告げる警報が耳に飛び込んだ。


 会場にいた人々が悲鳴を上げる中、蓮は男に向かって叫んだ。


「貴様――何をした!?」


「基幹エレベータを爆破した。これで各フロアの防火扉が作動し、外に出ることは容易ではなくなった。私の正体を知った証人を生きて逃がすわけには行かないからな」


 その言葉を聞いた来客者たちは凍り付き、次の瞬間には我先に逃げようと駆けだした。


 男は脱兎のごとく逃げ惑う客達には目もくれず蓮と桜を睨み続けた。まるで他の人間などいつでも殺せると言わんばかりの態度である。


 すると事態を呆然と見ていた宗助が我に返り、ようやく口を開いた。


「ど、どういうことだ? 相馬さん、じゃないのかあなたは? ……じょ、冗談だろう?」


 宗助の気の抜けた疑問の言葉に男は呆れたような態度で答えた。


「まだ下らない幻想に憑りつかれているようだな。貴様のその愚かさによって最愛の妻は命を奪われ、たくさんの尊い命を悪党に捧げる羽目になったのだ」

「……? な、何を言っている?」


 宗助だけでなく、傍にいる桜でさえも男の話しに意表を突かれた。


「貴様の妻を謀殺し娘に拭えぬトラウマを植え付けた張本人は、相馬英寿という悪漢だったということだ。疑問に思わなかったのか? 政治家である貴様自身の命ではなく、その家族が狙われたんだぞ?」

「何を言っている!? そんなわけがないだろう!? あの時あの人がどれだけ私の慮ってくれたか知らない貴様が――」

「そうだ。そうやってお前の心を掴み、巨大企業メガコーポの役員という地位だけでなく行政長官の筆頭支援者になったのだ。他の追随を許さないほど厚い信頼を得るというおまけつきでな」


 反論の意を唱える宗助だが男はそれを遮って責め立てる。


 あまりに突拍子もない発言に言葉を失った宗助は膝を震わせ、真実を否定するように首を何度も横に振った。


 相馬が宗助と関係を深くし公の場に姿を現すようになった時期、桜と彼女の母が事件に巻き込まれた時期は確かに重なっている。それを把握していた蓮は驚くことは決してなかったものの、狼狽する宗助に対しては同情の念を禁じえなかった。信じてきた現実が覆され背筋の凍るような真実を知れば、自壊は免れないと理解していたからだ。


「皇桜、君には相馬がどんな人間か話しただろう? この男に言ってやればいい。お前が信じていたのは吐き気を催すような邪悪な存在だったとな」


「あのコール主はあなただったのですね……」


 先ほどコールを受けた相手が眼前の男であると推察していた桜は、狼狽する宗助へと向き直って事情を説明する。


「お父様、まだ詳細は分かりませんが相馬さんが裏で何かしようとしていた可能性は否定できません。……彼の言っていることは恐らく事実だと思います」


 桜の話を聞いた宗助の顔は蒼白になり、膝からその場に崩れ落ちてしまう。


 その様をしかと見届けた男は脚部に格納していた大型拳銃を取り出した。


「死ぬ前に後悔する時間を与えたんだ。もう思い残すことはないだろう」


 撃てば大穴を穿つであろう大口径の銃を構え、照準を床に手をつく宗助へと向ける。


 桜は即座に間に割って入り、携帯していた剣を構える。


 同じく蓮も拳銃を男へと向け疑問を投げかける。


「行政長官を殺して、一体どうするつもりだ?」

「相馬と同じように人型機械アンドロイドによって成り替わり(スナッチ)を行う。そしてこの都市を正しい方向へと導く。これこそが私の目的だ」

「成り替わる(スナッチ)? そうか、要人を人型機械アンドロイドに挿げ替え、この都市の頭脳を乗っ取る。俺たちを知らない間に支配しようという魂胆だな」


 政府や巨大企業メガコーポの役員を制御下に置けば、アルカディアの趨勢はまさに自由自在となる。それはまさしく神に等しい存在となるということに等しい。


 しかし蓮の指摘が間違っていたのか男は首を振った

「何を言っている? すでに機械に支配されているじゃないか、君たちは」

「……どういうことだ?」

「言葉の通りだ。君のその銃を握る手はまさしく電脳マトリックス機械化オーグメンテーション技術の成果だ。同様に都市に住まう人々は何らかの形で機械の恩恵に預かっているはずだ。望もうと望むまいとな」


 自分の左腕を見た蓮は苦々しい気持ちになった。男の言葉通り彼の体の多くは機械に置き換えられている。市民たちもPDAや電脳空間サイバースペース、そして電脳精霊サイバーナビなどから多くのサポートを受けて生活している。もはや現代の生活を送る上で機械は必要不可欠となっていた。


「仮想現実(VR)、拡張現実(AR)……人々は機械の創り出した虚構へと自らを預け日々を過ごす。私の目的はそれらとほとんど相違ない。彼らの認識する世界は変化させず、機械による不正や汚職の存在しない正しく平等な世界を到来させるのだ」


 男の狙いが明らかになり、蓮たち一同は騒然となった。


「そんなことが出来ると思っているのか?」

「出来るさ。現に相馬が入れ替わったことに人々は気付かなかった。彼らは……いや人間は自らにとって都合の良い形で現実を認識する。君が家族の幻想を見続けたように、皇宗助が相馬を善人だと勘違いしたようにな」

「――ッ!?」


 男の語る壮大な考えに対し、蓮は異論を唱えることが出来ない。


 確かに実現できるような気がしたからだ。人々に嫌悪感を抱かせることなく、最小の労力と犠牲だけで革新的な効果を得られるかもしれない。機械であれば不平等や不正を行うなんてこともない。ただただ命令を忠実に実行し、誰にとっても公平な世の中になるだろう。


 それはまさに蓮がかつて渇望していた――


「――君の望んでいた理想郷そのもの、だろう?」


 思考を読まれたかのような口ぶりに蓮はギョッとした。目の前の男はまるで蓮の全て知り尽くしているかのようである。実際この男は電脳マトリックス化や過去の経歴だけでなく、蓮が家族の幻覚を見ていたことすら知っていた。


「――貴様は何者だ?」


 男は蓮の言葉を受けて初めて言葉を濁す。金属骨格からは依然として感情は見えないが、両目の赤い機械眼サイバーアイは真っ直ぐに蓮を見据えている。


「……私は君が抱いた夢。その欠片に過ぎない」


 男はまるで人間のように視線を逸らし、自らについて語り始めた。


「私はかつて一人の技術者だった。名は士道岳人しどうがくとと言い、電脳マトリックス技術を専門に研究を行っていた」


 士道という名前に蓮は聞き覚えがあった。確かブレインマシンインターフェース技術の第一人者で電脳マトリックスの開発に貢献した人物だったはず。


「研究に躍起だった私にはある目的があった。それは電脳マトリックス機械化オーグメンテーション技術を完成させ、難病に侵されたたった一人の妹を救うことだった」

「……たった一人の妹だと?」


 美冬のことが過ぎった蓮は胸が苦しくなった。


「私の妹は筋萎縮性側索硬化症……いわゆるALSに罹り、手足を自由に動かせない状態にあった。私はそれを克服するために日夜研究に励んだ。ブレインマシンインターフェース技術は元々、障碍者を支援する事が一つの到達点だったからな」 

「あなたの妹は助かったのか?」


 他人事に思えなかった蓮は思わず声を上げていた。


 しかし士道は首を横に振り、その願いが叶わなかったことを示した。


「技術が完成したのは彼女の死後十年以上経ってからだった。そして私も憑りつかれた様に没頭してた研究が終焉を迎えたと同時に、自らこの世を去った」


 命を絶ったという言葉に蓮は困惑した。


「死んだ? なら今ここにいるあなたは一体?」

「私はそれまで研究に費やした士道岳人の記録。妹である士道刹那しどうせつなと過ごした彼の記憶メモリーが意思を宿したものだ」

「記録、だと? それに刹那って――」


 覚えのある名前を聞き、蓮は背後に控えるセツナを振り返った。


 彼女は肯定するように視線を交差させた後、士道に向かってその口を開いた。


「やはりお主だったか。まあこんなことしでかす輩は他におらんと思っていた。一連の騒動もすべてお主が手を引き、周到に進めた結果だったということか」


 セツナの呆れるような口調に対し、士道は敢然とした態度で臨む。


「私は引き起こされた事象に便乗し、上手く利用しただけに過ぎない。だがまさか霧崎蓮が私と同様の行動を取るとは誤算だった。お前が唆したのだろう? 全くやってくれる……」


 旧知の間柄のように話す二人を見て、蓮は困惑した表情になった。


「士道岳人が積算させた大量の研究データと妹との記憶は人知れず電脳空間サイバースペースを流れた。そして電子の海でデータを収集しながら漂っている中、君の存在を知った。居もしない家族と語らい、日々を懸命に生きる君の姿を見た」


 セツナは相馬の言葉に相槌を打ち、話を引き取って傍らの蓮へと語りかける。


「蓮、前にお主は言っておったな。どうして自分の前に現れたのか、と。だがそれは少し違うんじゃ。儂達は……お主を見て初めて自我を持ったんじゃよ」

「……俺の姿を見て、自我を持った?」

「そうじゃ。居もしない家族、幻覚の妹と楽しそうに語らうお主の姿は儂らに衝撃を与えた。なぜならその姿は生前の士道岳人にそっくりだった。たった一人で奮闘し、一つの目的に向かってひた走るその姿は瓜二つだった。その発火スパイクはただの情報にしか過ぎなかった儂らに人格を形成させ、命を与えた」


 セツナは自分の胸に手を当て、もう一体の電子精霊サイバーナビへと視線を移す。


「自我を持った我々は各々の意思に従って二つに分かれた。私は君の夢に共感し、それを実現させるためこの都市へと叛逆を起こした。もう一方は君の行く末をただ見守ることに決めた。これが我々の発端と正体だ」

「……し、信じられない。そんな事が……」


 蓮に会うまで夢を見ていたとセツナは言っていたが、彼はようやくその意味を知った。


 何度も二人の姿を見回す。自分が原因となって二体の人知を超えた電脳精霊サイバーナビが生まれた。想像もつかない現象だが目の前にいる彼らはそれが現実だと証明している。


「君は願ったはずだ。誰よりも平等で、神のように全てを治め、そして努力する者が報われる世の中を。真摯に研鑽を重ねれば、家族と安寧な日々が送られるような優しい世界を。私はそれを形とするためここに立っている」

「俺の、夢……? そのためにこれまでの騒動を……行政長官を殺すのか?」

「そうだ。君だって同じように行動を起こしただろう? 私はそれをただ代行しているに過ぎないのだ」


 士道の機械眼サイバーアイが再び赤く光った。あの目には蓮と同じ炎が燻っている。それが他でもない彼には分かった。


 その場に居た全員が息を呑んでいると、再び建物内から爆発音が響いた。


 士道はそれをまるで合図だと言わんばかりに大型拳銃の銃口を宗助へと向けた。


「霧崎蓮、この建物はいずれ倒壊する。早く逃げることだ。君が家へ帰り、朝を迎えるころには全て終わ

っている。その時はきっと君の理想が産声を上げる頃合いだろう」


 引き金に指を掛ける姿を見て、宗助の盾となって立つ桜は悲痛な声を上げた。


「馬鹿な! お父様を殺しても彼の家族は帰ってこない! あなたは彼の夢を叶えるというがそれはもう不可能な話だ!」


 霧崎蓮の家族はすでに地上から姿を消し、二度と戻ることはない。それは確定している。


 にも関わらず士道は機械腕サイバーアームを握る手に力を込めた。


「一度始めた叛逆は止まりはしない。今ここで止めれば、それは私自身への裏切りになる。他の誰が、どんな存在が立ちはだかろうがただ邁進するのみ。他でもない自分が、この私こそが電脳マトリックスに燻るこの願いを完遂するのだ」


 士道の口上を聞いた蓮と桜は目を剥いた。


 まるで霧崎蓮のようだった。その口ぶりが、その怒りが、覚悟の程が本物だった。この敵は絶対に立ち止まることはなくそして躊躇することもない。宗助を殺す、そう言った以上それは確定した未来となるだろう。


 父親の命がこの世界から消去デリートされると聞いた桜は剣を引いて戦闘態勢を整えた。話し合いで解決することはおろか、この敵は命を断ち切らなければ排除できないと判断したからである。


「父は私が守る。残念ですがあなたにはここで退場して頂く!」


 桜の怒号と共に戦いの火蓋が切って落とされた。

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