29. 準備
桜と蓮、そして玄関で二人が出て来るのを待っていたセツナは、アナーオブアルカディアへ向けて飛行車を走らせていた。相馬英寿の件や抗争事件について互いの情報を交換した後、事実関係や事態に収拾を行うには相馬本人を問い詰めるほかないと結論したからである。
運転席に桜、助手席に蓮が座り、後部座席に肉体を持つセツナが陣取る。
メイド服姿のセツナは当初二人が無事な姿で出て来たことに喜んでいたが、次第に不機嫌な表情を顔に張り付け始めていた。
「なあ、何でお主ら二人して目が赤いんじゃ?」
背後からの問いかけに蓮と桜はドギマギした。なんて言ううべきだろうか。かなり複雑だった上に最後はかなり長い間抱き合っていたわけであって、それをどう説明しよう。
返答に困っていると、身を乗り出したセツナは桜の方を見た。
「なあ桜、お主の口から語ってくれ。中で何をしとったんじゃ?」
「え? 私ですか……えっと」
話題を振られた桜はかなり狼狽している。すでに彼女はセツナが電脳精霊であることを知っており、協力者として認知している。
「えと……蓮君に酷いことを言われて、私……すごく傷ついて……それで押し倒されて、首を絞められて、最後に抱き締められました」
悩む桜は馬鹿正直にそう答え、ピシッとセツナの顔が固まった。
全部事実であるが、それだけを列挙されると完全にヤバい奴ではないかと蓮は焦った。
何とか挽回しようと頭を巡らすも、妙案が浮かぶ前に後部座席の怪物に首を絞められた。
「お主何を考えとるんじゃ? 儂が心配している一方で、特殊なプレイに甘んじてただと? 殺されたいのか?」
「違うぞ!! さっきはほら、ショックだったわけで……ね、仕方ないじゃん? 気持ちが高ぶってて、勢いでそれは……」
「私は勢いで色々されたということですか? ……やっぱり酷いです」
「蓮、貴様……妹がおる癖に、女を泣かしてはならないという基本すら知らんのか!?」
何とか弁明したい所だが確かに自分が悪いため言い返せない。
「あ、そうだ。到着までにしないとけないことがあった。それに取り掛かりますね」
先ほどの無礼や説明責任は後で果たすことにした蓮は、PDAのケーブルを飛行車へと接続し、電脳空間へとアクセスする。
「何をする気ですか?」
「念のため少し準備をします。セツナも手伝って貰うから用意しといて。……それと桜さん、さっき俺が電脳をハックしちゃいましたけど、しばらく防壁を再構築せず俺と繋げたままにしておいて下さい」
「……考えがあるようですね」
桜は蓮の申し出を了承し、アナ―オブアルカディアに向かって加速した。
「言っておくが、いやらしい目的では儂は協力せんぞ?」
「するか!!」
首根っこを掴むセツナへと言い返し、決戦に向かう準備を進めた。