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ようこそ我が電脳叛逆(サイバーパンク)へ  作者: カツ丼王
第三章 強奪(ハイジャック)
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19. 偽装工作

 警備の仕事というのは思いの外暇なものだ。一昔前なら人間が定期的に館内を回るところであるが、人型機械アンドロイド自立機動機械ドローンの登場でこれらの必要性は薄くなっている。人に要求されるのはそれら警備用機械のメンテナンス、定期タスク外の突発対応ぐらいのものだ。


 眠そうな顔つきの男はコンベンションセンターの警備室で複数のモニターを眺めていた。相棒である若手の警備員は時計を何度も確認し、黙々とその手を動かしている。全く真面目な奴だと感心する。


 対して自分はこうやって時間が過ぎるのを待つスタンスを取っている。その方が楽なのだから仕方がない。どうせ給与も変わらないんだ。夜勤の者と変わってからすでに数時間が経過しており、次の交代を待つだけの退屈な時間を過ごす。


 晩酌の相手は何しようか等と呑気なことを考えていると、警備室に備えられたインターフォンが鳴った。


 若手の警備員が対応しようとするもそれを手で制す。せっかく書類仕事を引き受けてくれているのだから、これぐらいはやるべきだろうという殊勝な考えからの行動である。


「はい、こちら中央警備室ですが」

『お世話になっております。私チューリング社の綱瀬と申します。監視カメラの故障の件でお伺いしました』


 カメラ越しの男の姿を見るとブルーの作業着と帽子を被っている。チューリング社と言えばセンターが契約している施設保全の外注先だ。どうも彼はそこの作業員らしいが、カメラの故障なんて聞いていない。相棒に目で確認するがやはり心当たりはない様子。


「申し訳ないがそんな連絡は来てないぞ?」

『そうなんですか? おかしいな……昨日警備担当者の宮崎様からC区画の監視カメラ一台に不調があるから診て欲しいと連絡を頂いたのですが』


 宮崎とは昨夜まで夜勤をしていた警備員の名前だ。若い相棒に連絡があったというカメラの映像を表示させるよう指示する。


 だがモニターには何も映らなかった。操作卓コンソールを何度弄っても砂嵐しか表示されない。相棒も両手を上げて困った顔を浮かべる。


 どうやら本当に故障しているらしい。宮崎のヤツは引き継ぎを忘れていたようだ。このまま作業員を追い返せば、後で上からドヤさせるの自分だろう。


「すまない、どうやらこちらの手違いみたいだ。どうすれば良い?」


 男は自分たちの不手際を詫び、作業員へと対応を仰いだ。


『本日は故障の内容を把握するだけですので、作業そのものはすぐに終わります。ソフトウェアの異常かどうかを端末でチェックするため、一度そちらで確認したいのですが』

「分かった。今扉を開けるよ」


 男は部屋の操作卓コンソールを使い、電子錠の据え付けられた扉を開いた。


「ありがとうございます。すぐに作業に取り掛かりますので」


 入って来た男はかなり若かった。成人しているかも怪しかったが、作業着にプリントされたチューリング社のロゴはそこの社員であることを如実に示している。彼は慣れた手つきで端末を取り出し、そこから伸びた端子をコントロールパネルに差し込んだ。


 どんな操作をしているのかは分からないが、ものの数分で作業とやらは終わった。


「ありがとうございました。どうやらソフトではなく、カメラそのものが故障しているみたいです。修理の準備が出来次第連絡いたしますので、それでよろしいでしょうか?」

「分かった。あとはよろしく頼むよ」


 男は礼を述べ、チューリング社の作業員は頭を下げる。


 彼が部屋から退出した後、男は満足げにデスクに戻った。そして傍らの若手に向かって『こういう柔軟な対応が求められるから人間が未だに必要なんだ』と高説する。


 彼は苦笑いしながら『そうですね』と返事をし、再び時間を確認して作業に戻った。流石に時計を気にし過ぎだろう、慌ててやるような仕事量でもないのに、本当に真面目な若者だなと思った。


 その後モニターを眺め始めた男は、晩酌について再び思案することにした。

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