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ようこそ我が電脳叛逆(サイバーパンク)へ  作者: カツ丼王
第三章 強奪(ハイジャック)
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18. 追憶

 センダイ・グループの特設ステージを後にした二人はコンベンションセンター内を歩いていた。特に目的があるわけではないが、人型機械アンドロイド関係の出展がされている区画に彼らは足を運んでいた。


 さきほどの見世物に圧倒されていた蓮は、実のところ興奮冷めやらぬ面持ちだった。


「すごかったですね。さっきの光学迷彩クローク技術。びっくりしましたよ」

「ええ、私も知りませんでした。相馬さんからお招き頂いたんですが、まさかあんなものを」

「桜さんは相馬さんと関わりが深いんですか?」


 相馬のことについて知る良い機会だと考えた蓮は、自然な流れで桜へと問う。


「そうですね。父の支援者をして頂くようになってから、お付き合いさせて頂いています」


 桜は言うとしばらくの間考え込み、足を止めて蓮の方を向いた。


「少しお時間を頂けないですか? この前蓮君に非礼を働いた件でお話ししたいことが。お父様ひいては私自身も関わっていることなのですが……」


 真剣な表情な桜を見て蓮は場所を変えるように促した。


 彼らはブースが立ち並ぶエリアから離れ、外が一望できる休憩スペースに移動した。


「もう五年ほど前になります。私と母を乗せた車が父の下へ向かっていた所、第三階級サードを名乗る武装集団に襲われたんです。私は幸い無事でしたが、私を庇った母は帰らぬ人となりました」


 沈痛な面持ちの桜に対し蓮は表情を崩さなかった。桜と彼女の母親が犯罪に巻き込まれてた事はニュースにもなったため知っていた。


 襲撃犯人達は逮捕されたが、それ以降宗助の政治的主張にも変化が現れている。


「お父様はそれ以来、強硬的な手段に訴えてでも犯罪の抑止に努めるべきという考えを持つようになりました。それが法案の改正に繋がったのだと思います」

「だから、僕にも協力を促したというわけですね」


 核心を突く問いだったが桜は僅かに頷いた。


「許されることではないと思います。でも決して悪意があったわけでも、蓮君に恨みがあったわけでもないんです。それだけは分かって頂きたいのです」


 桜は真摯な眼差しでそう懇願する。


 まるで自分が非礼をはたらいたかのような口振りに違和感を覚えるも、そこには触れず返答する。


「この間のことはもう気にしてません。誰にだって他を押しの退けても大事にしたい夢や願いはあるでしょうし、それは僕だって同じです」


 蓮にしても今は家族との平穏で何不自由ない生活が望みだった。多くの場合は当たり前の光景かもしれないが、この夢は幼いころから渇望していた蓮の理想そのもの。そのためならどんな犠牲も厭わない覚悟があった。


 桜の安堵した顔を見た後、そのまま外の絶景を眺めた。


 人々が活気が道を行き来し、地平線の手前に立つ超高層ビルは真昼だというのに光が見える。生まれ育った工場プラントの影と煤煙まみれの空ではなく、管理された美しい街並みが視界に映る。


「いつか家族みんなで、こんな所に足を運べたらいいのにな……」

「きっとその願いは叶いますよ。他でもない私が保証します」


 いつの間にか隣に立った桜は窓の外の光景に思いを馳せていた。


「初めて会った時から思っていました。あなたは真っ直ぐに、そして実直に夢に向かって走って行けます。ご家族を招くことが出来たら私がご案内しますよ。なんせこの街で一番踏ん反り返っている人の娘ですから!」

「――ッ」


 何か知らないはずの光景が、瞼の裏に映った気がした。


 まただ。彼女といる時、不思議と良く分からない感情が沸き立つ。不安と喜び、そんな複雑な何かが。

 笑みを浮かべる彼女に礼を述べながら、蓮はここに来た目的を思い出した。


「少し別れて行動しませんか? 宗助さんと会うと仰っていましたし、僕もサイバーセキュリティ関連のブースに行ってみたいんですが……」

「ええ、そうですね。ではまた後で集合ということにしましょう」


 彼女は快諾し、二人は集合場所と時間を決めて分かれた。


 彼女の後姿が通路の影に消えるまで笑みを崩さず、その後蓮は被りを振った。


 大きく息を吐いて気分を入れ替える。ここからは遊びではない。


「やるぞ。今回の狙いは相馬だ。そのためにまずコンベンションセンターの警備システムをハッキングする」


 蓮は開口一番、ARのセツナに語りかけた。


 彼女の方はそれまで退屈していたのか、待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべた。緋色の打掛も彼女に呼応するかの如く明滅する。


『じゃが具体的にどうする? 今回はこの前みたいに関係者に接触する機会も、向こうに知り合いもおらんじゃろ? 強引に防壁アイスを突破するのか?』

「そうなるな。でも警備を制御するネットワークは電脳空間サイバースペースから隔離されている。だから警備室の電算機コンピュータに直接お前を送り込まにゃきゃならん」


 蓮は階段の踊り場に移動し、フロアマップを見上げる。警備室は事前の調査通りセンターの一階にあるようだが、生体認証や電子錠によって関係者以外は容易に入室できない。


 蓮はそのまま人通りが少ない通路へと移動する。


『いくら儂でも、そこに至る道が無いと辿り着けん。何とか目的の電算機コンピュータまで連れて行ってくれんと、どうしようもないぞ?』

「分かってる。方法もちゃんと考えているよ」


 蓮は肩に掛けていた荷物から小さなレーザーポインタを取り出す。ボタンを押すと壁面に小さく赤い光線が映り出した。


 周囲を見渡して誰も通行人がいないことを確認した後、天井に設置されていた監視カメラにレーザーポインタの矛先を向けた。


「……? え、何やってるんじゃ?」

「監視カメラを故障させるんだ。業務用用途で使用されるレーザーポインタは出力が強力で、監視カメラに向ければ内部のイメージセンサを焼切ることができる」


 ほえ~、と感心するような声を漏らすセツナを尻目に、蓮は数秒間レーザーポインタをカメラのレンズに向け続けた。これであの監視カメラは使い物にならなくなったはず。


 ポインタを仕舞い、手荷物を抱えて近くの男子トイレに移動する。


 ここまでは準備に過ぎない。


 この先こそが社会工学ソーシャルエンジニアリングの見せ所である。

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