00. 電脳化技術
※不定期ですが、必ず完結させます。 ⇒ 完結しました(2016/11/20)
大昔のSF小説には、おしゃべりするアンドロイド、空を飛ぶ自動車、コンピュータのバーチャル世界、太陽系を超える宇宙旅行などなど、ロマンあふれるテーマが主題として扱われていた。多くの場合は機械文明がその粋を極め、人々の暮らしや肉体がより機械へと近づいた世界を舞台にしている。
しかし電脳化技術が登場し、これらは全て現実のモノになった。
電脳化技術とは大脳に電極を挿入、もしくは微小機械を髄液中に注入することで、脳を電脳と呼ばれる一種の電算機へと改新する技術を指す。大脳で連鎖的に起こる化学反応を解析し、手入力や人語などの外部出力なしに機械へと命令を送る。
簡単に言うなら「脳」と「機械」を結びつけたということになる。
念じるだけで電算機やロボットが動き出し、人間の作業を代行する。つまり機械が掃除や洗濯、夕食の買い出しからその準備に至るまで、多くの仕事を遂行するということだ。
これらは今や日常風景であり、最近はさらにその激しさを増している。
手足を機械化しようとする輩、物理空間に情報を形として表示するAR(拡張現実)技術を使って肌の色を変えたりする若者、これらは現在急増中である。他にも機械が創る剣と魔法のRPG世界――VR(仮想現実)空間は小学生の遊び場としてすでに定着している始末だ。
彼らは機械に身を委ねるという事が便利かつ刺激的で、これら無くしては快適な生活を送ることが出来ないことをよく理解しているのだ。
一方、人間倫理や宗教観から電脳化技術を忌み嫌う人も多い。従来までとは一線画す技術的特異点にあたる科学技術。人間と機械を融合させるという事実が恐怖や嫌悪感を煽ってしまうのは無理からぬことだった。実際、彼らが電脳化した人を差別し始めるのにそれほど時間は掛からなかった。
脳と機械が結びつき、私達の生活・文化そして社会は劇的に変化した。一昔前インターネットと呼ばれていたネットワークは電脳空間と呼称されるようになり、機械が良い意味でも悪い意味でも世界を支配するようになったのである。
百年前の夢物語に人類はようやく到達したと言えるが、乗り越えるべき課題は未だ多い。
現実と夢が曖昧になった不完全な世界。
地上を覆う電脳空間では電気信号が日夜走り続けている。
そんな広大な電子の海で小さな命が生まれようとしていた。
その発火がどこから、そして何が原因で生まれたのかは不明だ。
問題なのは強固な意志を持っていたということにある。
まるで長い夢を見ていたかのように、ソレはゆっくりと目を覚ました。