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次回更新前後に、タイトルを『魔法使いのドレスコード』に変えます。
結局のところ。
村長がいったい何を求めて私を引き止めたがったのかはよくわからなかった。
それを当然と言うのは寂しいけど旅立ちを祝福してくれることもなかった。
あと若干心配だったんだけど最後まで服装に付いて突っ込まれなかった。
何とも無い無い尽くしの旅立ちだ。
他に無い物と言えば……実はお金も食べ物も無い。
目標はあってもそれがうまく行く確信も保証も無い。
旅をした経験も無いのならば目的地までの地図も無い。
それに今後頼るべき人脈とか伝手とかも全く持って無い。
改めて考えると、私は本当になにも持って無い。だけど多分これは標準的な村娘の標準的な身分だと思う。いや、猟師さんの家で触り程度と言えど狩猟経験を積んでいる分、むしろマシな方じゃないだろうか。これでも畑を荒らすイノシシ程度ならナタで撃退したこともあるし、弓矢で猿をしとめたこともある。ちゃんと罠や武器さえ用意出来れば、熊とだって一対一で戦える……ような気がする。
当の猟師さんには熊はまだ早いって言われたし、命は大事にするけどね。
「さて、当座の目標だけど……どっちからにしましょうか」
開けた場所にでたので方位星図をだし、自分が今向いている方向を確認する。私が魔法使いになる為にはドレスが必要な訳だが、当然私には魔獣や幻獣と呼ばれるような物と戦って勝利するような力は無い。従ってその鱗や皮、角などを材料にしてドレスを作ることは出来ない。だけど、ドレスに求められる貴重な素材と言う物は、必ずしも動物からとれる物だけではないのだ。
例えば銀嶺と呼ばれる山の頂上には、けして人の作る炎では溶かすことが出来ない氷柱があると言う。
例えば黒い海に住まう特殊な貝が、山から流れ着く鉱石を喰らって不思議な輝きを持つ真珠を作ると言う。
ただのおとぎ話だろうと言えばそれまでだ。そしてもちろん今の私には、銀嶺の頂上まで昇る能力も黒い海から貝を見つけ出す能力も無い。と思う。だけど魔獣や幻獣を独力で倒す努力をするよりは、氷雪吹きすさぶ山を登る技術を身につける方が幾分か建設的に思える。そしてたとえおとぎ話でも、なにもしないで諦めるよりはずっと良い。
「ハーフエルフが経営する宿があるって噂のイドゥシヤンの街はこっち……図書館や魔法学校がある皇都はあっち……のはず」
そのおとぎ話をより詳しく調べる為に街や都に行くのが最初の目標なんだけど、どうやったら行けるのかわからないのよね。もちろん村から農作物を売りにいく人たちは当然そう言うのを知ってるんだけど、私は今まで同行させてもらったことが無から、まずどうすれば良いのかがわからない。
まっすぐ方角をあわせて向かえば良いのかしら。いや、それよりも先に街道にでるところから始めるべきなのかな。でも街道にでても食べ物が無いから、出来れば森沿いに食べ物を探しながら旅をしたいのよね。薬草とかキノコとか拾えれば、それはそれで売り物に出来るはずだし。
「……」
WLoooooooooooooooN !!
「……」
WLooooN !! WLooooN !! WLooooN !!
少し遠くの丘の方から狼が吠え合っている声が聞こえる。結構激しく吠えあっているけど、風上から聞こえてくるし移動している感じではないので私を獲物にしている訳じゃないだろう。狩りじゃないのか、それとももっと風上の別の獲物を狙ってるのか。かといって、風下に別の群れがいないとは限らないから油断も出来ないけど……最悪木に登りさえすれば逃れられる獣だ。いざと言うときに備えてマントの前を留めて、ナタの柄に通した紐を腕に結んでおこう。
「やっぱり、もうちょっと準備とかを万全にするべきだったかなぁ」
早急に全うな方針を立てないと、イドゥシヤンの街や皇都に着く前に獣の餌になりかねない。