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ブックマーク、評価、ありがとうございました。

今後とも、楽しんで読んでいただけるように頑張ります。

 そんな私の迷いを見切ったのか、老人は一つため息を吐いた。


「そうか。お互いのそこまで義理は無い、と」


 その問いかけは、とても正確に私の心情を表していた。と思う。

 この人に頼み事をする、と言うのは……誰かに頼み事をすると言うのは綺麗ごとじゃすまない側面を持っている。例えば報酬。あるいは義理。

 親を亡くして他人に育てられたからわかる。こうしてる間にも、彼女の遺族は彼女が受け継ぐはずのものを狙っているかもしれないし、あるいはなんらかの責任を彼女にかぶせようと手を回しているかもしれない。そういったもの全てと戦って行くのはすごく大変で、重たくて、辛い。何より、頼るべきだと思った相手がいつ掌を返すのかと思うと……っとこれは独ぼっちになった側の視点で、その世話をする側の視点じゃないな。

 ともかく、私が何かを差し出してまでこの子の事を誰かに頼む程の義理は無い。この人も無償でこの子の世話をしてやる程の義理は無い。お互い ・・・心情的なものがあるだけで、義理と言うだけのものは一切無いのだ。まあ私はこの人とホーマンディーさんがどういう関係だったのかを知らないのだけど。

 それが一つの事実なのだ。

 だけど、私は自分の胸に握りこぶしを当てる。


「た゛け゛と゛『し゛ょ゛う゛』か゛あ゛る゛」

「『情』ねぇ。なんとかしたいとは思ってるってことか」


 そして、どうして良いのかわからないんだと助けを求めているとも言う。確かに私はもう30で独り立ちしてしかるべき年齢ではあるけれど、成人したら誰でも一人前に成れると言うなら苦労しない。だいたいただの村娘が受けられる教育の限界なんてたかが知れているわけで、一生懸命いろんな事を調べはしたし、出来るだけの努力はしたつもりだけど、現実には熊一匹追い払うのが精一杯で未だどこかしらの都市にすらたどり着いていない。

 喋らない女の子をどう扱えば良いのかも、どうしてあげるのが正しいのかもわからない。そして、何が出来るのかなんて私以外わかる人がいなさそうな事すらわからない。


「そうだな。先に出来る事から始めようか」


 なんとなく怪訝そうな目を向けてしまう。出来そうな事とはなんだろうか?

 そんな私の疑問に答えるように、老人は少女を手招きする……そういえば、この子そっちのけで私たちばかり話しをしていた。そもそもこの子の身体に異常がないかを確かめるのもこの薬師のもとに来た目的のひとつだったのに。

 若干恥ずかしくなって一歩後ろに下がる。うー……とりあえず一応目的の一環である薬草の類いも出しておこうか。どこかしらの都市までの足代および食費を埋める事が出来れば良いんだけど、これだけでは流石にそれは無理だろう。あとは途中で一頭だけ射殺して回収してきた狼の牙を買ってくれる人がいるかどうかってところかな。こっちは無理なら消耗した矢の鏃にするけど。というより一頭分の牙じゃ、そんな良い値段で買い取ってくれるとも思えない。死体からはぎ取ったとか言われて買いたたかれるよね、うん。

 いや、変に卑屈になってるわけではなくて。以前村に来た行商人に私が仕留めた獲物を買い取ってもらおうとしたら実際そういう事があったのである。猟師さんが口利きしてくれなかったら相場の五分の一程度にしかならなかったろう。口利きしてもらったら五倍の値段提示されたんだから。


「……」

「……」

「……」


 ……しばらく少女の様子を見ていた老人がため息をついて顔を上げた。


「……と゛う゛?」

「ん……あまりいい状態じゃないな。身体のあちこちが弱ってる。熱が出てないのは熱を出す体力も無いからだ。栄養も足りてないし、心が弱っているせいで回復の兆しも無い」


 それは……控えめに言って最悪ってことなんじゃないだろうか。


「通常なら子供と言うのは、それだけで神秘の塊であり命の泉そのものだと言っていい。だけどこの子はその泉の底に穴があいてしまっているようなものだ。このままでは『そうなる』だろう」

『いいえ』


 反射的に私は黒い石を突き出していた。神秘とか泉とか何を言いたいのかはよくわからなかったけど、一つわかるのは最後の一節、このままではこの子が死ぬってことだ。そんな事を見過ごすわけにはいかない……いや、出来ない。

 義務でも義理でも無い、私個人の情。

 たかが、あるいはたった4日間で生まれたそれは理屈じゃない。私に何ができるわけでは無いけれど、少なくともこの人にその意志を伝えることをためらってはいけないのだと思う。


「……まぁそうだな。こうして生きてるところを見てしまっては、私としてもただ見過ごすのは忍びない。少しじっくり話しをしようか」


 Snapパン! Snapパン! 老人が手を打ち鳴らすと、奥から一人の少年が出てきて、そそくさと少女の手を引いて行った。こんな場面なかなか無いと思うんだけど、中々の手際だ。とても手慣れている感じがする。今回はこの子に聞かせたくない話しがあればこそだが、この状況を察するに……普段から子供連れの客が多く、なおかつ子供に出来ない話しをする事も多い……と言う事だろうか。なんだその怪しい状況。

 いや、この考えはちょっと極端だな。普段から単に人払いをする機会が多いと言う事か。例えば……顔に傷があるとか。

 そう思ったところで、老人が外套の頭巾を持ち上げて顔を晒した。なるほど、人払いをするわけだ。

 その顔は、あまりにも異相だった。肌は人のそれとは違う青白い色で、人ならば髪が生えているだろう頭部には銀の棘のようなものが生えており、目は黄色く黒い瞳は縦に割れている。顔のあちこちに鱗のようなものの痕があり、彫りの深い顔立ちは人のものとは違う骨格をしているようだった。


「あまり驚かないんだな」


 ……猟師さん、一度熊に顔面噛み砕かれたらしいですからね。

話しが進んだような進んでないような……

しかし一方が喋れもせず文字も書けないのに、どうやって相談するんでしょうね。

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