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11着目

目を留めてくださってありがとうございます。

「なんだい? 君人攫いかなにかなのかな?」


 あまりにあまりな言い草に腹が立ったけど、現状私が怪しいことに間違いは無いので、無言のまま目で訴えてみる。私は怪しいものではありません。事故から子のこの命を救っただけです。というか貴方はなんでホーマンディーさんのことを知ってるのですか。孤児になったこの子を預けられる場所を知っていますか。この子をどうすれば良いと思いますか。

 思いつく限りの言葉を目に込めて。じっと。


「お嬢ちゃん、睨まれても何を言いたいのかわからないよ。字は書けないの?」


 読めますけど筆記はちょっと……いや、読むのだって正直かなり怪しいのよね。うーん……外套の衣嚢ポケットから2つの石を取り出す。白黒まだらの石と、黒い石だ。

 それをまだらの石と黒い石の順番に見せる。


「こ゛れ゛『は゛い゛』、こ゛っ゛ち゛『い゛い゛え゛』」

「あー……無いよりはましだね。じゃあ質問するよ?」

『はい』


 確認するような言葉にまだらの石を差し出す。

 意図はしっかり伝わったらしい。っていうか、長女ちゃんにもこうやって意思の疎通を図れば良かったのかな。いや、この子の場合は声が出ないんじゃなくて、出るけど意思の交換をするつもりが無いのよね。それを考えると結局意味は無かったんだろうな。


「さて、君は人攫いなのかな」


 あ、そこに戻るのね。もちろん違うのだから答えは……

 ……一瞬黒い石を出しかけて手を止める。そもそも真実がどうであれこの質問に『はい』と答える人間はいないだろう。そんなのちょっと考えればわかることだ。思わずといった感じだった最初の一回はともかく、この場面でもう一度聞き返してくるのは明らかに私をおちょくってるんだろう。なにかもう一個、私の怒りを表す石があれば……ああ。そういえば最後の一本だけど良いものがあった。

 腰から引き抜いた矢を目の前の地面に突き立ててにっこり笑ってみせる。これで私の怒りは伝わるだろう。


「お嬢ちゃん、気持ちはわかったけど、それだと私の口封じをしようとしてるみたいに見えるからね?」


 はっ!? それは非常に外聞が悪い。今後は気をつけよう……この人に対してはこのまま若干威圧的な態度を継続しても良いような気がしてるけど。ここ狭いから誰かに見られてるわけでもないしね。

 まぁこの人の話し次第だけど……


「とりあえず君の性格も掴めたし、まともな話に移ろうか」


 ……へぇ? 今ので私の性格を掴んだ、と? 最初っからなかなか聞き捨てならないわね、それは。喋れない私の意を汲んでくれるのは嬉しいけど、たった二言三言の会話で一体何がわかるというの? なんとなく侮られてるようで気に食わないし、問い質したい気持ちでいっぱいなんだけど……この人が喋らないと話が進まないのよね。甚だ不本意ではあるけれどここはぐっと堪えて話を進め、それらは喉が治ってからってことにましょう。

 ……とはいえ、この人のまともってどんな段階かしら? 多少時間がかかっても、この子の引き取り手を探す方向で話がまとまってくれるといいんだけど……せっかく態度を崩さないと決めたのだし、怒気を残したままじっと目を見つめてみる。帰ってきた視線は思いのほか真摯だった。


「まず、彼女の家族の誰であれ、今助けを必要としているか? いるならまだら、いないなら黒だ」


 ちょっとびっくりした。本当に、わかってるんだ。

 『いいえ』

 少しだけ肩の力を抜いて、黒い石を差し出す。この意図は伝わるかしら。


「そうか……良い意味じゃなさそうだな」


 確かに伝わったらしく、返ってくるのは消沈した声。

 少し、迷う。

 単にあの一家を知ってると言うだけではないのだろうか。なにかあの一家と深い関わりが……あるいは付き合いがあったのだろうか。もしかしたら人攫いかと言う問いも、思ったよりずっと真剣だったのかもしれない。

 この人は、言葉を求めてるのだろうか。私が今出来るのは肯定と否定を示すことだけだ。ホーマンディーさん一家がこの人と親しい間柄だったのだとして、その死を悟ってしまったことになにか苦しさとか、そう言うものを感じて、気休めを求めているだろうか。


(やめよう)


 黙って両方の石を差し出す。これは先を促しているつもりだ。それが質問だと言うなら改めて聞いてほしい、とも。

 まだこの人とは他人だ。


「そうだな……じゃあ次の質問だ。誰かここにきているか?」

『いいえ』


 黒い石を残してまだらの石を拾う。


「どこにいるかわかるか?」

『はい』

「動けないんだな?」

『はい』

「死ん……いや、この子の面倒を見る人間はいるのか?」

『いいえ』

「彼らは……あー、お前は私を知っていたのか?」

『いいえ』

「何をもとめて……いや、何かしてほしいのか? 私に」


 石を握り込んで考える。

 徹底的に彼らの死を言及しないのは、この子を慮ってなのか深入りしたくないのか。別にこの人じゃなくていい。思いのほか、この人が事情に深入り出来そうなだけで。

 そういえば、私じゃなくても良いんだ。私が関わってしまっただけで。

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