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目を留めてくださってありがとうございます。

「よ゛、よ゛う゛や゛く゛つ゛い゛た゛」

「……」


 いろんな声がする。

 馬の値段を、水の値段を、保存食の値段を交渉する声。

 荷物の見張り番をまかされた不平や、肉を買ってきてくれと頼む声。

 馬や仲間をねぎらう声。

 やまない喧噪。

 まだ村をでて半月もたってないのに、すごく、人がいる場所に来たって感じがしてほっとする。

 熊との遭遇から4日、私は……いや、私とホーマンディーさんの家の長女ちゃんはとある宿場にたどり着いた。まだ喉が痛いけど、とりあえず一段落つける。


「……」


 彼女は、特にこの光景に感慨は無いようだ。街道上の位置的に考えるとここを通っていてもおかしくはないんだけど、この様子だと見覚えは無いのかな……正確にどこから来たのかわからないからなぁ。二日前の道を一本間違えたのかもしれない。彼女のことがなにかわかると良かったんだけど……いや、いつまでもそんなことを言ってもいられない。とりあえず何をおいても薬師のところに行かないと。

 行き交う人を観察し、荷運びの仕事を終えたばかりらしい人夫の男性を声を出さず呼び止める。外套の中から薬草の詰まった袋を出してみせると、彼はその中から一枚取り出して指ですりつぶし匂いを嗅いだ。これは、ここに来るまでに森の中でかき集めたものだ。他にもキノコの入った袋や木の実の入った袋もある。

 ともかく、しばらく匂いを嗅いでいた彼は最後にぺろっとそれをなめて、私の肩に手をおいた。宿場の建物を指差して地面に水平に、ぐるっと円を描くように指を動かす。どうやらあの建物の裏手に回れってことらしい……喉が痛くて喋らなかったから無理も無いんだけど、どうもあれだ。聞こえない人間だと思われてしまったようだ。まあ喋れない以上無理に訂正する必要も無いので、この場は流しておく。もし謝る機会があれば謝ろう。


「こ゛っ゛ち゛」

「……」


 申し訳程度のささやきとともに手を引くと、少女は黙ってついてくる。彼女はあれ以来一度も喋らない。

 初めてあったときはちゃんと喋ってたから、生まれつき声が出ないわけじゃないはずで、喉も悪くなさそうだし熱も無い。いや、あの後しばらく熱が出たけど、今はちゃんとひいてる。だから、喋らないでいるのは多分心の問題だと思う。私もそうだったし。だけど……熱を出したのは確かだし、何があるかわからないし、確認するにこしたことは無いと思う。

 あと、この薬草類いくらか換金してもらえないと身動きとれない。


「やあ、なにかようかい?」


 宿場の裏手に入ると、妙に真っ赤な屋根の小屋がぽつんと建っていた。宿場の建物とはそこそこ離れているけれど、専用の井戸と小さいながらも畑のようなものがあるあたりがいかにも薬師の小屋らしい。

 中にいたのは、象牙色の外套を着て頭巾を深くかぶった老人だった。老人と言っても70過ぎくらいだろうか、顔がしっかり見えるわけじゃないから主に彼の手とか外套に染みついた薬草の汁っぽい色とか匂いの年期の入りっぷりとかでそう思うだけなんだけど。

 色はともかく匂いはかなり強烈だ。ここまで無反応で無言だった少女が若干だけど顔をしかめているように見える。


「……そっちの子、ちょっと様子が変だな」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……うん?」


 しまった、私も喉が辛かったんだ。かといって喋らないでいてどうにかなるわけでもないし。ちゃんと聞き取ってくれるかな。


「あ゛ー゛、わ゛た゛し゛の゛と゛か゛」

「あれ、君の方か?」

「い゛え゛、こ゛の゛こ゛、こ゛え゛、て゛な゛い゛」

「それは君じゃないのか」


 違います。違うんだけど……説明しがたいなこれ。っていうかこの人こんな声なのにちゃんと聞き取ってくれるのか。すごい。もしかしてこの女の子の声なき声も聞き取れたりしないだろうか。いや、何か意思を発してるのかどうかもわからないけど。発してるよね、多分。

 じゃなくて……あ、そうか。


「わ゛た゛し゛も゛」

「なるほど。しかし君の方がわかりやすそうだな。ちょっとおいで」


 言われるままに近づいて、促されるままに口を開ける。


「座って、あと上を向いてくれるか。暗くて見えない」

「あ゛」

「……裂傷……血が出てないな。魔力によるものか……天然か」

「あ゛ー」

「君、魔力練れるのか。しばらく毎日魔力練ってればそのうち治るから薬はいらんな」


 そんな話し聞いたこと無いけど確かにここ数日は毎日の習慣だった魔力の練習してなかったな……魔力による裂傷? 崩声は、確かに魔力を練らないで使ったこと無いけど、あれって魔力関係あったのか。つまり私はささやかだけど、魔法を使えてたってことなのかな。あれを磨けば、私も……でも自分で使ってる力を自分でわかってないって怖いことかもしれない。気をつけた方が良いかな。でも私の魔法……まほう……うー……


「魔力、練れるのか?」

「あ゛い゛」

「じゃぁ次はそっちの子だ」


 手で払うような動作、用が済んだならとっとと下がれってことか。一歩下がって代わりに少女を押し出す。


「おや、ホーマンディーの娘じゃないか」


 あれ?

今更ですが、ホーマンディーさんは一家のお父さんの名前です。

まぁこの世界では家長の名前はほぼファミリーネームですが。

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