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第弐話

001


 朝はやってくる。

 例え、どんな陰鬱な気分で寝床に入ろうとも、目が痛いほどに明るい太陽と共に。


 開いた手のひら程のカーテンの隙間から、陽光が射し込み始めた。

 陽の光を多く取り込む東側の大きな窓が、その役目を果たすように入れた光は黄色いカーテンを透過して部屋を満たし僕を新鮮な気分にさせる。

 そして爽やかな朝の光は、今日の僕に何かの良いことが起こると感じさーーーー。


「朝だぞバカ兄貴ぃ!」


 そんなこともなかった。

 木製のダークブラウンのドアが、蹴破られたような威力で開けられた。物は大事にしろよ。

 敬愛すべき兄のことを朝から「バカ兄貴」と呼ぶとは、なんて妹だ。


 僕の肉体、石神純輝の記憶を探る。

 どうやらこの女子、僕の妹、石神繚花は、口が悪く暴力的でお世辞にも性格がいいと言えない奴で家の外では元気で誰にも優しい優等生を演じている性悪女、らしい。

 さらに記憶を辿る。

 とある朝、蹴り起こされたこと。

 とある夜、風呂の床に叩きつけられたこと。

 とある夏休み、喧嘩したとき一方的に殴られ蹴られたこと。


 ・・・殴られ、蹴られした記憶ばっかりじゃないか!


「もう8時!遅刻するよ!」


 長く艶やかな黒髪と腕を、大きく振りながら僕のベッドに近づいてくる。

 フローリングの床を踏み締める、黒いタイツを履いた細く長い脚。足取りからは、どこか女王様然とした雰囲気が感じられる。

 深い闇を覗くように綺麗な漆黒をした瞳は僕を見下したような、冷淡を通り過ごした、凍傷にしてしまうような瞳だ。

 この女性はたった一対の瞳で、人を殺せるのだろうか。

 そう思わせる瞳であった。

 恐怖。

 戦慄。

 過去の記憶から、特に悪い思い出がフラッシュバックする。


「すいませんでしたぁ!」


 思わず土下座してしまう。

 仕方ないだろう。

 だって怖いんだもん。


 繚花が驚いた様な顔をして固まった。

 動きだけでなく、よく動く口と表情もだ。


 しまった!

 何か間違えたか!


 繚花が膝から崩れおちる。

 美しい顔が歪む。

 僕を哀れむような表情だと読み取れた。


 どういう事だ?

 何があった!

 あの一瞬に!

 僕が何をした!

 僕が悪いのか!?


 繚花が両手で涙を隠すように、顔を覆った。


「お兄ちゃんが謝るなんて……、何時も口答えしかしてこないのに……。ごめんねお兄ちゃん。私がお兄ちゃんの悪口ばっかり言ってるから……、こんなに追い詰められてるなんて……。」


 謝っただけでこの扱いかよ!

 これまで僕はなにをしてきたんだ!謝ったこともなかったのか!

 そして口答えって!僕はどれだけ妹に下に見られてるんだ!

 ふざけるな!


 いや、怖いから言わないけどね!


 僕が、石神純輝がこれまでやって来てたことに凄く興味がわくが、それは一先ず置いておこう。よし、まずは誤解を解くとしよう。


「いや、違うんーーーー」


「言わなくてもいい!お兄ちゃんの事は私が一番わかってるから!私が悪いんだね?私が悪いんだよ!毎朝私がお兄ちゃんを虐めるから、毎晩私がお兄ちゃんを虐めるから、私が悪いんだよ!私がお兄ちゃんの変態的趣味の限界を見極めれなかったからーーー。」


「わかってないだろ!」


 つい叫んでしまった。

 変態的趣味はないだろう、変態的は。


 繚花が両手で覆っていた顔には、涙は一滴として流れてはいなかった事を記しておく。




━━━━━━━━




002


 ピンと背筋の伸びた妹の、後ろ姿を見ながら階段を降りる。

 相変わらずキレイな髪だ。

 濡羽色の、傷みの一切見られない、光を反射するように艶やかな長髪。

 腰まで伸びたその髪は、階段を降りる動きに合わせてゆらゆらと揺れている。

 思わずとも触りたくなる。

 撫でたくなる。

 否!

 どうせなら舐めてみよう!


 ・・・・・。

 今、僕は何を考えていた。

 僕は何を考えていた!

 実の妹に対する感情じゃないだろ!

 体ならともかく(それでもアウトだが)、髪に対して抱く感情じゃないだろ!

 僕はこんな変態的趣味の人間じゃない!繚花の言っていたことが現実になるかも知れないじゃないか!

 まさか。

 この石神純輝という男子高校生は。

 こんな変態的趣味の人間だったのか!

 否!

 変態的趣味の人間なんて遠回しな言い方をすべきではない!

 こう一言で呼ぶべきだ!

『変態』

 と。


 まさか憑依した肉体によって、僕が影響を受けるとは思いもよらなかった。

 この僕が憑依してよかったんじゃないだろうか。

 妹の、それも髪に欲情するような人間は、世間一般の枠に当てはまらない、アブノーマルな趣味を持つ人間は淘汰されてしまうのが良いだろう。

 何よりも非生産的だ。

 いや。

 生産的な方がヤバそうだ。


 階段を降りて、大きな液晶テレビと同じく大きなソファーの置かれた居間を通り過ぎて、テーブルにつく。一階の何処かで掃除でもしているらしく、掃除機の稼働音がここまで聞こえてくる。

 母さんは、台所で朝食を作っている。

 父さんは、テーブルについて今朝届いた新聞を開いている。

 そして妹は、僕と同時にテーブルについた。


 ・・・・・。

 何かがおかしい。

 違和感がある。

 うちの家族構成は、父、母、妹、僕だ。

 他に青タヌキの居候も、メイド姿の使用人も居ない。


 |なぜ誰も居ない筈の所から掃除機の稼働音がきこえる《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》


「おはよー。お父さん、お母さん。ほら兄貴も挨拶しなよー。」


 掃除機の稼働音のする方に駆け出した。

 確認しなければならない。

 何故、誰も居ない筈なのに音がする?


「ちょっと兄貴!どこいくの!」


 階段から伸びる廊下を突き当たって曲がった所。

 そこはトイレに繋がるドアだ。


 廊下の曲がり角を曲がった直後に。

 一般的な。

 ごく一般的な。

 僕の目に。

 衝撃的な光景が映ることになった。


 

 


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