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ワールドリフレイン  作者: 春ノ嶺
醜い悪意と大掃除
32/37

16-5

「ヒナは?」


「奥で治療と修理。階段から落ちたってよ」


「階段ってどこの?」


「さあ?塔のじゃねえの?」


朝にブリーフィングを行った場所、アメリカ大使館のロビーで負傷者を除く全員が集まった。そのうち数名、ロイがそっぽ向いてたりメルがピーピー口笛鳴らしてたりするが、それは割とどうでもいい。

大使館は閑散としてしまっていた。壁、床、天井、至る所に銃痕が残り、僅かに残っていた調度品も破壊されている。庭には星条旗の付いたボディバッグが並べられ、ヘリに積み込まれつつあった。

大使館外周を守っていたレンジャーに被害はなく、銃声に気付いて突入した時にはこの有様だったという。


「まずデブリーフィングを済ませよう。トラブルによる負傷はあったがチーム9、SOG共に被害なくクレムリン制圧を達成した。ただし大統領は連れ去られ、将軍とスティグマも見つからなかった。それから、ミス明梨には残念な報告をしなければならないが……」


脚を失ったため、壁に立てかけられたホワイトボードの横でアクリッドが言う。そもそもここにいない、という時点でわかっているだろうが。


「我々が突入した時、ミスター鈴木は大統領府の議会室で…その……長さ30センチ、太さ2センチくらいの鉄製の杭を無数に打ち込まれて、壁に張り付けられた状態で発見された。司法解剖の結果待ちだが、おそらく生きたまま行われたと推測される」


明梨は無言のまま、左手で顔を覆いながら体ごと背けた。最悪の想定の遥か上、人の死には無理矢理慣らされたものの、脳天を1発とか、簡単に言うと優しい殺され方をした死体しか見ていない。スリーシックスはそういう努力をした。

あっち行こ、とメルが連れて行く。


「スティグマの行き先だが、壁に開けられた穴から逃げたとするならそう遠くには行ってないはず、だな?」


「そりゃどうだか知りませんけど、CIAは持てる力をすべて注いでますよ。ビンラディンで痛い目見たばっかなんでね。そっちは?」


「指揮系統が壊滅しています、あまり期待しないでください」


アクリッドの問いにシオンとアレクセイがそれぞれ答えた、数日中に尻尾を掴めると信じよう。

細かい事は省く、クレムリンでの出来事はそれだけわかれば十分だ。


「んで、これは誰がやったんですかね」


シオンは適当にそこらを指差す、大使館のこの有様は何なのかと。


「当時の防衛戦力は極度の混乱状態にあったようだ、同士討ちの数が非常に多い。そして同士討ち以外は銃ではなく、刃物によって殺されていた。すべて急所を一撃だ」


刃物、と聞いた時点で全員の視線はネアに集中したが、当人は苦笑いしながら首を横に振った。その時彼女はクレムリンでロシア兵の首をはねていたので当然である。


「こちらも検証結果待ちだ。強いて個人的な意見を言うなら短めの槍で突かれた後に見える、突き傷は極めて深く、切り傷は鋭いながらどれも浅い。手掛かりはそれだけだな、目撃者は全員死んだから最早わからん、監視カメラを復旧させておくべきだった」


「次に襲われた時の対応策は?」


「俺は聞かされていない、我々はこの後当初の任務に戻るからな。忘れてたか?」


何人か、怪しい顔をした。


「雪国暮らしはここまでだ、エセックスに戻るぞ」

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