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ワールドリフレイン  作者: 春ノ嶺
4年と8ヶ月前の話
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Air 4-5

『とりあえず、親と一緒に暮らしてた頃は”リン”と呼ばれてた事がわかった』


「それが名前か?」


『うーん……何をもって名前とするかによるんだな、とにもかくにも戸籍が無い』


深夜0時、月明かりを頼りに街灯の無い農道を歩いていく。いわゆる棚田と呼ばれる水田は現在何も入っておらず、収穫が終わった時点で耕されているため稲の残骸すら残っていない。畑の大半を含めて休耕中


『それから行動範囲は村から反対方向に約3km。昼行った谷のとこで取った魚と野草、木の実が主食、極めて小規模ながら家庭菜園っぽいのもある。ま、栄養は間違いなく足りてないな、できれば一度病院に連れてきたいレベルで』


「マトモなものは食べてないか、あの根っこといい」


『お前ありゃゴボウっていう立派な食材でな』


棚田と段々畑を突っ切って丘の上に到着、例の会社の前に出た。深夜にも関わらず明かりが点いている


「……戸籍か」


『結局はそれだ、国民として認められていない限りあらゆる公的サービスを受けられない、病院も学校も』


正門は人間1人がギリギリ通れるだけ開けられていた。内部は土の山が複数、うち真っ白なものは石灰だとわかったがそれ以外は土くれにしか見えない


『だがこのまま野垂れ死にさせるにはあまりにも惜しい、どうにかして戸籍に入れたい。その為には出生証明だ』


「偽造は?」


『そりゃいくらでもできるけど、パスポートみたいに1回使っておしまいって訳にはいかないもんだからな、できれば本物が欲しい』


土山と重機だらけの作業場を通り過ぎ、指定された扉に手をかけると、キイと音を立てて開いた


「本物はもう無理だろう」


『うん、最初はそう思った。でもやっぱりこの捨てられ方は異常だ、わざわざ育ててるのに労働力にもしないで捨ててるあたり、望まぬ子供って感じには見えん』


通路の先には階段、明かりがあるのはその先


『もしかしたら捨てたくて捨てた訳じゃないのかもしれない』


階段を上がるとたったひとつ、社長室らしき部屋に電気が点いていた


『とにかく仕事をしよう、そっちの対処はそれからだ。事前に盗掘現場の写真を送りつけて、日付け変わるまで待ってろって指示してある。方々からかき集めた汚職情報ぜんぶ叩きつけて言いなりにするんだ』


「へいへい」


イリジウム携帯というらしい携帯電話を通話終了しつつドアを開け、ポケットに仕込んでいた写真を準備


「おうっ」


そこで殺人現場に遭遇した


「誰だ?」


まず当初の目的だったこの会社の社長、あまり高そうに見えない椅子に座ったまま胸を串刺しにされており、床一面に血を撒き散らしている。確認するまでもなく、すでに事切れているだろう


「……シャリーアに雇われてるもんだが」


「ああ……聞いている。別勢力の人間がつけ込んできていると」


社長の胸から西洋式の長剣を引き抜きつつ中国人女性は正直に教えてくれた。梢、バレてる


「殺したのか?」


「労働法も児童保護法もないのは理解しているが、この会社の2割は未成年で構成されている。記録によれば過去に死者も出していて……ああ事故死と過労死、両方だ」


セミロングの黒髪、ラインの整った体、髪と同じ色で統一されたセーターとジーンズとコート。手に持った血まみれ長剣は全長120センチ程度でロングソードと言うにはやや長く、かといってワンランク上のグレートソードと比べればやや短い。詳しくはないが、確かバスタードソードという分類があったはず。なお、エアの背中にあるコンバットソードとは根本的に作りが違い、こちらが黒いコーティングを施されたファイティングナイフの延長であるのに対し、あちらは中世時代の形そのまま、今となっては儀礼的印象が拭えない


「それを改善してない?」


「していないし、する気もなかったらしい。そんな細かい事を気にしていたら利益が出ない、と。君が来る30秒前の話だ」


長剣を鞘に納め、窓のカーテンを閉める。他に起きている者もいない、朝になるまでこの有様が人目につく事は無いだろう


「君はどう思う?殺す程でもないか?真っ当な手順を踏んで逮捕するべきか?」


「……見た目の印象と僅かな情報だけで判断するなと指示されてる」


とりあえず、肯定も否定もしなかった。中国人女性は何も言わず、そうかいとばかりに目を伏せた。数秒、すぐに目を開ける


「サイと呼んでくれ。後片付けは私が受け持つ、無駄骨を折らせてすまない。これがこちらのやり方だ」


「オーケイ、詳しく話は日が明けてから」


結局何もせずUターン、階段を降りて通路を戻り外へ出る。持ちっぱなしだったイリジウム携帯を操作して梢と繋げ


「梢」


「んにゃ?」


「バレてる」

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