Air 4-4
「で、そろそろ仕事の話していい?」
「……そうだった」
あまりにもゴタゴタと歴史のお勉強が多すぎてすっかり忘れていた、この村を占拠しなければならない、依頼元のシャリーアが想定しているより遥かに少ない人的損失で
「村長を手篭めにするのは別の奴がやるらしい、あたしらは実質的な事をやるとして…まぁーとにかくまずは採掘権だろ。お上の考えじゃ『いつも通り採掘会社の幹部をまるっと総取っ替えするよー』とのことだが、頭の悪いやっちゃーな、死人を出したら信用を得られんだろ」
「裏社会の人間なら信用なんかより恐怖じゃないのか」
「違うんだよー、裏は裏でもヤクザっつーのはなー」
小屋の前、並んで座って村を見下ろしながら開けっぴろげな話を始める。梢の腕の中には未だ名前を知らない無戸籍少女がいるが、言葉が通じないならいないのと同じだと言ってどかす事はしていない。会話しているのをじっと見つめているが理解しちゃいないはず
「とにかくここは殺さずに引きずり降ろす方向でいく、幸い社長は汚職まみれだ、さほど苦労はしないだろ。お前はそうだな、汚職の証拠を抑える事だけ考えろ、例えば違法採掘の現場とか」
「違法採掘とは?」
「あの会社が持っている採掘権はこの山から向こうの範囲だ、つまりこっち側で地面を掘っていたりしたら他者の権益侵害っつーわけ。問題は、どこで掘ってるのかまだわかってないという点」
今眺めている農村とは反対側を梢が指差し、その方向を無戸籍少女が見る。大丈夫、何言ってるか理解してなどいない
「目星は付いてるのか?」
「あんまり付いてないな。2km先に谷があって、そこに石灰岩の露出してる地帯。もしくは谷の底の川、レアアースの堆積層の可能性もあるな。露天掘りできる場所の多いこと多いこと、それでいてあっち側は露天掘り一切できないんだからな、盗み掘りしたくもなるわ」
理解してない、はずなのだが
突如ピッと、少女は梢と同じ方向を指差した
「谷…向こう…いつも掘ってる……」
「…………」
「………………」
なんか今、こちらが理解できる言葉が聞こえなかったか
「おい今英語喋ったぞこいつ」
「いやいやいやいや何言ってんの?ここまでニーハオしか喋ってないじゃん、英語どころか中国語すら間違いなくちゃんと教わった事ないぞ。エアちゃんがここに来てから約15分、ずっと英語を聞かせ続けたが、単語に分解して意味を理解しかつ文の組み立て方を突き止めるなんて離れ業でもしないと話せるはずない」
な?と言いながら顔を覗き込む、怯えるのはやめたが代わりに不安げな顔をし俯いてしまった
「英語、わかる?英語」
「英語…話せるない…」
「「話してんじゃねーか!!」」
「ひぅ!?」
とりあえず少女から離れる、どたどたとシャワーボックスの向こうまでやってきてしゃがみ込み、設営中の部下から「ほんと仲良いなこの人ら」みたいな視線を受けながら審議開始
「もしかしてあたしらはとんでもないお宝を掘り当ててしまったんじゃないか?」
「どういう事だ」
「あの子が喋った単語、さっきまで話してた内容の中にすべてある。それを意味が成り立つように組み合わせて喋ったってことは、どれが名詞でどれが動詞か理解してるってことだ。そしたら後はパズルみたいなもんでな、単語の意味を予測しつつ名詞→動詞の順番に言えば一応言葉にはなる」
と、梢はトヨタ車に駆け寄って紙とペンを入手、直線を多数引いて格子を作った。さらに中央上下に正方形を二つ追加
「有名なIQテストだ、この中に正方形はいくつある?」
「む……そうだな…」
「はいタイムアップ」
「おい5秒も経ってねーぞ!」
格子の描かれた紙を片手に梢は少女の元へと戻り、まずそれは見せずに数の数え方を話して聞かせ、次に正方形とか正三角形を地面に描いて教えた。何も言わないので理解したかどうかは知らないが、そうしてからさっきの紙をばっと見せ
「正方形はこの中に……」
「よんじゅう」
「ぁ…ぅ……」
戻ってきた
「……とりあえず…ピアノからやらせてみようか…」
「なんで育てようとしてんだよ」




