Air 4-1
「なあ、私らって先月にアフリカまで飛んでったばっかだよな?」
『そうだな』
「ここどこ?」
『中国貴州省、地図上で見ると中央下の方だ』
岩と砂ばっかの茶色い景色は一転、どっちを向いても緑色の亜熱帯気候である。今は真冬だが、北京や上海ほどの温度変化がある訳ではない。省全体は西から東へ向かって一様に低くなる地形で、地質もほとんどが石灰岩を主とした侵食されやすい性質となっており、真に平地と呼べる場所は少ない。また周囲の山やら気流やらの影響により常に雲が集まる地域とも重なるため、地に三里の平地無し、天に三日の晴れ間無し、と表現される非常に陰気な場所なのである
『ま、砂まみれになりながら年越しカウントダウンするよりは緑に囲まれて鐘突いてた方がいいやんな?』
「知らんがな」
梢に渡されたやたら巨大なアンテナを持つ携帯電話を左耳に当てながらエアは小さい山をひたすら登る。山頂には何か木造の建物が見えていたが、近付くにつれ異常に小さい事がわかってきたので、たぶんあれは犬小屋なのだろう
『この貴州省は中国で最も貧しい、とされる省だ。昔と比べればかなーり発展しちゃいるが、他の省はもっと発展してるからな、相対的にはやはり貧しい。いつだったか閉所で石炭燃やして暖を取ろうとした子供が一酸化炭素中毒で死亡して、中国の貧富差について話題になったが、これは貴州省で起きた話だ』
山頂直前の開けた場所で立ち止まり、麓の村を見下ろしてみる。中国全土でも最も経済から取り残された地域にあり、急な斜面に作られた田畑と民家群、放牧された牛。それ以外は特に何もない、強いて言えば斜面の数カ所に鍾乳洞らしき穴がある
『ま、この省だけが特別貧しいって訳じゃないがな。内陸部はどこも似たようなもんだし、チベットやらウイグルやらと比べれば、屋根に瓦がついてるだけマシだ』
「そんな所でテロリストさん方は何をするつもりなんだ?」
『命令された仕事の内容を踏まえるなら資源基地にするんだろうな、食料はもちろんコンクリートの原料になる石灰、石炭、ボーキサイト、水銀に水晶、あとレアアースな。売っぱらって金にする以外何に使うかは知らんが、まぁ国でも作るつもりなんだろう』
片膝をつき、電話を耳に当てたまま右手で双眼鏡を構える。村の一番高い位置にある一番大きい建物、あそこが辺り一帯の資源採掘を独占している会社とのこと
『そんな訳で今回の仕事は鉱物資源の採掘権、及び食料を供給してくれる従順な人間の確保。並びにそれを邪魔してくる勢力の排除だ。簡単に言っちまえば、その村まるごと占拠しろってこった』
「大掛かりだな」
『そう、最低でも3ヶ月はここから離れられない。また当然ながらあたしら以外にも仲間が派遣されてくる、のちのち裏切る事前提の仲間だが』
ざっと見て、浸入は容易と判断し立ち上がった。山頂までもうすぐ、歩を再開する
『とにかく今は監視所だ、来週から始まる本格占拠のために拠点を作っていかないといかん』
「はいはい、もうちょっと待ってろ。……ん?」
『にゃん?』
なんか柔らかいものを踏んだ
目の前にはずっと見えてた犬小屋がある、が、間近で詳しく見ると犬小屋ではないようである。子供1人がギリギリ横になれるサイズの掘っ建て小屋、ドアは無く、中にはボロッボロの毛布1枚と鍋1個。小屋の前に焚き火の跡があり、野菜、いや野菜っつーか草っぽいのが添えられている。これは人の生活している痕跡だ
『どしたよ?』
で、肝心の足元
「…………人が住んでる」




