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「よーしよしよし、繋いじゃえばこっちのもんだ」
メルのノートPCが最初に接続され、2日前までに保存されたファイルを選別せずにコピーしていく。その間にタブレットも繋いで、クレムリンに派遣されたSVRエージェントが活動していたと思われるクーデター5時間前からのファイルをその場で確認する。2時間前までは10〜20分毎に履歴が残っていたが、彼からの連絡はそこで途切れ、さらにクーデターから10時間後、このサーバー自体がネットワークから切断されていた
「大元のケーブルが切れたんだろうね、ネットワーク経路分けてないとは……いやそんな予算あるなら下水道なんか使わないか」
合計11回なされた報告を最初から流し見ていく。3回目までに大した情報は無く、大統領府内部からの報告は4回目から。疑う余地もなく味方同士であるためか、正面から堂々と入ったようだ。明らかに、この行動が彼の命を縮めた要因である
「5回目、さっそくスヴァロフ将軍を確認。すごいな写真撮ってる」
「生きて帰ってくる気ないでしょこの人。8回目、中国人だねこれ」
「また中国ぅ〜〜?」
ドアの向こうでヒナが声を上げた。またも何も最初からわかりきっていた事であるが、スーツの胸ポケットに仕込まれたらしきカメラは黄色人種の男性を捉えていた。極めて当然の事ながら政府の施設に特別な許可なく出入りできるのは国民の中でも政府関係者だけであり、合わせて、肌の色が違う人種で構成された国なんてアメリカくらいのもんである
「予想はしてたけど本当にこうなってたとは……ここで鎮圧しないと世界大戦待ったなしか」
ノートPCの進捗チェック、もう少しだけ時間がかかる。9回目、10回目とめぼしい成果はなく、彼の最期の報告となった11回目。テキストは1文字たりとも添えられていない、送られてきたのは写真のみ
金髪で、これ以上無いくらいスーツを着崩した男だった。肌の色はアジア人よりやや濃い中東系、後ろに先程の中国人を従え、人をナメきったような笑みの顔はまさかのカメラ目線でピースサイン。この一目でクソ野郎とわかる人間を見たのは初めてではない、最初は3ヶ月前のバイコヌール。一目見た瞬間にメルの表情が凍りつく
「スティグマ…むぐっ!」
思いっきり口を押さえられる、が、どうにも遅かった。やべえと思い当たった頃には背後のドアがバゴン!と吹っ飛ばされ、振り返る間もなくタブレットがひったくられる。力任せにぶっこぬいたUSBケーブルが垂れ下がったままヒナはそれを凝視し、3秒でルカに突っ返す
「あいつ今ここにいんの!?」
「よーし落ち着こう!写真撮られて留まってるわけないよ!」
「わかんないでしょ!クレムリンってどこ!?こっから近いの!?」
「遠いし敵の中枢です!」
「そんなのどーだって…!は……」
まず思い出したのは、彼女の四肢は機械に置き換えられ、そうなった原因を作ったのはこのクソ野郎だという事である。熱暴走覚悟で動かせば最大1.8馬力、比較対象となるとジャイアント馬場の2.2馬力あたりが妥当となる。シオンの手引きでマトモな整備を受けるようになってからは限界活動時間も向上し、要するに、メルもメルで脳のリミッターがぶっ壊れたりしているが、羽交い締めにしたくらいで止められる相手ではない
しかしまぁ、みぞおちは生身のままだ
「これが一番いい」
「ルカくん…時々私は君が紳士なのか狂人なのかわからなくなるよ……」
「紳士は5年くらい前にやめた」
腹に1発入れたら大人しくなったヒナを担いでサーバールームから退室、代わりにシグを招き入れる。ノートPCも回収して、担いだままハシゴを上がってSVR本部へ
「オーケー…落ち着いた…大丈夫……」
「そう?」
「とにかく持って帰って…後はシオンにでも頼むわ……」
カーペットの上にヒナを降ろすと、ふらつきながらHK417を構え直した。横にメルがやってきて、ノートPCを見せながら全部保存したよとアピール。最後にシグがコードリール引きながら上がってきて、コードを挟んで扉を閉め、すぐに真下でドスンと振動、挟んだコードは切断して破棄
「こちらSOG、こっちの仕事は終わった」
『よーし、よーーし!今すぐそっちに行くぞ!一刻の猶予もねえ!』
とにかく拠点へ帰るべきだ、そのためには任務を終わらせる必要がある。チーム9にメインサーバーを片付けて貰おうと連絡すると、当の彼らはさっきのヒナくらい焦っていた
「ライナー、何があった?」
『お前そりゃ見りゃわかんだろ!』
こっちは地下だよ、と言おうとしたがその前に
『敵の増援だ!鉢合わせしちまった!』




