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ワールドリフレイン  作者: 春ノ嶺
降伏の丘
17/37

15-3

タスクフォースがロシア入りしてから丸24時間。F-22Aラプター、満を持して大使館の空に登場である


「たった2機じゃあ……」


『ああいうのはな、いる事に意味があんだよ』


無意識に呟いただけにも関わらずこの返答、近くにいやがるのか。屋根裏の特設監視所から辺りを見回すが、米空軍によって徹底的に爆撃された廃墟は相変わらず静まり返っている


『単体でこれだけの抑止力を持った通常兵器はそう多くない。いつかは攻略されるんだろうが、あいつを撃墜できる能力は今の連中には無い』


編隊を組んだ2機のラプターは自らを見せつけるように周囲を飛び回った後、ヘリコプターの集団と入れ替わりで立ち去っていった。様子を見るに護衛という訳では無いらしい、昨日の時点で制空権は確保しているので当然ではあるが、わざわざ出てきたという事は狩り尽くした訳ではないようだ


『とはいえティーガーもドーラもティルピッツも戦局をひっくり返すほどではなかったし大和も武蔵も沈んだしな、戦争の勝敗を決めるのはもっと根本的な所だよ』


「はい話を元に戻す」


『ういお』


ヘリは大半がレンジャーの陣地へ、こちらに向かってくるのは3機


『そうさなぁ…お前の戦闘力を53万とすると、リン10万、カエルくん15万、火之内姉妹が30万ずつ、テオドールのジジイが60万』


「EAー6は?」


『100万は固い、が、まぁたった1人だ、いくらでもやりようはある。殺していいんならな』


「……」


『資料は全部見たよ、マトモな感覚持ってるなら誰だって躊躇うだろうさ。小学生じゃん』


3機のヘリのうち2機はおそらく武器弾薬が詰まっているだろうコンテナを吊り下げている。大使館庭の適当な場所にそれを降ろし、2機はそそくさと退散。残った1機は人員が乗っているのだろうか、酷く大雑把にHと彫られた場所へ降下していく


ラファールとウィルが建物から出てきた、とても慌てている


『ネア!ヘリの周囲を監視して!』


「はいはいやってますよー。いったい何が乗ってるんです?いつの間にか厳戒体勢ですけどまさか司令部で…も……」


そのヘリコプターは軍用機ではなく、かといってバリバリの民間機でもない、性能の良い市販の機体を戦場で使う為に改修したような見た目だ。非武装だが、機動性はかなり高い


そんな機体から出てきたのは女性だった、若い日本人女性だった。やや茶色っぽい長髪に左右どちらかにあるテールは変わらず、どこから見ても非戦闘員とわかる白の長袖ワンピースと高そうなバッグ。ヘリから降りた瞬間、寒さにやられて身を縮めている


忘れるわけもない、かつての爆弾女(物理)、葛城明梨本人である


「はぁいぃ???」


『私だってはぁいぃ言いたいわ!』


今回の件も半分以上彼女の為の仕事ではあるが、彼女自身は護衛対象ではなくスポンサーである。こんな最前線にいる意味はないし、いまさらアストラエアなんてピッタリなんだか皮肉なんだかわからないコードネームを再取得する必要もあるまい


『いてもたってもいられなくなったって感じだにゃー。なんか遠い世界の夢の国で反戦を語ってた時もあったが、あの騒動が終わってからは戦場カメラマンみたいな事やってるよ』


「ちょっと待って、お前どこにいんの?」


『君らの目の届かないとこ』


そりゃわかっとる


『世界から軍隊が消えた事は人類史上1日もない、当時も我々のような集団がいたはずにも関わらずだ。それは軍隊以前に無秩序な暴力が存在するからであり、その為に秩序で統制された暴力が必要だからだ。この根源的な問題を取り除かない限り軍隊が消える日は無い。よって今を生きる我々は、軍隊を無くす努力ではなく、軍隊なんか無くたって平和に生きていける世界を作る努力をすべきだ。…まぁ間違っちゃいない、何の解決にもなってないんだけどな。世間知らずの強引な主張よりはよっぽど説得力がある』


ヘリから出てきたのは明梨だけ。機内に残った男性からPCケースと旅行カバンを渡され、そこでヘリは浮上して南へ離脱。手を振って見送っている明梨の隣へラファールがようやく到達、撃たれたいのかおまいはー!とか言いながら建物へ引っ張っていった


「……実行するアテはあんの?」


『あたしやあの子みたいな小娘がそんな世界の摂理みたいな事知ってると思うか?思わないだろ?評価すべきは”方向性を示した”点、ガチで平和を望むなら正教会にでも寄付しとけ』


明梨が庭から消えたのを確認してから大使館外周に視線を戻す。狙撃手が好みそうな高い建物は残らず倒壊しているが、偵察員に姿くらいは見られたか。見られたからといってどういう訳でもないのだが


『無駄話が過ぎたな、移動の時間だ。んーと結論だけ言うと、お前の妹さんはー』


「妹じゃない」


『そお?んじゃあこの…ボリビアVI社製インタリティアームズ特試製戦闘特化個体EAー6、か』


「そいつは今どこに?」


『3日前に東欧入りした』


近い


『クーデターの発生前の事だ、目的は恐らく実戦での試験運用、ついでにクーデター軍の支援ってとこだろう。つまりネア、こいつが真っ先に行きそうな場所は、モスクワで唯一制圧されていない、クーデター軍にとって目の上のたんこぶ、そのアメリカ大使館だ』


「なーる……」


『ま、油断はするな。シールズさんでも不意打ち食らったら全滅しかねん』


じゃあまた、といって、梢は電話を切った


少なくとも、この監視所にはサーマルを常備する必要がある


「……ビビってても仕方ないか」


もうすぐ交代時間だ、明梨でもからかいに行こう

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