15-2
「最初に宣言させて欲しいのは、僕は今回ツッコミをしないという事だ」
「待って、待って!それだと私がやる羽目に…!」
SVR本部の側面に到着した直後、チーム9分遣隊4人から監視支援を求められたためヒナが対応。HK417を構えてはいるが、今の所発砲はしていない
向こうが4人なのと同じくこちらも4人、チーム9の周りを警戒するヒナ、隣で観測手っぽく振る舞いつつ爆破すべき柱の数を数えるシグ、そしてその後ろですったもんだするメルとルカ。それ以外は大使館で防衛に当たっている
「無理だよあんな東西横綱みたいなの1人でさばくなんて!」
「やればできるやればできる」
「何そのテキトーなの!」
「おーい、手持ちの爆薬じゃ解体処分は難しそうだー」
「ほら早速始まったし!サーバーを始末するのに建物まるごと吹っ飛ばす必要なんてないでしょ!」
用を済ませたシグがビルの端っこから離れて貯水タンクの側へ戻ってきた。そう時間を置かないうちにヒナも切り上げ、マガジンをハンドロードの亜音速弾から市販品へと交換、メルの隣に座り込む
「しばらく目標地点を監視したいから待機してろって」
「待機でいいのかな?」
「戦術も指揮系統も違う相手とうまく連携できる自信無いんだとか」
まあもっともである、立ってる人間を片端から撃てばいい場合なら何て事は無いが、監視となると重複というものが発生してしまう。ヘッドギアと同じくチーム9から支給されたタブレットをメルが取り出し、データリンクシステムを起動、マップには既に赤いマーカーがいくつか置いてある
「はい昼ごはん」
「うん?」
ヒナのバックパックからやたらオサレな紙包みが現れた、機能性重視の無骨なミリタリー用には見えないので大使館に残されていたものだろう。受け取った途端にパン独特の弾力を感じ、中身はサンドイッチであると確信
「具に関する文句は私ではなくアクリッドに、っていうのが隊長からの事前通告」
「あっ……」
そういう事を言うとなると、間違いなく朝食からのくだりだろう
パンに具を挟んだ食べ物は世界各地のパン食文化を持つ地域で遥か昔から食べられていたが、現代のサンドイッチとはメシマズ大国イギリスで生まれたものである。かつての国務大臣サンドイッチ伯爵が博打打ちながらでも食べられるからと毎食こればっかり食べていたためサンドイッチと命名された、用はジャンクフードの祖先みたいなやつだ。イギリスは飯が不味いという点についてルカも肯定しているものの、紅茶とデザートだけは世界一であり、軽食であるサンドイッチもイギリス料理の中ではかなりマシな部類に入る。日本におけるカツサンド、あんこサンドのようにアメリカでも独自のサンドイッチ文化を持っており、代表的なのはアメリカンクラブハウスサンド、ベーコンとターキーとレタスとトマトとマヨネーズを具に三段積みしたものである。凝ったものは軽食の範囲を逸脱するほど積み上げられ、ナイフとフォークで食される事もある
かくして紙包みから出てきたものには、厚さ1センチに及ぶ茶色いペーストが挟まれていた
「こんな文字数使って解説しといてピーナッツバター塗ったくっただけかーーーーい!!!!」
神速で通信機周波数を味方オープンにセット、トークボタンを押しながらメルは叫んだ。おいバカ大声出すなとヒナがガチ焦りするも、幸いにして周囲は掃除が終わっている
『安心してくれ、みんな大好きスキッピーに砂糖を混ぜ込んである』
「なんだよスキッピーって知らねーよホモ野郎!」
いつものバカキャラ風な口調を蹴り殺してアクリッドに罵声を浴びせるチャイナ娘。数ヶ月付き合ってもかの美食大国との関連性はほとんど感じられなかったが、紫色の髪の根元は確かに黒色をしていたし、この様子では舌も中国仕様と思われる。ちなみに、中国語は話せるが書けない、とのこと
「スキッピーって?」
「ピーナッツバターの製品名、もしくは米国でホモを表すスラング」
冷静に言うヒナも若干溜息。ご当地スプレッドというならベジマイトとかいう名のレジェンドもいるが、知名度だけなら圧倒的にピーナッツバターなのだ。挙句、最近ではアメリカ軍ですら食べずに燃料として使う始末
改めてサンドイッチを見て見よう、アメリカ人のソウルフード、ピーナッツバターサンドである。日本のものより一回り大きい食パンの耳を切り落とし、あらかじめ砂糖を混ぜ込んだスキッピーなるものを塗布した、それだけのものだ。なお塗布とは言ったものの、その層は1センチある
『アメリカの子供はそれ食って育つんだって言うし、正直肉パテよりはハードル低いから大丈夫かと思って』
「いやそんな毎日食べるもんでも無……あぁー変わってない」
とか作った当人ラファールさんが主張したりヒナが苦笑いしたりしてる間に(観念したメル含め)ルカも一口かじってみる
甘い、それ以外に感想が浮かばない
「ちょっと待って、混ぜた砂糖の割合は?」
『そうね、だいたい2割』
「ただでさえ甘いのになんでそんな事するの!?バカなの!?」
「あいつらの擁護する訳じゃないけど、これまだ控えめよ?」
「いやいやいやいや!?これもうピーナッツっていうか砂糖の塊だよ!?ジャリジャリいってるし!」
『いいから黙って食え!そして仕事しろ!』
「はい!!!!」




