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ワールドリフレイン  作者: 春ノ嶺
コーヒーブレイク
1/37

丁度6年前の話

「何やっとんだお前」


そのオレンジは地面で仰向けになっていた


「見てわからんのか…行き倒れてるんだよ……」


雨の舞う曇天をじっと見つめながら細い声で言った。5歩歩いて近付く、踏みしめるたびに水浸しの地面が音を立てる。ビニール傘の範囲にそいつを入れて、それからしゃがみ込んだ。見た感じの年齢は中学生になったかどうか、性別女性、スポーツウェアみたいなぴっちりした服装をしていて、うち右肩には大穴が開いている。出血の度合いからして、あと1時間が山だろうか。


「助けて欲しいか?」


「別に……」


虚ろに空を眺めたままそいつは呟く。


「この地域…っつーかこの大陸の人間じゃないな、何これすっげー色」


欧米人のような東洋人のような、様々な遺伝子が混ざり合ったような肌色と、夕陽のような色、そんな表現がたまらなく似合うオレンジの髪だった。頭皮を覗き込んでみる、毛根までオレンジである。


「宇宙人?」


「そうならむしろわかりやすかったろうがな……」


自分で言って、それでピンと来た。人間のようなよくわからん何かを製造する施設が確かある、この近くに。


「ああお前さん、谷の下の研究所から逃げてきた奴か。捜索願が出てるぞ、生死を問わず、5万ドルだ」


「死体でよけりゃ好きにしろ……」


やれやれ、という意味を込めて息を吐き出す。少しの沈黙の後、透明の傘越しにそいつと同じ方を見てみた。相変わらずの雨だが雲は薄く、動きも速い。所々に穴が開いていて、光のカーテンがかかりつつある。


「…籠から出れば空に届くと思ってた…翼なんて無いっていうのにな……」


「……死ねば飛べると思うか?」


「さあな…でももうどっちでもいい…終わりでいい……」


急に雨が弱まる、あたり一帯に光が差し込み始めた。


天使が犬と少年を向かえにでも来たのか。


「終わりか、そうだな、その方が楽そうだ」


死にかけと同じくらい細い声で呟き立ち上がる。オレンジを跨いで歩を再開した、別段行き先も目的もある訳ではないが。


そのまま10歩、背後に変化はない。もう一度空を見てみる、僅かに開いていた雲の穴が、突風で大きく引き伸ばされて。


「わっ」


傘が吹き飛ばされる。


真後ろに高く舞い上がったそれを目で追う。行き倒れたままのオレンジをビニール傘が飛び越えて、その先に。


いるはずの無いモノがいた気がした。


「ぇ……?」


無論いるはずが無いのでそこには何も存在しない、今見えた気がした人間はつい先日に墓の下へ収まってしまった、ここにいる事はあり得ないのに。しばらくその虚空を眺め、くしゃりと頭をかく、傘は失ったが濡れていない。



まぁ、それもいいだろう。無意識に口から出た。



「おい」


再び行き倒れオレンジの枕元、ぐいっと顔を近付けニヤリと笑う。なんだよ、と気だるげに視線を向けられた。


「終わってない」


「は…?」


「戦えるんだろ?なら価値がある、あたしに付け」


「いきなり何言って……」


「もうどこまで行ってもこの世は止まった有様で。もう駄目だ、何をしたって変えられない、誰もがそうやって諦めて、口を開けば金金金」


何故なのかはわからないのだが。


「しまいにゃ家族が殺されて、なんかもうどうでもよくなってた。でも今ここでお前を見捨てていったら」


何か、それが。


「本当に何もかも終わっちまう気がするんだ」


最後の依代のような。


「だからもう少し、まだやれる事が残ってる、だから何もかも諦めちまうのは、もう少し待ってくれ」


手を差し出す。


「……どこぞのガキんちょにいきなり言われてもな…」


しばしじっと見つめ。


真っ白な右手を乗せてくれた。


「お前もガキんちょだろーが。名前は?」


「そんな洒落たものは……」


それを肩に回して担ぎ上げる、軽い。


「計画名なんだったか…確かEA?何の略だ?……んーまぁいい、じゃあこういうのはどうだ?」


よいしょ、と。


立ち上がる気のなかった奴を立ち上がらせ。



「エア」

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