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プログラミング・ライフ

作者: みや

 少年は特別だった。

 少年には己に関する全ての情報を数値化して、閲覧、変更する能力があった。

 無論先天的なものではない。少年は人類の技術によってその能力を手に入れたのだ。


 数年前、人類はついに人間の全てを数字で表し、その数値を人為的に変更することに成功した。外見や体の働き、感情に至るまで、己という存在の全てを数字としてみることができるようになったのだ。

 ヒトゲノムや生体反応に関する化学反応、パターン化した感情や行動、物理法則、etc……。それら全てを数値化、数式化し、極小コンピュータにプログラミングし、脳内に埋め込む。己に関する事象に変化を与えたいなら、そのコンピュータに脳内の電気信号でアクセスし、事象に該当する数式を検索、適当な数値を変更するだけだ。現在の技術なら、それら全てを問題なく行え、かつ使用者に負荷を与えないコンピュータは容易に製作できる。

 傲慢な人類はそんな技術をも我が物にしようとした。そのための過程として人体実験に踏み切ったのだ。


 少年はそんな人体実験の日本、男性、学生、14歳の代表の内の一人となったのだ。

 少年は勿論拒むこともできた。しかし、少年は寧ろその検体となることを喜んで引き受けた。少年の両親は少年が幼いころに離婚。父親に引き取られた少年は毎日のように虐待を受け、心に深い傷をおい暗い性格となった。その性格が原因で学校でも虐めにあっていた。そんな少年にとって己の全てを自由に操作できるということは夢のような話だった。


 能力を得た少年はそれを多用した。

 学校に遅刻しそうになった時には、ヘモグロビンの酸素運搬量を通常の2倍に設定し、持久力をあげた。喧嘩になれば全身の筋肉の強度を1.5倍にし、強力な一撃を繰り出した。本来の活動以上の負荷をかけた身体を回復させるために、生きていくうえで必要な最低限の活動以外の活動の数式内に一時的に0を代入し回復に専念した。

 インフルエンザになれば、回復力に関する数式の中のnを2倍にし、その日のうちに熱を引かせた。車と衝突し全身骨折で入院すれば、カルシウムの吸収を促進させ、医者も驚くようなスピードで退院した。その内面倒になって、怪我をせず、どんなウイルスにも一度かかれば完全な抗体を持つように、数値を変更した。

 友人の機嫌を伺う為に思考回路を早くしたり、性格を微調整したりもした。


 能力を得てから数か月、少年は人生で初めて恋をした。

 少年はその相手に話しかけた。しかし彼女の理想の多くは今の自分とは違った。少年はその日、今までで一番多く数式を変更した。外見、声、性格、身体能力に至るまで、少年のほとんどの部分を。

 結果として少年は彼女に見合う相手となった。彼女の前に初対面を装い現れると、彼女は一目惚れをし、少年と付き合った。


 しかし多くの数式の変更は多くの矛盾を生んだ。少年は競合する数式の多くに0を代入し、機能を停止した。外見の変更に伴う、生命活動への影響のため長時間の休息を要した。

 そのようなことをすれば当然異常が発生する。彼女はそんな少年の異常を気味悪がり、数日で少年の前に姿を現さなくなった。



 少年は絶望し、原因となった恋愛に関するシステムを全て停止させた。

 少年が自殺したのはそれから数日後の話。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語のアイデア。発想力がすごいと感じました。 読みやすい文章。 [気になる点] 少年の身に起こった異常について具体的なことが書かれていないので、いまいちラストの展開が腑に落ちないところ。 …
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