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Run away! 1

休日の休日

作者: 貴幸

アラーム音がうるさく耳元で鳴る。

僕はその音の煩さに辛いながらも手を伸ばし時計を乱雑に叩いた。


カーテンの隙間から眩しい日差しが少しはみ出して僕にかかる。


「んんっ……」


眩しくて寝返りをうったところでようやく今日の予定を思い出した。


「あっ!!!!」


すぐに毛布をはねのけ起き上がる。


今日は雪ちゃんと遊びに行く日

だ。





時計を見ると8:30

待ち合わせは一時間後だ。

映画を見て本を買ってそこらへんぶらぶらする。


決してデートではない。


デートではない。


「…」



「緊張するっ!!!」


一人舞い上がる自分が馬鹿馬鹿しく思えた。




いつも着ているパーカーではなくカーディガンを羽織りスニーカーをはいた。

女の子と買い物に行くわけだし、少しくらいオシャレをした方がいいと思うんだ。

外へとつながるドアに手をかけ後ろを振り向いた。


「行ってきます!」


精一杯の笑顔で。





待ち合わせ場所につくと雪ちゃんはまだ来ていなかった。

時計を見ると9:15。

どうやら待ち合わせ時間よりも15分も前についてしまった。

すぐ近くにある椅子に腰掛けながら、見つけた時なんて声をかけようか、お昼は何にしようか、くだらない事をたくさん考えてしまう。


「はやく会いたい。」


素直な回答に少し恥ずかしくなった。




五分前、雪ちゃんの姿が見えた。


「ご、ごめん待った!?」


「ううん、むしろ今(15分前)来たとこだよ!」


雪ちゃんはほっとしたように息をついた。


「よ、良かった…」


「それよりさ、映画館行こう!」


僕たちは映画館に向かった。

手を繋げる距離にドキドキしている事を隠したまま。



映画を見て本を買った。

雪ちゃんがふいに僕の方を見た。

意外と近かった距離を実感し、恥ずかしさに少し距離をおく。


「時人、今日はありがと。本買えたし映画も見れたし。」


雪ちゃんは優しく微笑む。

その笑顔にきゅうっ、と胸が締め付けられる。


「僕も楽しかった、また行きたいな…」


僕も微笑む。

君が笑顔なだけで僕も幸せだ。


しかし絶好のデート日和だったはずの晴天を突然、黒い雲達が覆い隠し始めていた。

ポツ、ポツ、と音がしてきたと思うとその音は大きくなってきた。

幸せな日々で終わると思っていた間際、突如雨が降ってきた。


「えっ、雨!?!?」


「あ、僕折りたたみ傘……持ってない!!!」


「持ってないのかよ!」


すぐ側にあった停留所にかけこむと中には他にも雨にぬれた人が雨宿りをしていた。


「やみそうにないね…」


雨は次第に強くなる。

予想以上に強い雨らしい。


「雪ちゃん帰れそう?僕はここからすぐだから大丈夫だけど…。」


「大丈夫大丈夫、待っても一時間とかすればバス来るし。事故とかにあってない限り…」


フラグだったかのようにアナウンスが流れ出す。


『ただいま、45番バスが交通事故に巻き込まれ停止しております、ただいま…』


雪ちゃんの顔がどんどん真っ青になっていく。


「マジか…」


「あ、雪ちゃんとりあえず僕の家来ない?」


「えっ!?」


雪ちゃんが形相を変えてこちらを見た。

何かまずいことを言っただろうか。


「雨やまなさそうだし、ここ狭苦しいし、両親の仕事終わるまで僕の家で休んでていいんじゃないかな。」


「え、で、でも時人の親に迷惑だし…」


眉がひくりとあがる。


「それわざと言ってるの?」


僕の家には両親などいない。


「あ、いや、忘れてた。」


雪ちゃんは申し訳なさそうに目をそらす。

どうやら本当にわからずに言ったようだ。


「怒ってないよ、行こう?」


僕たちは手を繋いで家まで走った。




「ただいまー!」


元気良くドアを開ける。

これは癖だからしょうがない。


「おじゃまします。」


雪ちゃんは比較的真顔だ。

確かにたまに家には来てるけど少しくらい意識してくれてもいい気がする。

女の子用の服なんてあっただろうか。


「雪ちゃん服濡れてるし、僕の服でいいなら着る?」


「あ、いいの?」


嬉しそうな顔をする。

さすがの僕でも下着の透けたそのシャツのままでいられると理性を保てる気はしない。


「服男性用しかないけど良いかな?」


「それなら大丈夫、どうせ時人だし。」


「あ、はい。」





雪ちゃんが僕の服に着替えた。

あまり考えてはいけない事ではあるが、なんだか彼シャツみたいなぶかぶかさはないものの、雪ちゃんは僕の服を着ているのだ。

僕の服を…

今後その服を着れるかというと着れない気はした。


「服ありがとう。」


「両親、いつ仕事終わるかな?」


「んー、大体九時十時。」


「えっ、そんな!?」


両親などいない僕には出勤時間などあまりわからない。

僕はもしかしたら重大な事をやらかした気がした。


「あー…何時までいれるかな、バス動くようになったら帰るし。」


「い、いや。」


「え?」


「別に何時までいても良いよ?」


「…」


「…」


頭の中が真っ白になる。

何が言いたかったのか自分でもわからない。


「って違う!ち、ちがちがちが違う違います!!その、雪ちゃんも両親に迎えに来てもらった方がほら夜だから安心できるしそれにまた雨に濡れるのもアレだしだから九時まで待てばいいんじゃないかなって言う!」


「そ、そうだよね…う、うん。」


とんでもなく気まずい。


「あ、僕飲み物とってくる、そこらへん、あ、ソファ座ってて!」


コップを机の上に用意するとお茶をそそいだ。

雨の音が窓越しに聞こえる。

雨音によってこの空間がいつもより密閉されている気がした。


「お茶もう満杯になるよ!?」


「えっ!?」


手元を見るとお茶がコップから溢れ出す寸前だった。

表面張力という奴だろうか、こぼれていない。


「えっと…時人大丈夫?今日具合悪いんじゃ…」


「いや、そんなことはないよ!」


ただ、二人の空間に緊張してるだけだ。




テレビを眺めながら二人の時間を過ごしているといつの間にか七時になってた。

気にしすぎなのかわからない。

なおも緊張しているなか、雪ちゃんは爆睡していた。


「雪ちゃーん…」


そっと声をかけてみる。


もちろん起きない。


そっと雪ちゃんの手に手を重ねる。


もちろん起きない。


そっと唇に…



「時人さんそれ起きてるとわかっててやってるんですか。」


「…オハヨウゴザイマス。」


雪ちゃんも俺も顔は真っ赤だ。


「雪ちゃん起きてたの。」


「寝てると思ってたの」


正直…


「爆睡してるかと思った。」


鼻をつままれる。


「痛い痛いっ!」


「できるわけないでしょ!?」


雪ちゃんは右手をはなすと面と向かって言った。


「そうゆうことやるなら堂々とやってくれませんか?」


「…あはは、そうですね。」


「なんで笑うんですか!?」


目を合わせて笑いあった。


雨の降る夜はなんだかいつもと違ったような気がした。





「あ、もしもし、お母さん?時人の家に迎えに来てくれない?うん、う…違う!!!うん、うん。」


電話を終えるとこちらにきた。

すぐ隣に座る。


「今迎えに来るって。」


「着てきた服着なきゃね。」


「そうだね。」


ソファに全体重を預ける。


「あぁ…」


頭がぼーっとしてる。


しばらくしてインターホンがなった。


「時人今日はありがとう、じゃあまた月曜日ね…!」


「うん。」


玄関のドアを開けようとする手を止めた。


「え?」


「おやすみ。」


「……おやすみ。」


雨はすでに止んでいた。

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