10
場面は戻り総一郎の部屋。
肩を落とす正宗を薙扨が慰めていた。
「幸せにするっすから。問題ないっすよ」
「あぁ……そう……おれが言いたいセリフだねそれ……」
正宗はさらに落胆する。
この世界に来てからと言うもの、男が女に言うセリフを逆に言われている気がしていた。
正宗は自分が目指すものからかけ離れ始めていた。
「ん? なんか廊下がうるさいな……」
「ふむ……これは薺が来たのだ」
「あ、わかるんですか?」
「わかる」
結局は親ということである。
理解ができるってことはそういうことだ。
正宗はうんうんと頷いた。
すると入口の扉が開く。
「見つけましたよ正宗さん。加勢します!」
「あの女は何を言ってるんすか? 今の状況をぶち壊す気っすよ」
「えーと。薺。何を考えてここに乗り込んで? メモにはここに往くとしか……」
「殴りこみですよね!」
「わぁ、暴力的な考え~」
正宗は頭を抱える。
そうしてくるりと総一郎のほうを向く。
そして二人は互いに頷く。
「薺よ」
「お、戦闘開始ですか」
「どうやら反抗期のようだ」
総一郎は正宗を見る。
その返答として真顔になる。
総一郎はその顔を見てフッと笑う。
正宗は少しイラっとした。
「な、薺。話を聞いてあげてくれる?」
少しひくついた顔で正宗は薺に話しかける。
ナズナは少し不思議そうな顔をしながら頷く。
それを見たあと再び正宗は総一郎のほうを向き頷く。
「薺よ。私は今までずっとお前のことを思って行動してきた」
その言葉を聞くと薺は『は?』といった顔をしていた。
正宗と薙扨はそれを淡々と見つめる。
後から来た鞘歌と阿利洒もそれをただ見ている。
「お前のために国を使ってまでいろいろなことをした……」
「えっ? それは政治的パフォーマンスで……」
「いや、違う。すべてはお前の望みをかなえるためだ」
薺はその言葉を聞きキョトンとする。
正宗と薙扨は周りに聞こえないようにひそひそと話す。
「いやはや、結局は薺も姫さんすね」
「まぁ、贅沢を普通って思わず政治って思うのは薺らしいけどね」
二人がひそひそしている間にも総一郎の話は続いていた。
薺はポカンとしながら聞いている。
まさかこんなことを聞かされると思っていなかったのだろう。
「と言うわけだ」
「なるほど」
薺は納得の言葉を口にしていた。
それを聞いて再び二人はひそひそと話す。
「わかってるのかな?」
「さぁ。なんとなく言っただけってのもあり得るっす」
答えはどっちか。
二人は薺をみる。
そして薺は喋り始める。
「つまりは今回の結婚は政治じゃないんですね!」
「その通りだ」
「ならまったく無問題ですね!」
薺はすごく喜んでいる。
正宗と薙扨はあんぐりとする。
親の愛を理解というのはそういう答えが正解だとは思えない。
「あーよかったです」
「うむ。喜んでくれてよかった」
親子は笑顔で笑っていた。
正宗と薙扨はあんぐりしていた。
そして……
「なんかうちら蚊帳の外やな」
「……殺気がさっき……消えた……ふふ」
「あ~うん。よかったな。うん。よかったわ」
残された二人は何とも言えない空気だった。