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「薺ちゃ~ん。まってぇや~」
「……待って」
「ちょい、阿利洒ちゃん。そんな声じゃ聞こえへんよ」
鞘歌と阿利洒は走り去った薺を追っていた。
薺は目的もなく走っているようである。
「いや、このままやとドームの端まで走りそうやで」
「……端まで……走る」
「あ、阿利洒ちゃんそういうの好きなんやな」
「……最高」
そんなこんなことを言いながら本当にドームの橋が見えてきた。
キングの家はドームの端近くに作られているためである。
薺の家から少し距離は遠い。
更に動く歩道も伴い端到着までの勢いはさらに増す。
「へっへっへ~薺ちゃ~ん。もう逃げられへんで~」
「……覚悟」
「いや、それじゃ悪もんみたいや」
そう言いつつ二人は薺を囲むように立つ。
ナズナはハアハア息を切らしながら壁に手をかけている。
「まぁ、なんや。わからんでもないねんけど、とりあえず家に帰ってみんなで話そうや」
「いや、まぁ、そう、ですね。わた、しも、こん、らん、してて」
「息切れ切れやな」
鞘歌は薺に肩を貸した。
阿利洒も肩を貸そうとするが身長が高い二人には合わないのでできない。
阿利洒はしゅんとした。
「いや、まぁ、なんです。疲れましたよ。ホントもう。いろいろと」
「ま、親ってのはああいうもんなんやろ。よく知らんけどなぁ~」
「……私も……知らない」
この二人はすでに親はいない。
鞘歌は窯洒と二人で生活していたし、阿利洒は刹徳に助けられながら一人暮らしをしていた。
ここに親というものを知る人間は薺しかいない。
だからこそ二人は親子の喧嘩に口は出しにくい。
「……親を知る私が、私の問題ですか」
「親ってのを一番しっとるのは薺ちゃん。親を理解できるのは薺ちゃんや」
「ですか……にしてもフランクですね鞘歌さん」
「ん~同じ夫を持つ女やからとかじゃあかん?」
「……いまそれで揉めてるんですよ」
薺は少し睨んだ。
鞘歌はアハハと苦笑いをした。
阿利洒は自分の身長を気にしていた。