10
「ここがあなたの部屋です」
「何にもないじゃないっすか! ぼくにここに雑魚寝しろと?」
部屋に案内された薙扨は悪態をつく。
その言葉を聞いた薺はイラつく。
「んなわけないじゃないですか! ちゃんと布団が横の押し入れに入ってますよ!」
横の押し入れを指さす。
ちなみにここは何もない部屋だが押し入れにいろいろな荷物が入っている。
いわゆる倉庫として使っている部屋の一つである。
「はぁ? 先に出しといてくれたりしねぇんすかぁ?」
「居候がわがまま言わないでください!」
「はぁ……それもそうすね」
薺の叫びに薙扨はすんなりと引き下がった。
薺は意外だったので驚く。
薙扨はフンと鼻息を立てる。
「ま、先輩に迷惑もかけたくねぇっすし……」
薺は薙扨がいった理由に納得した。
正宗のためならば当たり前のことである。
「ところで先輩の部屋はどこなんですか?」
「はい? 別にどこでもいいんじゃないですか?」
「いやいや重要っすよ!」
薙扨はフンと鼻息を鳴らしながらドヤ顔で胸を張る。
薺はそれを見て再びイライラとする。
自分は胸が大きいほうと思っていたがそれは幻想だったようだ。
「ふん! 正宗さんの部屋は階段登って二番目の扉の部屋ですよ」
「はぁ!? それって一番奥の私の部屋からかなり遠いじゃないすか!」
「ちょうど何もなくていい部屋がここだっただけです」
二人は顔を合わせる。
誰かが見れば眼から火花が出ている幻覚でも見えただろう。
「あんたっ!」
「ふふ。しっかしあなたと顔を合わせて話そうとすると下を向かなくちゃなくて疲れますねえ~」
「ああん? さてはぼくの胸の大きさに嫉妬してるな? この先輩のために大きくしたこの胸が!」
「はぁ?」
「あぁ?」
二人はにらみ合った。
そして二人の腕が動く。
殴り合いが始まるのだ。
「てんめぇ!」
「まけませんよぉ!」
ドダバタ、ドタバタと二人は殴りあう。
その音は下の階へも響く。
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「……平和だ」
「……平和」
二人はいまだにお茶を啜っていた。