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「とりあえずあいてる部屋に案内したらどうかな」
「この子ここで暮らすんですか!?」
「他にどこで暮らせって言うんだ……」
正宗は薺の言葉に頭を抱える。
阿利洒のときはなんだかんだで受け入れていたのだが。
水に油を注ぐかの如くに犬猿の仲のようだ。
「他で暮らすところがないんですかこの子?」
「ん? あ、言ってなかったかな。薙扨はおれと同じ世界の住人なんだ」
「さらに追記して言うと小学生のころからの長い付き合いっす! お互いをわかりあってるっす!」
エッヘンと胸を張る薙扨。
アニメや漫画とは違い現実的に胸は早々ゆれるものではない。
だが薙扨の大きな胸はその法則を破りたがるかのようにかすかに揺れる。
さらにはその胸には合わない小さな身長がその胸を強調させる。
薺はイラっとした。
さらには自分の男装と言う特徴を奪いかねないしゃべり方。
恰好は男装ではないが、あなどれたものではない。
更には正宗の長年の付き合いがあるというのだ。
「くっ」
「ふふん♪」
薺は唇をかんだ。
正宗はそれを見てあたふたとしていた。
女同士の争いというものを現実で体験したことのない正宗にとってどうすれば解決できるのかわからなかった。
「え~と、とりあえず……あいてある部屋に案内してやってくれる、かな」
「……はい」
薺はしぶしぶといった感じで薙扨を上の階へと案内する。
案内されている薙扨はにやにやしていた。
これからどうなるのか、正宗は不安だった。
「……おもしろくなりそう」
「ふぇ?」
横で蚊帳の外となっていた阿利洒が正宗の背中をたたく。
正宗はすっかり忘れていたので少し驚いた。
「……私より小さい子。……胸は大きいけど、これで……私はおねいさん」
「いや、あれでも一応、阿利洒より年上だよ」
「えっ……」
阿利洒は愕然とした。
「いや~薙扨はおれと同じ学年でさ」
「……でも先輩って……」
「人生の先輩で尊敬に値する人だからってことらしいよ」
3月31日生まれであり、年下ではある。
あと1日ずれていたら先輩と一緒に学校に行けないと泣いていたのも昔の話である。
(あの日、一緒に帰ってたら手紙を汀が呼んではじめから一緒にこの世界に来てたかもしれないなぁ)
薙扨と正宗はクラスが違った。
それにあの日……手紙をもらった日は薙扨が用事があったため一人で帰った。
もし手紙を読まれて一緒にタイムカプセル掘りに向かっていたらどうなっていただろうか……
「……どうしたの?」
「いや……」
Ifの考えなど考える必要性もない。
正宗はそう思い阿利洒を見てふっと笑った。
阿利洒はよくわからずに首をかしげる。
「なんでもないよ」
「……そう」
そして正宗はテーブルに座り、緑茶をすすった。
そして阿利洒はせんべいを食べ始めた。