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改札に向かうと懐かしい人物が手をぶんぶんと降っていた。


「おっ! 久しぶりだなぁ~早河」


幼馴染の涼村 牙(すずむら きば)である。

改札を出ると駆け寄って近づいてくる。

いきなり肩をポンポンと叩いてくる。


「久しぶりだなぁ。引っ越して以来だな」

「おう、おうおう! お前相変わらず髪型がちょんまげだなぁ」

「ちょんまげ言うなし。気に入ってるんだから」


そう言いながら正宗の髪の毛を触る。

束ねた髪をふっさふっさとしている。

正宗は嫌そうに手をはねのける。

牙は残念そうに悔しがった。


「ちぇっ。あ、そういや万と飯多も呼んでんだ。先に言ってもらってる」

「万と飯多か。なつかしいな」


ふっと昔のことを思い出す。

子供の時以来、手紙や電話でしか会話したことがない。

久しぶりに会えるとなると顔がゆるむ。


「ま、懐かしむのも合流してからにしよう」


そう言って牙は歩きだし、正宗もそのあとをついて行く。

その足取りは軽いものだった。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


懐かしい林に向かって歩いて行くと人影が見えた。

その人影も懐かしいものだった。


「お、早河おひさ~」

「お久しぶりですね。正宗」


タイムカプセルを埋めた木の下には手を振っている幼馴染の万 魚樹(ばん うおき)と眼鏡を触ってポーズをつけている飯多 冴止(いいた さえと)がいた。

正宗はそれを見てフッと笑った。


「飯多は相変わらずか」

「ぼくも久々に会ったけど飯多だってわかるかっこ付けだったよ」

「ふっ。かっこよさのなんたるかもわからない君たちには理解できないのだろう」


そう言うと冴止は再びかっこつけるようにポーズをとる。

それを見た三人はやれやれと言ったポーズをとる。

そんな時、魚樹は後ろに置いていた荷物に手をかける。

それに気がついた牙は二人に話しかける。


「それより、いよいよ4人そろったんだ。さっそく掘ろうぜ」

「一応スコップは持ってきたが。そんなに深く埋めた覚えはないな」

「子供がそんなに深く埋められるはずもないしな」


魚樹はそう言うと用意してきた人数分用意されたスコップを3人に渡した。

3人はそれぞれスコップを受け取った。

冴止はスコップでかっこいいポーズをとっていた。

ほか3人はもはや何も言わない。


「そう思ってるなら4個もスコップいらねぇだろ。しかもこんな本格的な」

「園芸用とかじゃ様にならないだろ」

「そうかもしれませんね。さて、埋めた場所はあそこですよ」


受け取ったのちに4人は埋めたはずである場所を掘り始めた。

どんどんと穴は深くなっていく。

が、一向にタイムカプセルが見つかる気配はない。


「あっれ? そんなに深くに埋めたか?」

「埋めた覚えがないと言ったのはきみでしょ。私もそんな覚えないですよ」

「おかしいな……」


そう思いながらも4人は埋めたはずの場所を掘り続ける。

が、やはり見つからない。

穴がどんどん深くなるだけである。


「間違えてんじゃねぇの?」

「馬鹿な。私が間違えるなど、ありえません」


冴止は自分が間違っていないと確信しているのか、断固として掘る場所変えない。

正宗と魚樹は顔を合わせて頷く。


「ぼくはいったんここ掘るのやめるわ」

「おれも別のところ掘るわ」


そう言って正宗は向かいの木をコップで指す。

魚樹も同じ木を指す。


「おれっちはこっちに残るわ」

「わたしは断固としてここを掘ります」


そうして、牙、冴止。正宗、魚樹の二組に分かれる。

正宗と魚樹は顔を合わせて再び頷く。


「んじゃこの向かいの木のところを掘ろうぜ」

「ああ。ここで合ってるならすぐ見つかるだろう」


そうして二組は背を合わせるような状態になり穴を掘る。

正宗と魚樹は向かいの木の近くを掘り始める。


「うっしょ」

「こらしょ」

「「どっこいしょ」」


いかにもな言葉を叫びながら二人は穴を掘る。

すると『カン』という音がするので正宗と魚樹は掘るのをやめる。

そして急いで音がしたところを手で掘る。


「お、これじゃね!?」

「なんだよ、冴止が間違ってたんじゃないか。おい!」


と言って二人が後ろを向くと大きな穴しかなく二人の姿はなかった。

あたりを見回すが人の気配はない。

正宗と魚樹は顔を合わせる。


「まさかこの中?」

「まさか。二人も入って姿が見えない穴なんて掘れないとぼくは思うよ」


そう言いつつも二人は穴の中をのぞく。

すると二人の表情は驚愕に代わる。


「な、なんか虹色に光ってるんだけど……」

「いや、まて。これは二人の罠だ。こんなファンタジーあるわけねぇ」


穴の中は外に広がらないほどの虹色の光を放っていた。

正宗はファンタジーがあるわけない、と慌てるが魚樹は冷静だった。


「ここに入ると異世界でなんか冒険が始まるとか?」

「おれはそういうファンタジーは現実的じゃないと思うなぁ」


そう言いつつ二人は一度穴から離れた。

再度二人は顔を合わせる。


「でさ、これからどうする? 落ちる?」

「待つ。という選択肢をおれは選んでみようと思うがね」


二人はちらりと穴を見る。

そしてすぐに視線を相手の顔に戻す。


「待つ、ね。どれくらい? ぼくは一人暮らしだし終電ぎりぎりまでまてるよ」

「どれだけ待つ気だお前は……待つとして、1・2時間といったところだろう」

「それでも来ないなら落ちる……と」


二人は少し考える。

そして二人は再び穴を見る。


「お前はそんなに落ちたいのか。後せめて飛び込むとか言えよ。なんか落ちるって言うと悪い意味に聞こえるだろ」


そんな漫才をしていても観客となるであろう牙と冴止の姿は一向に現れない。

隠れて笑いながら見ているということはまずないだろう。

二人はそれがわかると静かにじっと待った。

だが、1時間たとうと2時間たとうと誰も来ず、何も起きず。

あたりは静かなままだった……


「じゃ、飛び込もうか」


予定していた2時間を過ぎると魚樹が呟いた。

正宗はその発言に驚く。


本気(マジ)で飛び込むのか?」

「実を言うとさ。ぼく、今の生活に飽き飽きしていたんだ。ぼくは少しでもその可能性があるなら」

「あっ。おい! 何もなかったら怪我するだけっ」


魚樹は迷いもなく穴の中に飛び込んだ。

そしてその場から正宗以外の人間は消えた。

そしてあたりは正宗の吐息以外の音はしなくなった。


「……本当に消えたな」


目の前で起きたことに正宗は驚きを隠せない。

ただじっと穴を見る。


「心残りか……」


そう呟くと一人の少女が目に浮かぶ。

そう、『自分に依存している存在』が、だ。


(あいつも高校一年生……おれがいなくなっても大丈夫だろう)


そう言って再び穴を見る。


(おれも今の生活に少し色がないと思っていた……だから!)


そう思いながら正宗は飛び込んだ。

……そしてその場から人気はなくなった。

誰もいなくなった……


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