俺の勝利条件
要するに一勝。
たったの一勝さえすればこの生死をかけたゲームから開放されるのだ。
しかもどの程度の額かは判らないが賞金つきで…だ。
問題があるとすれば一勝もできなかった場合だが、『ファミリー向けゲーム』だ。一流でこそないがそこそこゲームというものには自信がある。
RPGをすれば割と高値のうちに中古屋に売りに行くし、格闘ゲームの新作が出たらオンライン対戦で勝ったり負けたり、時には連勝することもある。ガキ共の大好きなバトルロイヤル系のゲームは大抵集中砲火を喰らってボコボコにされるが、それはまあ接待プレイということにしておいてくれ。
その程度ではあるが、『中級者』を自称できる程度ではあると思っている。
どんなゲームでも『カモ』にできる『初心者』や『好きなだけの経験者』っていうやつはいる。
そういうプレイヤーを狙って、たったの1度勝てば良いのだ。
だが、問題があるとすれば俺だけが『クリア』すれば良いというわけでは無いということだ…あいつら全員をクリアさせなければならない。
それが出来て初めてハッピーエンドだが、それだとかなり難易度が上がってしまう。
最年少は幼稚園児。
いかに最近のお子様がゲームへの対応力に優れているとはいえ、圧倒的に経験と能力が足りない。
そもそも未だゲームのルール、種目、操作方法など諸々未確認の事項がある。
そう考えながら、注意深く次の説明を待つ。
「これから皆様にはアヴァター作成とプレイヤーネームの決定を行っていただきます。あまりにご自身の肉体とかけ離れたアヴァターは動かす際に齟齬が生じる可能性がありますのでお気を付け下さい。プレイヤーネームは先に他のプレイヤーが使用しているものでも設定可能ですのでご安心を。」
これならあいつらと合流するのもそれ程難しくないはずだ。
齟齬が生じるというのは厄介だな。何よりも生存を優先するならいじれるのは顔とかの外皮ぐらいだろうな。ある程度の混乱は覚悟で強力な肉体を作るのも戦術かもしれないが…
「皆様には全ての準備が終了した後、他のプレイヤーの方々と『ファミリー』を組んでいただきます。『ファミリー』とは共同でゲームに挑んでいただく共同体の事です。デスゲームモード中は『ファミリー』の最大登録人数は6名です。一度組んだ『ファミリー』は解散する事ができませんので、良く検討して組みましょう。『ファミリー』は単独で組む事も可能です。『ファミリー』を組まなければゲームには参加できません。」
なんだその微妙な人数は?RPGのダンジョンモノのパーティーか?団体競技とかどうするんだ?
「競技によっては他の『ファミリー』と共同でプレイしていただいたり、NPCを参加させる場合もございます。」
心配して損した。まあそれぐらい対策するだろうなあ。NPCの性能次第ではソロもありだろうが、まあ案山子程度でしかないだろうなあ。
「『ファミリー』を結成すれば、後はひたすら他の『ファミリー』に挑戦し、勝利するのみです!」
空中に半透明のキーボードとタッチペン、それに画面らしきものが浮かぶ。
「それでは先ずアヴァターの作成を行います。基本素体から作成しますか?それともご自身のお体をベースに作成されますか?」
さっきの話からすると自分ベースで多少改造する程度が良さそうだ。
折角だからちょっと目を切れ長に、顔を小さく、口と耳も改造して、体型は細身で猫背も矯正。ああ、俺もっと身長高く成りたかったんだよな。どうせだから女性体ってのも…
などと弄っていると、出来上がったのは超絶美形のエルフ女性だった。
…いや、流石に無いワー、確かにめっちゃ俺好みだけど。完全に別人だ。
これでは誰か見た目で判別不能だ。
新体験にかなり後ろ髪を引かれつつも、結局は元に戻し、少し筋肉質にするだけに止める。
折角のVRゲームなのに残念だが、背に腹は変えられない。
泣く泣くアヴァターの製作を終える。
「それでは次にプレイヤーネームの作成を行います。登録に必要な文字数に特に制限はありません。また、審判がコールする際に呼ぶ名前を10文字以内で決定して下さい。」
ガキ共に判るような名前…『府中 治夫』だから…いや捻らずそのままのほうが良いだろう。
デスゲームなんだから生存が最優先だ。
コールネームは…ハルオ?…ハル?…うん、『にいちゃん』だな。『にいちゃん』が良い。
俺はあいつらの『にいちゃん』だ。
これは俺の決意の名前だ。
絶対に俺はあいつらを生還させてみせる!!
…まあ事前にあいつらに決められてただけなんだがな、この名前。