信じる心
半月……本当に申し訳ございません。
これからも不定期ではありますが、必ず完結には辿り着かせますのでお見捨てなきよう、よろしくお願いいたします。
戻ってからそこそこの時間が経過しているというのに、俺たちは未だモニターの電源も着けずに話し続けている。
誰もその事を指摘しようとはしないのは、恐らく皆が同じ事を感じているのだと思う。
この『ファミリー』で話し合う時間がとても貴重なものであると。
腹を割って誰かと話すなど、現実世界の自分ではありえない事だった。
学校では特に誰と親しいわけでもなかったので、休み時間を一人で持て余し苦痛だった。
授業中は教師の声をBGMに、教科書で隠した漫画やラノベを読み漁った。
家に帰っても親は共働きで忙しく、帰宅・就寝・起床時間は個々にズれており、顔を合わせることはほとんど無く、稀にあってもお互いに関心が無い様な冷え切った家庭だった。
ガキ共に付き合っていたのは、唯一優越感に浸れる対象だったから……だと思う。
必要以上に頼れるアニキ像を植え付け、慕ってくる姿を見て悦に入っていたのだと今では分かる。
他人に蔑まれていると感じていながらも、俺こそが他人を小馬鹿にしていたのだ。
冷静に分析してみれば、俺という男はなんともキモチ悪い男だった。
そりゃあ友達も出来なければ爪弾きにもされるだろう。
でもあいつらはそんな醜い俺の事を真剣に慕ってくれていた。
こんな俺の事を誇りに思い、貶されれば怒りすらしてくれた。
今俺が一人きりならきっと泣いていただろう。
状況と自分に酔っていた俺とは決別した。
今俺がここに居るのは、約束を守り恩に報いる為。
そしてここで出来た、新たな『ファミリー』という絆を全うするのだ。
もう俺の思いは独り善がりではない。
『ファミリー』が一丸となって目的を達成する。
俺たちは家族以上の絆で結ばれた『ファミリー』という運命共同体に成ったのだ。
俺たちは現実世界での自分の事、環境の事を話し合った。
恐らく全部ではないだろうが、必要と思われることを語った。
なんとなく昔映画で視た『麻薬依存患者の集団セラピー』みたいだと一瞬頭に過ぎった事は内緒だ。
俺の場合は、ガキ共との関係やいきさつを語った。
自分がぼっち野朗であった事も多少誤魔化しながらではあったが話ス事ができた。
今まで自分の肩にのしかかっていた見えない重圧が、フッと軽くなった様な気がした。
もう一度同じ機会があればその時には全部残さず話してしまえると思えた。
話し終えると、皆それぞれに意見や慰めや警告(これは主に野獣から)の言葉をくれた。
黒い気持ちが薄まった隙間に心地良い。
こんなにも素直に他人の言葉を受け入れることが出来るように為るなんて想像もできなかった。
金髪が語った彼の過去は予想の範囲内では在ったが、結構衝撃的だった。
飲酒運転の車に撥ねられて足を失った件を聞いた時は、理不尽さに悔し涙が出た。
理不尽に奪われたからこそ……金髪の走る事への執着の源泉を知って納得した。
それならば確かにこの世界は彼にとって天国かもしれない。
彼がこの世界から現実に帰すのは、余りにも残酷だと思った。
野獣はこの世界自体に執着が無い事はハッキリとしている。
そもそもゲーム自体、基本的には手を出さないようで、ここに来たのも同居人との付き合いだったそうだ。
その同居人は既に現実世界に帰還しているそうだが、彼女は取り残される敗者を見捨てられなかったそうだ。
その時に件の同居人と一悶着あったらしく、恐らく帰ったら別れる事になるかもしれないと、気重に語ったのが印象的だった。
好きな人と別れてまで人助けをしようとする野獣の献身に心が熱くなった。
雄雄しい少女は残留を希望した。
年相応の喋り口(声は地の底に響くような重低音だが)で、「あのね、『ちーちゃん』はね、すぽおつが苦手なパパとママを助けてあげたいの!」と、一生懸命に残るべき理由を語った。
彼女は両親を助けたい一心で、自分が考え得る最強の肉体を設計し作成したのだと言う。
男性型の基本アヴァターの一つだと思っていたが、良く視れば筋肉、骨格などが弄り回されており、実際のパフォーマンスは改造前の養殖的な体格と比較して数段上の実戦的な肉体であると想われる。
金髪の肉体をギリシャ彫刻的な美しさと評したこともあったが、彼女の肉体こそが人の領域を超えた神の領域に達している。
年齢に似合わぬ、もの凄いアヴァター構築能力だ。
両親が重度の廃ゲーマーだったとのことなので、彼女自身もその薫陶が篤いという事であろうが、凄まじいダメ英才教育だ。
だがその教育がもたらした彼女のアヴァターのポテンシャルは計り知れず高い。
この先も頼もしい戦力であると期待できる彼女の存在を無碍にはできない自分がやましい。
早く彼女の両親と合流できることを心の底から祈っている。
迷子の子は『コギト』と名乗った。
幼稚園児だというのにかなりハッキリと話せる頭の良い子だ。
帰還するよう勧めてみたのだが、「ボクは帰りません」と頑として譲らなかった。
それどころか「ボクはみなさんとココに残りたいです」と残留を希望し、「ボクはボクにしか出来ない方法で絶対に『ファミリー』の役に立って見せます」とアピールさえしてみせた。
『ファミリー』に愛着を持ってくれるのは嬉しいが、子供に無理をさせる積もりは無い。
理由を尋ねたが、あまりハッキリとした返答は得られなかった。
心の壁を感じる。
俺は『ファミリー』の意見を尊重すると決めていた。
したいと言っているのを容易に退けるような事はしたくなかった。
これからの戦いの中で、少しづつでも打ち解けていければ良いと思った。
未だその為の猶予が残されていると信じる事にした。
ふじこさんにも一応「現実世界に帰りたい?」と訊いてみた。
半分以上冗談のつもりで言ったのだが、彼女は首を振り「わふんッ!」と強く否定を感じさせる鳴き声を上げた。
俺の希望的観測なのかもしれない。
そうして欲しいと思う気持ちがそう見せるのかもしれない。
しかし不思議な事に他のメンバーも同様に感じたと言う。
彼女が特別なのか、それともこの世界が特別なのかは判らないが、俺たちはそれが彼女の意志であると信じる事にした。
全員が自分の話を終え、語り合い、議論し合う事で、うっすらと芽生えていた絆はより固い『ファミリー』という結束へと昇華した。
もう誰もがメンバーを無理に帰そうとは言わなかった。
これからはファミリー』が一丸となって最終戦を目指すことを俺はもう疑わないだろう。
次回からは「その時メンバーは何を考えていたか」編です。
章タイトルに何か良いもの無いだろうか?




