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折り返し地点

勝負

「私はハルオ君に協力する。子供たちの帰還に全力を尽くすし、最終戦まで残って救い残しが無いか確かめる。そのリスクを承知した上でね」

　金髪が俺を全面支持してくれるというのは非常にありがたい。

　これで金髪が本当の意味での協力者となってくれたのだと実感できた。

「それは今ここに居る、この子達が危険に曝されるという事を分かって言ってるの？」

　野獣がいつもの話を蒸し返してくる。

　彼女の言いたい事は良く分かる。

　何故助けられると分かっているものから助けないと。

　あるかどうかも分からないものの為に命を賭ける必要があるのかと。

　だが、今回は俺だけではなく金髪も説得に回ってくれた。

「この子達がリスクを負っているのは百も承知さぁ。それでも色々な考えがある中で、ハルオ君の案は『子供を助ける』という一点で最も確実なたった一つだけの方法だと思うけどねぇ」

　世の中にはろくでもない大人がザラにいる事は実感している。

　しかし普通の大人だってモラルに反しないとは限らないし、そもそも今は異常な事態だ。

　誰がどのように判断するのか分からない。それこそこの場に居ない人間の考えなど推測すらできない。

　気が変わる、人が変わるという事も考えられる。

　人任せにするにはあまりにも危険な環境で、もしかしたらあり得るかもしれない最悪の事態に備える為には自分の命と『ファミリー』の命を代価にする必要を迫られるかもしれない。

　それでも金髪は理解してくれた上で協力してくれる。

　子供たちは半ば強制のような形でここまで協力してもらった。

　ふじこさんには申し訳ないが、いざという時の保険になってもらう事も視野に入れている。

　野獣にも出来る事なら協力して欲しい。

　彼女の『弱いものを救おう』とする意志は本物だと思う。

　それは何物にも代え難い宝石の如き美点であり、俺の目的の為には何としても手にしておきたい。

「リスクは多分どんな道を選んでもあります。この子達を一度に助ける為に安易な勝ちを選べば、今ここに集いつつある貴重な戦力を手放す覚悟が必要です」

　金髪・ダイヤさん・ふじこさん

　各々代え難い強みを持ったプレイヤーだ。

　勝って一人だけ残ると言うならば、自分の計画通りに進める為には彼らを放出するしか手が無い。

　コレが初戦ならともかく、この先が不透明である以上そう易々と手放す事はできない。

　それとも野獣はそれが狙いなのだろうか？

　子供たちを助けつつ自分も脱出する。

　生け贄は俺。

　彼等が居なくなればこの先不利になる事が確実だが、少なくとも今のメンバーには迷惑がかからない。

　あちらの目的もこちらの目的も立つ考え方だ。

　……いや、それは考えすぎだろう。

　彼女の性格や目的からして、そんな計算はしていないはずだ。

　ありがたい事に、彼女にとっては俺も保護対象なのだ。

　自らの尊厳に賭けて俺を見殺しにすまい。

　彼女にはその顔面からは想像もできないほどのプライドの高さを感じる。

　もちろんイイ意味でのだ。

　ならば彼女を口説き落とすには……

「それに何度も言いますが、相手がトレードを飲んでくれない可能性だってあります。その場合は敗者にその後を託さないといけない……それこそ不確実で危険ではないでしょうか？」

　更に言えば、トレードで敗者に移譲されたプレイヤーはリーダーには成れない。

　決定権を持たなければ、飼育員が行ったような事態を防ぐ事ができない。

　リーダーの暴走を回避する為には、自分がリーダーである必要があるのだ。

「ダイヤさん」

　俺は彼女の目を見詰めた。

　女性と視線を交わす気恥ずかしさに、逸らしてしまいそうになるのをグッと堪えて絡ませる。

　ここが勝負どころだ。

　野獣を躾けないままに放置してきたが、このまま諍いが続くようでは目的の達成は遠い。

　どうにかして手懐けて、言う事を聴いてもらわなければならない。

　異物を強制的に放逐することはリーダーである俺には不可能ではないが、それをすれば他の皆の信頼を一気に失うだろう。信頼なき協力体制など無力だ。絶対に失敗は許されない。

「俺は、俺の計画を絶対にやり遂げてみせます。それには貴方の協力がどうしても必要なんです」

　真摯にお願いすると決めた以上、リスクも当然伝えなければならない。

　俺には女性の心を弄べる様な器用な事はできないし、多分野獣にはそのような手管は逆効果であるような気がする。

「当然リスクは大きいです。地獄の淵まで行くんですから命の保障はできません」

　最終戦で負ける可能性は低くない。むしろ高いだろう。

　それにあまり考えたくない可能性（・・・）も否定できる材料が無い。

「見返りはありません。それどころか最後に見たくも無いものを見せられる可能性のほうが高いです」

　あえて言うならば莫大かもしれない賞金だが、このメンバー達にとってはそれほど重要ではない、重要であったとしてもあくまで副次的な価値でしかないと思っている。

　それは最初に賞金目的だと表明していた金髪でさえ同じだと今では確信している。

「ハッキリ言って俺のやろうとしている事は、１０：０で割に合わない選択です。それでも俺はお願いするしかないんです」

　野獣の瞳を見詰めながら深く頭を下げ、コレまでの人生で最も真剣な表情で懇願する。

「どうか俺と一緒に地獄の底まで行ってくれませんか？」

　それはさながらプロポーズの言葉だと、言ってから気付いた。

　現実世界の俺なら、口が裂けても言えないようなセリフだった。