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ハルオの気持ち

ハルオ君、ぶっ放してスッキリの回。

 

 『ふじこ』さんは部屋にマーキングをしたり……はせず、非常に大人しく我々の事を見守っている。

 そういう性格の犬というよりは、訓練を受けて理性を強化されているように見受けられる。

 こちらとしては手間がかからず助かる。

 これが他の動物、特に『イルカ』の子とかならば、とてもではないが面倒を見切れなかっただろう。

 

 ペットとして考えると、これほど手間の掛からないものはいない。

 ゲームの仕様でエサもトイレも必要なく(我々もだが)、散歩はゲーム中に自分で解消してくれることだろう。奪柵して迷子ということもシステム上ありえない。

 あとは暴れたり、吼えられたりさえしなければ煩わされることも無いのだが、その点も彼女は及第点どころか満点だ。俺たちの邪魔にならないというのであれば問題ない。むしろ愛玩動物の存在は、ともすれば殺伐としたこの『ファミリースポーツ・オンライン』の世界においては貴重な安らぎだ。

 隙あらば暴れ回るワルガキと交換してもらったと考えると、かなり良い買い物だったと言える。


 野獣が子供たちと犬にパワーバーを配り、ついでにこちらにも寄越す。


「ありがとう。でも犬にチョコ味は渡すなよ」

「分かってるわよ。でもこの子こんなの食べれるのかしら?」

「どうだろう?自分で言ってて何だけど、そもそもアヴァターは人間タイプなんだからチョコを食べても問題なさそうな気もするなァ。」


 人間の食事は動物には濃すぎるから毒だと云われている。

 電脳世界で、特にこのゲーム内では食事はあくまでオマケな印象がある。

 現実に近すぎるから迷いはあるが、慎重にならなくても良い気がする。


 試しにスポーツドリンクを与えてみるが、『ふじこ』さんは問題なく舐め取ってくれている。パワーバーも美味しそうかどうかは分からないが食べているし、やはり余計な心配だったのだろう。

 それでも一応チョコ味は止めておいた。好きになってしまって、現実世界で食べようとしたら事だ。


 新人(犬?)に対する不安が払拭され、腹が落ち着くと次は一服しながらテーブルを囲んで現状の確認に移る。


「それじゃあ、先ずは俺から話そうかな」

 

 俺は自分の事を皆に語り始めた。


――――


 俺の主目的メインクエストは半ば達成された。

 連れて来てしまった近所のワルガキ6名の内、年少の3名の送還が先ほどの試合で終了したからだ。


 残る主目的メインクエストは、他人に託さざるを得なかった年長の3人の脱出確認と、俺自身の帰還の2つ。この2つは半ばセットの様なものなので、折り返し地点に到達していると考えている。

 その他にも、ここに来てから追加目的サブクエストが発生している。


 俺を信じて付いてきてくれた迷い子たちの送還。

 俺の目的に協力を約束してくれた人々との共闘。


 帰還させるのに一番有効な方法は『勝つ』こと。

 だけど俺はその方法を選ばないから他との軋轢を生む。

 共闘するにはお互いに譲歩が必要になる。

 遠回りというのは体力・精神共にストレスを受ける。

 

 面倒を抱え込んだと言える。負担だと言える。

 しかしその面倒なモノが支えとなり、助けられここまでやって来られたのも事実だ。

 これから大事なのは仲間の主目的メインクエストを理解し、尊重し、協力する。

 つまりは仲間の気持を思い遣るということ。


 何せ俺のやっている事は単純に良いと言えることでは無い。

 正しいと思える目的の為に、とても褒められないような手段を採って遂行しようとしている。

 半ば俺自身のエゴなのだという事は理解している、これまでの経緯でさせられたと言っても良い。


 だから今こそ、お互いに理解を深め合う必要がある。語り合う必要がある。


 もちろん全てを語りはしない。後ろ暗い想いを打ち明けるほど子供ではない積もりだ。

 当たり障りの無い内容にお互いが歩み寄った分を加えただけだ。

 それでも最初に比べれば大きく譲歩している……全てを曝け出したいとも思う。

 初めて出会ったころに比べれば警戒心もかなり薄れている。それだけの遣り取りがあったのだ。


 これから先どうなって行くかは分からない。

 主目的メインクエストに修正を加える心算は無いし、その為に今迄以上に全霊を賭けると決心した。


 俺は犠牲にしない。否定しない。

 仲間たちの命、目的、想い。

 そういった諸々を。


 前回の競技で俺は人の想いの輝きを見た。

 そして俺はそういったものに尊さを覚える。

 現実世界の俺は、俺自身に対して大した価値を見出すことが出来ないでいた。

 自分に無いものへの憧憬から来るのかも知れないが、そういったものを守りたいと考える自分が居る。

 ガキ共を守りたいという思いも、それと源を同じくしているのではないかと思える。


 恥ずかしいと思わないわけではないが、それが俺という人間の在り様だと信じたいのだ。

 

 英雄願望が無いわけではない。むしろ大いに在る。

 でもその可能性を俺は俺自身に対して諦めている。

 だからなのだろう。その輝きを愛し、援けたいと強く想うのだ。


 これがゲームの中で知り得た、俺自身の恐らくは偽らざる願いなのだろう。


----



「以上が今の時点での俺の気持ちです」

 

 聴き終えた皆は少し考え込んでいる。


 内容としては今迄語ったものと大差ない。

 だが想いは込めた積もりだ。


「先ずは今迄ご苦労様ァ」


 金髪からねぎらいの言葉が贈られる。


「ハルオの気持ちはよく分かったよぅ」


 気持を吐露した事で晴れやかな気分だ。

 こういう恥ずかしい事を離す友達は今までいなかった。

 年上の、それも自分が認めることの出来た人に話を聴いて貰えて嬉しかった。


「それじゃあ、次は私の事を聴いてもらおうかなァ……」

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