あんたのおなまえなんてーの?
新しいメンバーを『ファミリー』に迎えるにあたって、我々は重大な問題に突き当たっている。
それは……
「彼女の名前なんだけど」
俺は新メンバーである『犬』の子(♀?)を指す。
指を突きつけられて「くぅん?」と不思議そうに小首を傾げる彼女。やだナニコレかわいい。
「ああ、コレなんて読めば良いんだろうねぇ。『くぁ…だ…せ…どるふとじぃ?』まあ適当に意味も無くタイピングしたんだろうけど、ここまでテンプレートに打つなんてある意味奇跡だねぇ」
金髪が名前の読みに頭を悩ませている。
そもそもこの言葉は、文字に起こすことが困難な言葉にならない悲鳴などの表現に使われるネットスラングであり、音読不能な単語だ。
狙ってタイプしたならば『やるわね!恐ろしい子ッ!!』だ。
「このままだと不便だからもっと親しみやすい名前……っていうかあだ名を付けちゃいませんか?」
今回、俺が提案したかったのはこの事だ。
犬なので意思疎通はほとんど出来ない。
精々が『YES』と『NO』をなんとなく雰囲気で察するぐらいだろう。
ここはゲーム世界なので、犬語翻訳機のような便利なツールは存在しない(はずだ)。
本当の名前を聞き出す事が不可能なのだから、ここはあだ名を付けて凌ぐしかあるまい。
「もっとそれっぽい名前で呼んだ方が良いんじゃないかなぁ?」
「それっぽいって?」
金髪の提案を聴いてみることにした。
「例えば……『犬』とかぁ?」
「そのものズバリってどうだろう?もうちょっと捻りを加えるとか……」
種族名ってのは良くない。捉えようによっては差別的だ。
「いやいやいやいや、そうじゃないでしょッ!これから『ファミリー』になるんだからもっとちゃんとした名前にしないと可哀想でしょうがッ!!」
野獣が案外まともなツッコミを入れてくる。
「面倒だなぁ。それじゃあ何と言うか犬っぽいというかペット的な名前でさぁ」
「じゃあ『ポチ』とか?」
「一応女の子だよ……ねぇ?」
アヴァター自体は女性体だが、真相はわからないので本犬に尋ねてみる。
「わん!」
一度だけハッキリと吼える。肯定ということだろう。
「んじゃあ『ハナコ』とか?」
「なんでアンタはそんなにベタな名前を付けようとするの?センス無さ過ぎ」
「じゃあそう言う『ダイヤ』さんは何か良い案があるのか?」
「そうねえ、『可憐なるジョセフィーヌ』とか『麗しのエリザベート』とか……」
「うわぁ乙女だなあ。厨二も入ってるし。ちょっとそれ恥ずかしい(そんな名前を付ける神経が)」
「何よ!?アタシのセンスに文句アンの?」
野獣と『あーでもないこーでもない』と色々名前を挙げてみるも、どうもしっくりとこない。
何かもっとこうハッキリ『コレだ!』と言える名前があるような気はするのだが思い浮かばない。
次第に白熱していく俺達を尻目に、登録画面を眺めていた金髪が不意に声を掛けてきた。
「あー君達。ちょっといいかなぁ。この名前見てたら凄くピッタリな名前思いついちゃったんだけど」
金髪に促されるまま俺と野獣も画面を開き、登録された名前を再確認する。
「え?……あー。確かに。俺も思いついちゃったっつかこれしかないんじゃね?」
「あー、ん。もしかしてアレ?」
『くぁwせdrftgy』
と来たら、その後には続く有名なフレーズがある。
「多分全員同じ事考えているよな」
「そんじゃあせーので言ってみる?」
「分かった。それじゃあ行くわよ。せーの……」
「「「ふじこ!!」」」3人の声が見事にハモった。
「決まりだねぇ」「決まりね」「決まったな」「わんわん!」
全員の合意の下、彼女の通称が決定した。
「よろしく!『ふじこ』さん!!」
「わん!!」




