表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファミリースポーツ・オンライン  作者: Dちう
獲闘!ファミリー・ビーチフラッグス
48/68

のぞむもの

約束破りを司る邪神 Dちうです。


最初は2月中に終わると言ってたのになあ。

しかも今回でこの章終わりませんw

 事の成り行きを見守るだけで良いというのは気楽なものだ。

 既に弄すべき策も無く、他人に肩の荷を預けてただの観客に徹している。

 相手の圧倒的で見事な走りに驚嘆し、それに追いすがる味方の頑張りに一喜一憂しながら子供たちと声援を送る。これが本来あるべき『ファミリースポーツ・オンライン』の姿ではなかろうか。

 敗退してからの俺は、純粋に『ファミスポ』を楽しんでいた。


 遠い日の記憶が蘇る。

 応援合戦で赤勝て白勝ての大声援。

 両親と食べる美味しいお弁当。

 そして引き離される総合得点と、あの屈辱のメドレーリレー……余計な事も思い出してしまった。


 ここにはあの幼かった頃に似た風景がある。

 俺は隣で身体全体を使って熱い応援を送っている、最後のワルガキに言った。


「楽しいなあ、運動会みたいだ」


 ガキはその言葉に直ぐに反応して


「うん!すっげー楽しい!俺も小学校になったらあんなふうに走れるようになりたい!」


 と、目をきらきらと輝かせながら一生懸命になって俺に楽しさを伝えようとした。

 諸学校ではなく小学生だと訂正はしない。


「そうだな。頑張ればきっとなれるさ」


 もちろん『走れるようになる』っていう事についてだ。


 ガキの希望を否定しない。

 憧れに水を差すような野暮なことはしない。

 俺は現実の息苦しさの中で自分がそういった想いを失っていくのが耐えられなかった。

 周りの人間は現実を見ろと、自分の身の丈に合う生き方や将来を考えろと言う。

 でも現実なんて見ようとしなくても嫌でも視界に入ってくるものだ。


 『ファミスポ』という非現実の中で、様々な人間の現実を見せ付けられて思う。

 本当に大事なのは現実に潰されずに、そういった心を持ち続けることなんじゃないかと。

 人が前に進むには、絶対に夢が必要なのだ。


「気持良さそうに走ってるなあ」


 俺の次に敗退した飼育員が、隣でボソリとつぶやいた。

 『チーター』の子のことだろう。

 確かに伸び伸びと走る姿は楽しげで、走ることが好きなんだろうなと感じる。

 なんとなくだが、金髪も似たような雰囲気を持っている。

 

「地上最速っていう二つ名は伊達ではないんですね。でも、本当はもっと速いんでしょう?」


 人間の肉体を野生の本能でああも見事にコントロールしている。

 だがきっととそれは半来の力からすれば何分の一かでしかないのではとも思う。

 一度現実世界で、その走りを見てみたいものだと興味が湧いた。


「多分そうだと思います。でも残念ながらあの子が現実世界で全力で走る日が来る事は無いでしょうね」


 飼育員はどかか遠くを見詰めるような目で、哀しげに言った。


「それはどういうことですか?」

「狭い動物園で飼われているんだ。檻の中では走ることなんか出来はしないよ。人間の都合で住処を失って絶滅の危機にある種の保存と研究が動物園の役割だということは解っている。でもこのままではあの子やその子孫は、動物園という環境に適応して地上最速であることを止めてしまうんだろうなあ」


 生物の適応能力が悪い方に働くという事だろう。

 走る必要を失った『世界最速』は、最早その存在意義を『かつてそうであった』事でしか誇る事ができなくなるのだろう。

 生きるために……と言えば聞こえ良いが、人間は自らのエゴの為になんとも残酷な事を行ってしまうものだ。

 本来の走りは資料映像ぐらいでしか見る事はできないだろう。


 とてもやるせない気持ちになった。


「でもね、仮想の世界とはいえ、本来の肉体でないとは言え、今あの子は自分の全力を出して走っている。今回の件は人間にとっては災難でしかないが、あの子にとっては自分の存在意義と自由を取り戻せたに等しいのかもしれないと思ってね。それが嬉しくもあり哀しくもあり、複雑な気分だよ。出来る事ならこのままにしてやりたいよ」


 こんな状況を救いと感じさせてしまうほどに、現実の彼女たちは不自由な境遇なのだ。


 もしかしたら今までは命の危険の無い快適な動物園生活に特に不幸を感じていなかったかもしれないが、彼女はこの世界で走る事の喜び楽しみを知ってしまった。

 いわゆるパンドラの箱の中に希望が入っていたのは、実は一番それが性質が悪いからというヤツだ。

 知恵の木の実を食べた人間が閉ざされた楽園に興味を失ったように、これからは現実の世界に戻っても檻の中の生活に耐えられないのではないかと思う。

 

 だとしたら飼育員の行った他愛も無いはずの悪戯は、実はとんでもなく罪深い神話の中の蛇のような悪行だったのではなかろうか。


 そうは言っても今更な話だし、恐らく神話の蛇も彼も悪意を持って行ったのでは無く、純粋な好奇心の結果だったのではと今では思える。


 無自覚でも彼はこのゲームが終了し、現実世界に戻った時にその代償を払うことになるだろう。

 だから俺は今この段階で彼を糾弾する事に意義を感じず、いい事を言っていると思ってドヤ顔でこちらを見詰めて話を続けたがっている様の飼育員に簡単に相槌を打っておいて、これ以上の話をする事をやめた。



 それから先も順当に脱落していった。

 第二集団と先頭集団との差は歴然としており、回を重ねる毎に逆に広がっていた。

 先頭争いをする2人が加速度的にその走りを昇華させている。


 流石の野獣も諦めが着いたらしく、今では大人しく事の成り行きを待機ポイントで静かに見守っている。

 意外というかその節はずっとあったのだが、『犬』の子は最期まで積極的に勝負に参加せず、常に参加者の安全に気を配っている風で、今走っている準決勝では空気を読んでか金髪と『チーター』の子の争いに干渉しないように軽く流して走っているだけだ。


 不思議な子だ。

 もしかしたら動物ではなくて物静かなヒトだったりしないかと思ったりもするのだが、頑なに四足歩行と口元や後ろ足使いが犬そのものである事を見る限り、献身的な性格なだけで犬である事は間違いなさそうだと実感している。


 もしかするとサーカスとか災害救助とか、かなり訓練を受けた犬なのかもしれない。


 準決勝はそのまま『チーター』の子と金髪が1・2フィニッシュして決まった。

 あれからの金髪の成長ぶりは急激で、両者の差は今ではほとんど無い。

 肉体的な限界などとうに超えている様な走りだ。

 

 少し前までは声援でうるさい位だった待機ポイントも、今では誰もが固唾を呑んで成り行きを見守っている。

 


 後は最終戦を残すのみであった。

仕事が俺を呼んでいる。


サボってるのがばれると危険なので今から戦場に戻ります。


次回はもっと早くに……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ