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ファミリースポーツ・オンライン  作者: Dちう
獲闘!ファミリー・ビーチフラッグス
45/68

地上最速

 号砲と共に振り返ると、既に先を一頭の獣が4本の足で駆けていた。


 その身や骨格は見紛う事無く人間そのものであるものの、本来『手』と呼ばれるはずの上体の2本の肢は、『前足』として四足走行を援けている。

 そして身体をしなやかな鞭の様に撓ませ、伸ばし、『後足』のバネの力を無駄なく前進する推力に変え、四足走行の獣にしかできない完璧な走法を体現していた。


 あれは本能の成せる業。

 人が技術で到達できない、神からのギフト。


 もちろん『チーター』本来の肉体ではない以上、そのスピードは彼女からすれば十分ではなかろう。 だが、その圧倒的な地上最速の走りと美しさに、俺は、俺たちは見惚れてしまった。


 自然が生み出した奇跡の走り。

 人間がどう足掻こうとも真似できない完成形。


 自分の走りに絶対の自信を持っているであろう金髪ですら、呆けてその姿を見詰めていた。


 それを追いかける姿がある。

 続くのは『オラウータン』の子と思しき限りなく二足に近い四足歩行。

 手は地面に軽く当てるイメージで跳ねるように駆けて行く。

 こちらも本来の肉体のスペックから考えると、腕が短い為に無理のある走りなのだろうが結構速い。

 恐らくだが、俺が全力疾走するのと同じぐらいかもしれない。

 走るのが砂漠ではなく、障害物の多い森の中ならば確実にあちらの方が早いだろう。


「見たかッ!あれが人を超えた動物の身体能力だぁッ!!」


 こちらを振り返り、飼育員が勝ち誇った余裕のセリフを吐く。

 彼自身は人間そのものの平凡で平均的な速さ。何も特筆すべき事は無い走りだった。

 同じタイミングで走ればまず負ける事は無さそうだ。


 そしてかなり遅れて、腕をバタつかせて競歩程のスピードで進むのは『オウム』の子だろう。

 本来の移動手段は飛ぶことなのだから、走るという事自体がもどかしそうだ。

 こちらは走り出せば直ぐにも追いつけそうなスピードだ。



 飼育員の耳障りな声で我に返った金髪は、一度ブルッと震え上がり、顔を両手で「パンッ」と叩いて気合を入れなおし、「ウオオオッ」と唸りを上げて獣達を追いかけ始めた。


 低い体勢を維持しながら前進する、砂上である事をものとしない力強く鋭い走りと鬼気迫る雄叫び。

 俺にはなんとなく、その叫びが悔しさよりも喜びの度合いが強そうな気がした。


 あっという間に『オウム』の子と飼育員を追い越し、その前を駆ける2頭を追いかける。



 だが既に『チーター』の子は旗の元に辿り着き、口に咥えて誇らしげに掲げていた。

 少し間を置いて『オラウータン』の子も旗を掴んで弄んでいる。


 金髪に続いて、野獣も遅れて走り出した。


 ビーチフラッグスにおいて1位を取る事は必ずしも重要ではない。

 大事なのは、旗を取りはぐれない事だ。

 

 どんなに遅れても問題なく一走目をクリアできるという確信が全員にあるはずだ。

 だから今回は様子見という事も含めて、あの地上最速に挑む必要は無い。


 もちろん勝つ為にはいずれあの獣の走りを超えなければならない時がやってくるだろう。


 野獣が万が一にも勝つことが出来ない保障を得たようなものだと言うのに、何故だか不安を振り払えない。

 その正体が何であるのかハッキリと分からずもやもやしていたが、別の事にふと気が付いた。


 おかしい。

 『犬』が見当たらない。


 同じ四足歩行の『犬』ならば『チーター』に次ぐ速さを持っているはずだ。

 旗を目指して走るという競技内容も『犬』の為にあるようなものだと言っても過言ではない。

 真っ先に駆け出し、追いかけているはずの『犬』が前に出ていない。


 疑問に思い後ろを振り返る。


 そこには、跳ねるだけでスタート地点から前進できないでいる『イルカ』の子と、心配そうに付き添う『犬』の子、そして応援する子供たちが居た。


 『イルカ』の子は砂中を泳いで進んだりは出来ないようで、必死にのたうち前進しようとしている。

 足掻く姿があまりにも痛々しいが、このままどんなに暴れても、彼女がゴールに辿り着く事は永遠にないだろう。

 彼女がこの地獄から救われる方法は一つしかない。


 我慢できずに、俺は『イルカ』の子の周りで声援を送る子供たちに呼びかけた。


「このままだと『イルカ』さんが可哀想だ。早くゴールして終らせてあげよう」


 あれは最早スポーツではない。拷問とか苦行とか、そういう痛めつけだ。

 しかもどんなに頑張っても報われず、この先10回以上同じ事をさせるのは可哀想過ぎる。

 とりあえず1本目は早々に引導を渡してやるのが優しさというものだ。


 子供たちも理解してくれたようで、後ろ髪を引かれるような思いなのだろうが、全員が走り始める。

 『犬』の子も判断に苦しんでいたようだが俺の言葉を理解したのか、子供たちの横を名残惜しげに『イルカ』の子を見つめながら伴走してゴールに向かう。


 『イルカ』の子にあとしばらくの辛抱だと言い聞かせ、俺自身も砂を踏みしめてゴールを目指す。


 ここに辿り着くまでに歩いた時も思ったが、砂地を走るにはかなりコツが要る。

 砂浜の砂と違って水分が少なくサラサラな為か、足の踏み出しや蹴りが甘いと滑りそうになるのだ。


 勝つ気は無いが、もしもの為に上位に残る心算はある。

 10本以上走る間になんらかのアクシデントが起こる可能性はある。

 もしもの時は野獣を策にはめる必要があるかもしれない。

 

 砂上を走る上での的確な身体の運び方などを確かめながら進み、ガキ共とほぼ同時にゴール地点まで到着して旗を掴んだ。


 誰も違反をしなかったので、第一走目の脱落は『イルカ』の子に決まった。


「それでは第二走目を開始します。ランダムにスタート地点まで移動します」


 審判の宣言で、再び強制転移でスタート地点へ送られる。


 ざっと周りを見ると、俺の今回のスタート位置は一番端で、隣は金髪だった。


 『イルカ』の子は審判たちの隣でじっとこちらを見詰めている。

 もう飛び跳ねて身体を痛めつけなくても良いのだと思うとホッと一息つけた。


 ここからは順当に遅いものから脱落していく事になる。

 先程の走りを見る限りでは『オウム』の子、ガキ共、飼育員辺りが順番に消えていくだろう。


 今回も負ける気満々ではあるが、折角なのでボーナスを狙いたい。

 人生は金があって困ることは無いのだから、取れるチャンスは逃したくないのが人情と言うものだ。


 あと注意する点は野獣が残る場合だ。

 俺が脱落する前に、彼女を妨害して脱落させておかないと安心できない。

  

 先ほどの彼女の速さは、かなりのものだった。

 一緒に走ったわけではないので詳細は不明だが、砂上の走行に慣れれば俺より早いかもしれない。

 直接のおさわりは違反なので、旗の攻防で上手く脱落させる事ができれば重畳だ。


 今後の対策などを考えながらスタート準備前に軽くストレッチをしていると、「『ハルオ』君ッ!」と隣の金髪が話しかけてきた。


 常にどこか冷めた印象を与えていた目を爛々と輝かせて紅潮した顔で俺を見詰める金髪は、いつもの気だるげな言葉の仮面をかなぐり捨て、興奮に震える声で言った。


「見たか、あの走りを!凄いぞ!」


 もやもやだった嫌な予感の原因がハッキリした。


 金髪の競技者スイッチがONになっていた。


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