死の大地
次回は直ぐに上げれるぜ!と宣言してから数日。
本当に申し訳ございませんでした。
弁解は活動報告をご確認下さい。
2戦目に引き続き、3戦目の音頭も他人に取られて傷心の俺だったが、次の競技場への扉を前にして気持ちを切り替えた。
目を瞑ってこの先に広がるはずの楽園を想像する。
そう、この先はビーチ。
地上の楽園。
白い砂浜、澄み渡る空、暑い日差し、そして蒼い海が俺たちを待っている。
そして、そこにはきっと羽衣を纏った天女達が海辺でキャッキャウフフ……
「早く開けなさいよ。後が支えてるんだから。」
天使達との戯れを一瞬にしてぶち壊す恐怖の声が背後から上がる。
本当に情緒とか余韻とかを大事にしない女だ。繊細な男心を理解しない野蛮人め。
急かされて渋々扉を開け、通り抜ける。
すると突然襲ってきた熱風に思わず目を背ける。
顔や腕の皮膚に当たるパチパチとした砂の感覚が無くなり、突風が通り過ぎたのを察すると、恐る恐る目を開き扉の先の世界を見渡す。
そこに広がっていたのは一面の白い砂。
ただ平らかに延々と広がる白い砂の海。
空からの熱過ぎるギラギラとした日の光が肌を刺し、暑いとか熱いを通り越して痛みを訴えてくる。
さらに砂の白さは陽光を眩く照り返すほどで、その上下からの日差しが満遍なく俺の身体をローストビーフの様に焼き上げ、汗が肉汁の様に滴り落ちる。
おかしい。
ここはビーチではないのか?
蒼い海は何処へ行った?
ガックリと手を砂に突く―――熱い、焼ける。
「もう入り口でしゃがみこまないでよね。邪魔。」
後からやってきた野獣の心無い言葉が俺の心を抉る。
いいじゃないか。ちょっとぐらい凹んでたって。
心の中で野獣への悪態を吐くと、それに感づいたのか野獣がこちらをキッと睨む。
なんと察しが良いのだろうか。うかうか考え事もできやしない。
「ビーチじゃなくて砂漠だねぇ。走り甲斐がありそうな広さだねぇ。」
見渡す限りの砂漠に喜びを見出せる金髪は大物である。
俺に言わせれば、熱くてダルイだけだ。
ビーチじゃなかった事をもっと残念がろうぜ、男として。
全員が揃ったところで遥か遠くに待つ審判の方へと足を向けるが、暑さと歩き難さで中々進まない。
金髪と雄雄しき少女は、それぞれ少年を一人ずつ背負いながら、先導して歩いてくれている。
野獣は暑さが少し堪えているようだった。
これは真面目に競技をやったら相当体力を消耗するだろう。
負け前提で良かったと毎回思うが、それにしてもこのステージを設定したヤツは悪魔に違いない。
心身共に負った傷は深い。
確かに『ビーチフラッグス』には海は必要ないが、だからといって無理に無くす必要もないだろうに。
製作者への呪いの言葉を延々とつぶやきながら歩き、ようやく審判たちの前に辿り着いた頃には体力を使い果たして倒れこんでしまった。
「ようこそ『ファミリー・デザート』へ!」
毎度の如く能天気な声で審判が迎える。
もうちょっと扉の出現地点の近くに待機して欲しいものだが、地味な嫌がらせだろうか。
「対戦相手の『ファミリー』が到着されるまでしばらくお待ち下さい」
どうやら未だ相手『ファミリー』は到着していないようだった。
このまま待たされると、それだけで体力を消耗してしまいそうだ。
俺は体力温存の為、座り込んで相手の到着を待つことにした。
他のメンバーたちは砂地での走りを調整している。
元気なものだ。彼らの若さがうらやましい。
見ているだけで熱くなってくるので、俺は相手がやってくるであろう方角を向いて横になった。
ウトウトし始めた頃、揺らめく地平線からようやく対戦相手らしき人影が現れた。
見たところ6人中5人が女性。俺の欲して止まなかった天使達だった。
しかし俺は全く喜ぶ気になれなかった。
何故なら、彼女たちは明らかに挙動がおかしかったのだ。
先頭に立つのは、トランクスタイプの水着を穿いたちょっと体格が良いだけで何の変哲も無い男で、腕に逆お姫様抱っことでも言えば良いのだろうか、うつ向けに女性を抱えていた。
抱えられた女性は、なんとか男の手から逃れようと体を大きく揺らしてもがいている。
嫌がる女性を無理矢理とは男の風上にも置けない鬼畜野朗だ!
俺の中の正義感が激しく燃え上がった。
残った4人の内2人は、何故か四つん這いで男の周りを楽しそうに駆け回っている。
ある意味、野獣よりもケダモノっぽく、その行動からは理性を感じられなかった。
後の2人はかろうじて二足歩行しているのだが、一人は軽く握った拳が時折前に突く四足に近い歩法で走り、もう一人はスキップというには妙な跳ね方で歩き、何故か腕をバタバタと上下させている。
なんだろう?あの『ファミリー』は頭がおかしいのだろうか?
振る舞いが異常だったので最初は分からなかったのだが、良く見てみると女性陣は全員同じような姿形をしていた。
どこかで見覚えがあると思ったら、髪の色や表情や動きこそ違うものの、全員女性体アヴァターのデフォルトタイプだった。
美形ではあるし、胸も尻もそこそこあるのだが、そこに特別な感動は無い。
あまりにも普通なアヴァターだった。
その異様な集団は、中心の男が俺たちの前で足を止めると、男に寄り添って歩みを止めた。
「すみません遅くなりました。こいつらが砂漠を見てはしゃいでしまって手が付けられなかったんです。本当に申し訳ありませんでした」
男が頭を下げ謝罪してきた。
おかしい。鬼畜野朗のクセに妙に礼儀正しい。
未だに男の腕に抱かれた女性が暴れているが、がっちりホールドされて逃げ出せないでいる。
見るに見かねて俺は女性を指差して言った。
「別に構わないんですけど、ちょっとそれは無いんじゃないですか?彼女、嫌がってますよ」
男が謝罪すべきは俺たちよりも前にまず腕の中の女性であろう。
「この子ですか?ああ違うんです。この子は自分で歩けないんですよ」
なるほど。アヴァターと適合できていないのだろうか。それとも何かの障害を持っているのだろうか。
それにしたって、もうちょっと抱え方ってモノがあるだろうに。
女性を抱え上げるんだから、せめてお姫様抱っことか背中に背負うとか。
怪訝に思っていると、それに気付いた男が弁解する。
「ああ、うっかりしてました。いつもこの子はこうやって運んでたもんだから」
いつも?いつもということは、この女性の保護者ということだろうか。
「現実世界でのお知り合いですか?」
「ええ、私はこの子を飼育してますから、知り合いと言えば知り合いですね」
女性を飼育?
こいつ、もしかして危ない趣味の犯罪者か?
俺が疑心暗鬼の視線を送っている事に気付いたのか、男は慌てて言い直した。
「ああ、何か誤解されているようですが、この子は外見と実態がちがうんです」
「見た目と中身が違う……綺麗な女の人に見えますが実際は違うと?」
うちのファミリーの雄雄しき少女みたいなものだろうか。
まあ中身が男でも別に驚きはしないが、それにしたってこの扱いは無い。
もう少し相手を尊重した扱いというものがあるだろうに。
「ええ、この子イルカなんです」
……ハァ???
海豚です。




