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ファミリースポーツ・オンライン  作者: Dちう
獲闘!ファミリー・ビーチフラッグス
39/68

新しい家族が出来ました

 移動の際に生じる意識の空白には未だに慣れない。

 競技場から扉を潜って『ファミリールーム』に戻った俺は、目眩でクラクラ吐き気でフラフラ。

 気分は最悪。


 それでも心は晴れやかだ。


 今回も首尾よくトレードが成功したので、ワルガキがまた一人現実世界に帰還している。

 この調子で毎回上手くいけば、あと3試合でとりあえず第一目標完了だ。


 今のところ順調に進んでいるが、ここから先も必ずトレードに応じてもらえるとは限らない。

 一戦目、二戦目のどちらも対戦相手に恵まれただけなのだ。

 先に進むつもりでも、帰るつもりでも、同じ方向に進もうとすれば互いに争わなければならない。


 それにしても『ファミリースポーツ・オンライン』というゲームは、製作者の意図を逸脱してしまっているのではないだろうか。


 現実世界と遜色無いリアリティでスポーツが楽しめる世界。

 それは遊び場を失った現代の子供たちにとって、掛け替えの無い宝物になるはずだった。


 遊び相手は世界中にいる。

 遊び場所は理論上無限。

 どんなに激しくプレイしても肉体を損傷する危険も無い。

 VR技術の本来あるべき理想の体現であったはずなのだ。

 

 まあ、今そんな事を考えても仕方が無い。

 今後ゲームを進めていく中で明らかになる事実もあろうと考え、気持を切り替える事にした。


 周囲を見渡し、自分を含めて6人が部屋に集まったのを確認する。

 ワルガキが1人減って、代わりに奇抜な髪の色の不細工なデカ女が増えた。

 

 しかし保育士とか言っていたが、こんな奇天烈な髪でも大丈夫なんだろうか?

 俺が親なら危険を感じて絶対に預けようとは思わない。 

 まあ話した感じ、根は良い人なのは間違いなさそうだが。


 とりあえず金髪の時と同様、歓迎の挨拶から始める事にした。


「ようこそ。俺達の『ファミリールーム』へ!ええと、お名前は……」

 

 先ほどトレードの際に見たはずなのだが、よく覚えていない。

 俺は人の顔と名前は大抵一度では覚えられない。だから心の中であだ名を付けるのだ。


「『ハート・ダイヤモンド』。呼び難いなら何でも適当に呼んで頂戴。」

 だからといって『野獣』と呼ぶわけにも行かないだろう。

 捻る必要も無いので、とりあえず基本通り短縮して呼んでみる。


「わかりました。それでは『ダイヤ』さんでいかがでしょうか?」

 なんだか教育番組の操り人形みたいな呼び名だが、そう悪くはないだろう。


「ええ、それで良いわ。よろしく『おにいちゃん』?それとも『ハルオ』君?」

「『ハルオ』でお願いします。」

 野獣に『にいちゃん』と呼ばれると、なんだか馬鹿にされてる様な気がするのは被害妄想だろうか。

 

 名乗りが終ると、野獣は間を空けず話を切り出してきた。


「まず最初に言っておくわよ、アタシはポイントなんかに興味は無い。帰れるものならさっさと帰りたいと思ってるわ。でも目の前にいる子供を置き去りにしようなんて思わないし、何としてでも連れて帰りたいって思ってるから協力もする。でもアンタを助ける心算なんかこれっぽちもないから覚えておいて。」

 

 なんだその微妙なツンデレっぽい発言は!?

 オマエが言っても全く萌えねえんだよブスがッ!!


 そう言いたいのは山々だが、俺は女性に暴言を吐くような外道ではない。

 言い返したら百倍にして言い返されそうだから―――なんて理由ではなく、紳士として彼女の発言に逆らわないようにしておく。本当だ。


「わかりました。俺も子供たちの為なら我慢できます。最後までご一緒するか分かりませんが、よろしく願いします。」


 そこはかとなく色々滲み出てしまった。

 もちろん野獣は俺の隔意に感づいている。

 野獣の噛み付くような視線と俺の視線が絡み合う。

 

 なんと恐ろしいモノに喧嘩を売ってしまったのだろう。


 なんだか段々野獣が前傾姿勢になっていて、まるで引き絞られた弓の弦の様に緊張している。

 きっと視線を外したら、猛獣のごとく襲い掛かってくるに違いない。

 ローマの闘技場に立つ剣闘士は、こんな絶望感を味わっていたのだろうか。


 俺が進退窮まっていると、見兼ねたのか横から助け舟がやってきた。

 

「はいはい、君達がじゃれあってると子供たちが不安になるでしょうがぁ。仲良くするんだよぅ、そんなにお互いの主張も違わないんだしぃ。」

 

 金髪が仲裁に入ってくれた。

 野獣は俺から視線を外して邪魔をする金髪を睨むが、彼は肩を竦めて子供たちの方を指差す。

 その先には、おびえて小さくなっている子供たち(少女含む)がいた。


 野獣は大きく溜息をつき、毒気が抜けた顔で俺へと向き直った。

 

「そんなにビビらなくてもあんたなんか捕って食わないわよ。あの子たちに嫌われたらアンタの所為だからね。」


 野生動物との戦いは意地の張り合いだ。俺は負けじと言い返す。


「俺をかじっったて美味くなんかないんだからなぁ。アイツ等に怖がられたくなかったら、もっと俺に優しくしろッ!」

 

 ヤンチャ系の野獣と俺はソリが合わない。

 ああいうヤカラに弱みを見せると何を仕出かされるか分かったもんじゃない。

 ここはハッキリと誰がこの『ファミリー』のリーダーか解らせてやらなければならないのだが、今日のところはこのぐらいで勘弁してやることにした。

 ……怖すぎるんだよッ!不細工がッ!!

 

「はいはい、それじゃあもういいかなぁ?次の競技はなんだろうねぇ」


 金髪がモニターの電源をONにすると、画面に次の競技が表示された。


<次の試合まで残り時間62分55秒、「次の競技は『ファミリー・ビーチフラッグス』です。リーダーは、参加される場合は『YES』を不参加の場合は『NO』を選択してください。>

 

女性の扱いに慣れてないハルオ君に春がやって来る日はいつでしょうか?


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