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ファミリースポーツ・オンライン  作者: Dちう
剛腕!ファミリー・アームレスリング
34/68

誇りと覚悟に喝采を

 広い部屋でもないので、中央にいる俺の耳には彼女達の話し声が聴こえる。

 野獣も特に内緒話をするつもりでもないのだろう。大きな声で自分の『ファミリー』に話し始めた。


「あんた達には悪いけど、アタシはあの子たちを先に帰してやろうと思うの。」


 ざわつく野獣の『ファミリー』。


 戸惑うのは当然だ。

 彼女達にとって今回の対戦は勝てる可能性が高い組み合わせで、恐らくこの先これ以上の好条件はやって来ないだろう。

 平均的な女子が平均的な男子とスポーツで対戦すれば間違いなく身体能力的に男が有利だ。

 今回のケースならば子供が3人いる(実際は4人だが)ので、3勝は堅い。

 残り1勝をどうやって獲得するかが問題だが、当て方によっては勝てる可能性もある(その場合の穴は多分俺なんだろうが)のだ。

 安全圏勝率5割から勝負ができる……ここが勝負時であり譲れないと考えるのが自然だ。

 それに、これはあまり言いたくは無いことだが、俺たちは強そうな大人と弱そうな子供が半々という罪悪感に折り合いを付け易い『ファミリー』構成なのだ。

 これがあと一人でも子供が多ければ母性本能が働いて、俺達を助ける方向に話が纏まったかもしれない(もちろんそれを許すつもりは無いが)。


「大丈夫!参加者は多いんだからまだこの先十分チャンスはあるだろうし、これからの事が不安だったら交渉してどちらかの男に残ってもらえば良い。」


 皮算用過ぎると思うが、先ほどのやり取りから少なくとも金髪がトレードを受けそうだという算段が付いたのだろう。

 そして恐らくその申し出を金髪が拒むことは無い。

 彼にとって金を稼ぐ手段と俺達を帰らせる手段が両立するのだから最も望むべき結果だろう(もちろんそれも許すつもりは無い)。


「…この先必ず帰れるなんて保障は無いじゃない。ただ女だけの『ファミリー』なんていう私達よりも子供が多いあっちの方が同情を惹けるだろうし、勝ちを譲ってもらえる確率だって高いわ。わざわざここで私達が譲らなくても誰かが助けてくれるわよ!」


 気迫負けして尻込みしていた先ほどの女性がここぞとばかりに強く主張する。

 彼女の焦燥感は正しい。

 今はまだ序盤だからと高をくくっていては生存競争に勝ち残れない。

 見栄で譲ろうとするような人物が土壇場で裏切らないという保障は無いのだ。

 相手に全てを委ねる様な戦略は、結局相手の気分一つで崩れ去る。


「この先の保障が無い…確かにそうだよ。でもね、だからこそ、ここであの子達を置き去りには出来ないと思わない?ここに残しておく事がとても危険な事だとは思わない?」


「それは…そう思う、思うよ。でも私にだって家で待ってる家族が…私を待っている子供がいるの!帰ってあげないといけないの!あんたには解らないでしょうけど…」


「…そうだね。あんたの気持ちはあんたにしか解らない。でもきっと、このままあの子達を放って帰ってしまったら、自分の子供を見るたびに思い出すよ…あの時の子供達はどうしただろう。我が子の元に帰る為に見捨てたあの子達はどうなったんだろう…ってね。そんな想いにずっと囚われ続けるなんて、どれだけ後味が悪いかなんて、アタシは試したくないわ。」


「あんたが言わなければ、そんなこと考えずに済んだのよッ!」


 感極まった叫びが次第に泣き声へと変わり、最後には嗚咽だけが残った。

 もう彼女は自己嫌悪とわが子の事で一杯で、まともな思考力など残ってはいないだろう。

 何が正しいかなんてその人次第だ。法律では緊急避難が認められている。誰も本当の意味では彼女の選択したい行動を糾弾できないのだ。


「そうだね。アタシはあんたに呪いをかけたのかもしれない。罪悪感っていう呪いをね。アタシを怨んでもいい、殴ったってかまわない。でもだからって子供を見捨てて良い理由にはならないわ。」


「アタシ達は女だ。女が子供を守るのに命を賭けないでどうするの?それでこの先の人生、何を誇って生きていけるの?」


「私たちは女としての誇りを持ってあの子達に道を譲りましょう。」


 野獣の力強い言葉にメンバーたちも一人、また一人と顔を上げて賛同の意を告げる。

 錯乱し泣きつかれた先ほどの子持ちも、やっと落ち着いて冷静になったのか、最後には同意した。


「ありがとう。あんたたちはアタシが必ず無事に還してみせる。ただ今回は順番じゃなかっただけ。」


 ニッと笑顔を作って励ます。

 それに釣られて他の女達も笑みを浮かべる。

 彼女達の思いは今一つになったのだ。


 野獣が振り返り、こちらに戻ってくる。

 後ろの女達共々晴れやかな良い笑顔だ。

 不細工なんて気にならない、いや、それがむしろ魅力的に見えるほどに良い笑顔だった。


「話は済んだよ…彼女達も納得してくれた。アタシ達はあんたたちを先に帰すことに決めたよ!」


 感動のシーンをありがとう。


「貴方達の想い、確かに受け取りました。」


 しかし俺は彼女達の今までの葛藤を台無しにする。


「……だがッ断るッッ!!」

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