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ファミリースポーツ・オンライン  作者: Dちう
剛腕!ファミリー・アームレスリング
32/68

観る者、観られる者、観る者を観ようとする者

予定していた工程の三分の1しか進まなかった…しかし量は予定の倍w

金髪から小さく落胆の声が上がる。

予測を遥かに下回る数字なのだから、賞金狙いの彼にしてみれば由々しき事態だろう。

しかし対戦者サイドのざわめきはこちらの比ではなかった。


一瞬の沈黙の後に驚愕と歓声。

彼女達にとって予想外の数字であったようだ。


人々の困惑を他所に審判が淡々と説明を続ける。


「それでは各『ファミリー』の『リーダー』は管理画面を開き、対戦オーダーを決定してください。」


実力順か先攻逃げ切りか、もしくは相手のオーダーを読んで奇襲を仕掛けるか。

元より負けるつもりなのであまり考える事は無いが、最終的な調整が状況によっては必要になるので、戦力を後半に固める。

上背を強化している俺。

単純な腕力では恐らく古今無双な雄雄しき少女。

そしてパワーとテクニックを兼ね備えた金髪。

他の3人の子供達にはきちんと作戦を授けてあるので心配する要素はかなり少ない。

最終的な決定をするために金髪と少し話し合う。


「これで問題ありませんよね?」


オーダーを伝えると、金髪が肯いて答える。


「そうだねぇ。でも決定する前に彼女たちと話をしておかないかぃ?このままだと前回同様に審判がさっさと次のステップに進んでしまって、話してる余裕なんか無くなるよ。」


なるほど確かにその通りだ。

前回は他の『ファミリー』に根回しする余裕は無かった。

もちろんそんな必要は無いと思っていたのだが、過程を考えると確実を期す為には事前協議は必要だ。

ここは金髪の進言を受け入れるべきである。


「そうですね。事前に確認しておきたい情報もありますし。先ほどの彼女達の反応も気になりますからね。」


「反応?」


「ポイント発表の時の反応です。」


「へぇ。良く見てるね。そんなに違和感のある反応だった?」


「どうやら彼女達にとっては驚くべき数字だったようですよ。」


「まあねぇ。私にとっても少々ショックな数字だったよぅ。6倍とは言わないまでもせめて倍ぐらい増えても良かったのにねぇ。」


「俺たちにとってはそうなんですけど、どうもあの人達にとっては逆の意味でショックだったんじゃないかなと。」


金髪は相手『ファミリー』の様子をチラリと覗うが、まだあちらは順番について喧々諤々と議論している。もう少し時間が取れるだろう。


「まだ時間はありそうだし聞いておこうか。それで?どういうことかなぁ?」

話を進めろと金髪が促してくる。


イラっとするが、考えを纏め検証するのに他人の視点から考察してもらう事も重要だと思って心を落ち着かせる。


「前にも思ったんですが、250万って数字…かなり多いと思いませんか?」


「それは…そうだねぇ、そう思うよぅ。でも結局のところトレードレートが確定しないんだから考えても仕方ないことだと思わないかぃ?」


金髪の興味は金銭にしか向かないのだろうか?単純でうらやましい限りだ。


「普通に考えてプロでも無い試合に250万という観戦者はおかしいです。」


「250万が人数ではなくてあくまでポイントだって事は無視できない点じゃなぃ?例えば観戦者一人につき千とか万のポイントが入ればそれ有り得ない数字では無くなるよぅ」


「そうです。今はそのポイントが高いのか低いのか全く判りません。」


基準を図る為には比較対象する数字が必要になる。

対象は多ければ多いほど良いが、2つあればそれだけでもいくつかの推測を立てる事はできる。

今判明しているのは、前回のポイント250万、『ファミリー数』6分の一、そして今回のポイント340万。

もし全ての『ファミリー』が『ファミリーリレー』に参加していたならば、観客の数は単純に見積もって6倍の1500万ポイントというのが今回ポイントを知るまでの予想。


なのに結果はあの通り。予測の4分の1未満、1.4倍のポイント。


考えられる理由の一つとして、観客が『ファミリースポーツ・オンライン』か、もしくは俺たちの『ファミリー』に失望して観戦を止めた場合。


これは結構ありそうな気がする。

『ファミリースポーツ・オンライン』で競い合うのはその道の研鑽を積んでいない素人ばかりで、プロ同士対戦の様に見応えある試合という訳でもない。

人気の出るコンテンツだとは思えなく、もし他のゲームが同じ様に観戦者を集めるようなシステムを取っているならば、そちらに乗り換える人も出てくるかもしれないような地味なジャンルだ。


しかしこれではポイントが予想よりも伸びなかった理由にはなっても、彼女達の予想を上回るポイントであるという理由にはならない。


次に考えられるのが、もっと他に有望な『ファミリー』同士の対戦カードが発生している場合。

これも十分に有り得るケースだが、一つ目と同じ問題が残る。


「あの人達に確認を取ってみないことには判りませんが、思うに我々のポイントって他の参加者と比べて相当高いんじゃないでしょうか?」

最後に考えられるのがこのパターンだ。

これならば彼女達の驚きも説明がつく。


「あの人達だってリレーに参加していればポイント予想ぐらいは立てて来た筈です。それなのにあの驚き様。」


「うーん。前回のリレーに参加してなかった可能性だってあるんだ。私だって250万ポイントを提示された時は驚きもしたし、喜びもしたよぅ。」


「ですよね。だからその辺りを聞き込んでハッキリさせておこうと思うんです。」

疑問は疑問のままにして置かない方が良い。

聞くは一時の恥。聞かないで後悔するのは、ルール説明の時でコリゴリだ。


「今そんな事が判った所で何の役に立つんだぃ?私としては彼女達が勝って帰りたいのか、負けて先に進みたいのかを確認するだけで十分だと思うんだけどねぇ。」


前回金髪『ファミリー』とやり合った時の事を考えると、あまりハッキリと勝ち負けについて訊ねない方が良い気がする。

勿論そんなに都合良く聞き出せるだけの会話術など持ち合わせていないので、その辺りの微妙な遣り取りは経験豊富そうな金髪にお任せしたい。


「もちろんそれも大事です。でも観客の傾向とか、このゲームの企画者が何を求めているのかを類推する材料は集めておいた方が良いと思うんです。」


「知ったところで現状をどうともできないだろぅ。こちらから介入する術も時間も無いんだよぅ。考えるだけ無駄な事じゃないかなぁ?」


「いいえ。例えばそういうことが判れば、ポイントを意識して上げる事が可能になるかもしれません。」


金髪の表情筋がヒクッと動く。


「それはどういう事なのかなぁ?」


流石に金銭絡みの話題となると無視できないようだ。


「簡単なことです。観戦者の傾向や製作者の意向が判れば、それに沿った試合運びをすれば良いんです。」

例えば前回の俺がやったような、出来るだけ自然な形でのルール違反。

リスクはあるが、それなりのリターンもある。


「ああなるほど…八百長だね。」言い方は悪いがその通りだ。


「そうです。元々ワザと負けようとしていますんで、そこのところをもっと劇的に仕立て上げれば、お客さんも沸いてポイント向上に繋がるでしょうし、審判や相手へのカモフラージュにもなるはずです。」


「ハァ…元競技者としては八百長なんて感心しないし、演技なんて得意ではないんだけどねぇ…。」


あの時の豹変っぷりを見た後だと説得力が無い。

普段の粘り気たっぷりの喋り方は、彼なりの猫かぶりではないかと思っている。


「でも目的のためにはこの程度の手段は飲んで然るべきだろうねぇ。」


「ご理解いただけて良かったです。それでは、その方向で話し合いましょうか。」


「了解したよぅ。それじゃあ基本的な交渉は君にお任せするけど、必要な時は言ってよねぇ。」


「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」


金髪の合意を得ることができたので、現在も話し合い中の対戦相手に向かって声を掛ける。




「話し合いの最中に申し訳ありません!少しお話をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


こちらの『ファミリー』の戦力を確認する為か、値踏みするような鋭い眼差しをこちらへ向けて話していた野獣のような女が、俺の呼びかけに気付いて返事をする。


「ん?何?何か御用?」


今まであまり女性と会話する機会がなかったので、気の効いた言葉が浮かばない。

相手を不快にさせないように、先ずは自己紹介から。

できるだけ丁寧な言葉遣いを心がけよう。


「俺はこの『ファミリー』の『リーダー』『ハルオ』です。よろしくお願いします。」

ハルオ君は数字の扱いが苦手なのに無理して理屈っぽくなろうとします。

なので劇中の数字には色々と考え違いがあります。


今年はここまで。


皆様の来年が良き年でありますように!

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