黄色いカードを集めましょう
前回は一人であらゆる対策や段取りを行ったが、今回は一人ではない。
金髪という俺よりも経験豊富な大人がいる。
しかし、俺一人で何もかもをしなければならなかった前回と比べると安心感があるはずなのに、何故か先ほどの模擬戦辺りから頭の中がモヤモヤして晴れないでいる。
あれは模擬戦なんだ、負けたから何かペナルティがあるわけでもないんだ…なのに何か釈然としないものを感じている。
このまま放置するのは奥歯に小骨が刺さったようでもどかしいが、その正体を明らかにするには色々と余裕が無さ過ぎた。
そんな事を考えながら子供たちに賞賛される彼を見詰めていたが、金髪はある程度子供たちの相手をした後、俺に話しかけてきた。
「次の試合へ向けて方針と対策について話を詰めておこうかぁ。」
俺は肯いて金髪が離す事を促す。
それではと前置き入れてから金髪は俺に確認を取る。
「『ファミリー・リレー』では私も君も、それぞれ過ちを犯していた。それは解っているね?」
もちろん理解している。
どちらもお互いに認識の甘さからとんでもない隙を晒していた。
ほぼ最初から公に負けを宣言して、競争者を軽んじていた金髪。
競争を隠れ蓑に交渉相手を探し、交渉内容の想定が甘かった俺。
勝敗を分けたのは、情報の開示量の違いとお互いの目的に気付いたタイミングだ。
もし他に敗者の座を狙っている『ファミリー』がいたならば、あのやり取りを行っている間に先を越されて苦渋を飲まされたはずだ。
「それは認めます。俺は俺で、貴方は貴方で甘さがあった…という事ですよね。」
「そうだよぅ。より甘かった私は君に出し抜かれ、このゲームに参加し続ける為には君の『ファミリー』に招かれるしか手が無くなった。勝敗以前に私の完敗だよ。」
さわやかな笑顔…では無いが、何だかサッパリした表情で金髪は自分の失敗を認める。
だが一手誤れば、俺はここに立てなかったはずなのだ。
どんなに彼や彼の『ファミリー』から怨まれようとも、ゲームからの離脱だけは避けねばならなかった。
「あの時は本当に申し訳ありませんでした。でも俺も必死だったんです。」
何度も言うが、ガキ共が全員帰れたという確証が得られるまでは抜け出す事など出来はしない。
「それは解っているよぅ。」
俺を安心させる為か、金髪はにこやかに宣言した。
「幾ら私が賞金目的でゲームに残りたいと思っても、勝つべきときに勝てる確信が持てない『ファミリー』に招かれるのは抵抗があるさぁ。」
子供というハンデを多量に背負って戦う不安は俺が一番良く知っている。
決断するには多大な勇気が必要だった。
責任と使命感と絆。
どれが欠けても踏み出せなかったはずだ。
「君が信義に足る人物であると思ったからこそ、私はここに残る気になったのさぁ。だから謝られる筋の話でもないねぇ。」
あんな形で好意を踏みにじった俺に信を預けるとまで言ってくれる金髪。
それを俺は違和感だのモヤモヤだの魚の骨だのと言って…ただ恥じ入るばかりだ。
「それにあの試合では、君が最も真剣に取り組んだプレイヤーだったんだと思うよぅ…負ける為とは言えどねぇ。どんな競技でもどんな試合でも、真剣にプレイする人は強い…私は実戦の場から離れ過ぎていて、所詮はゲームという油断と、経験者だからという慢心に囚われていた。あの結果は当然だったんだと今では思えるよぅ。」
正にそこがあの試合の肝だった。
少なくとも俺には油断や慢心を持てる程の心の余裕が無い。
「そういうわけだから、これからは考えを強く持たなければいけないなぁ。方針がブレてはダメだよぅ。」
俺と金髪、双方の目的は違えども進むべき道、足並みは揃えなければならない。
その為の方針確認だ。
「君の目的は子供たちの救済。」
子供たちを救い、また取りこぼしが無いことが確認できれば俺のゲームは終了だ。
「貴方の目的は可能な限りの賞金獲得。」
金髪の賞金に対する目標設定は不明だが、あの数百万ポイントでは帰らなかった。
換金率がわからないからというのもあるが、あの程度では足りないという判断なのだろう。
「我々二人共に目的を達成するには『勝利』は許されない。」
負けることが、最も確実な残留方法。
勝ってしまうと、残り1座席を巡っての不確定な戦いが始まってしまう。
「そして『最終戦で勝利』できるだけの力を持ったメンバーを揃えること。」
恐らく最終戦の戦いは熾烈を極めるだろう。
生死と巨額の金銭がかかっているのだから。
「最も優先するべきは『敗北』して先に進む事。その過程で相手『ファミリー』から有力プレイヤーを探し協力を求めて交渉を試み、子供たちを解放しつつ新たな仲間を迎え入れる。」
先に進む事。『ファミリー』を強くする事。弱い部分を取り除く事。
「それがこれからの俺たちの基本方針だ!」
俺と金髪の、俺たちの『ファミリー』が目指すべきところは定まった。
あとはその指針に従って如何にして目的を達成するか。手段の問題だ。
「それではいかにして負けるか。そして、負けようと画策する『ファミリー』を相手にした場合について考えようかぁ。おいでマリオン。」
金髪がマリオンを呼びつける。
『ファミリー・スポーツ』の特殊事情に合わせた細やかなルール変更点などを洗い出す為に残り時間を使ってマリオンを交えてルールを確認し、如何に効率よく負けに繋げるか、いかに自然にファウルを貰うかを考える。
負けるために全力を尽くす。
言葉としてかなりおかしなものではあるが、そうとしか言い様が無い。
相手の力量を測りつつ、交渉を行い、確実に負ける。
交渉中、相手にこちらの意図を可能な限り悟らせない。
相手の意図を先に読み取り、場合によっては何よりも優先して確実に負ける。
重要なのはスポーツそのものではなく、全体を通しての駆け引きだ。
その為に事前に考えうる限りの予測を立て、対処法を確立しておくのだ。
時間は刻々と過ぎ、参加締め切りまで残りあと数分となった時点でようやく全ての準備が整った。
子供たちへの作戦の説明は終了し、俺たちの意気は十分に上がっている。
<開始時間になりました。参加される『ファミリー』の『ファミリー・ルーム』に競技場への扉を開きます。>
俺が今回もバッチリ決めようと、勇む心を整え、掛け声を出そうと息を吸い込んだその時。
金髪が割り込み、発破をかける。
「それじゃあ皆!作戦通り、頑張って負けるよぅ!!」
「「「「おーーーー!!」」」」
だからそれは俺の役目だっツーの。




