卓上の格闘技
<次の試合まで残り時間57分18秒、次の競技は『ファミリー・アームレスリング』です。リーダーは、参加される場合は『YES』を不参加の場合は『NO』を選択してください。>
「これはまた厳しい競技だねぇ。」
アームレスリング、つまりは腕相撲ということか。
金髪の参戦によって少しだけマシになったとは言え、まだまだ子供が主体の『ファミリー』だ。
アヴァターの筋力次第の競技というのは、自分ベースのままでプレイしている子供たちにとってはかなり不利な競技だ。
「腕相撲となると腕力勝負ですもんね。戦力と言えるのは俺と『イロアス』さんだけですからね。」
3人目もいないではないが、アレはなんだかんだで女の子だ。戦力扱いするのは酷とうものだ。
「でも腕相撲なんてスポーツって言えるほどのモノでも無いでしょうに。どうして競技種目に入れるんだろう?」
リアルの細腕では縁遠い種目である。
小学生の頃、身体の大きい同級生にこっぴどくやられてからは全くやっていない。
アヴァター改造して筋肉をつけたのは、コンプレックスの現われなのかもしれない。
「もしかして君、アームレスリングを腕相撲と同じ競技だと思ってるぅ?だとしたらそれは認識不足というものだよぅ。」
「そんなに違うものなんですか?ただ腕の力で相手の腕を引き倒す競技でしょう?」
腕相撲の英訳=アームレスリングではないのだろうか?
もしくはその逆か?
「その答えでは余りにも大雑把すぎるよぅ。まあどちらにしても腕力は重要なファクターではあるけどねぇ。」
腕の相撲だからアームレスリングではないのか?、相撲取りをスモウレスラーと呼ぶぐらいだからそんなに違い無いと思うのだが。
「なるほど。それで、どう違うんですか?」
ここは素直に訊いておこう。
陸上以外のスポーツにも詳しいとは便利な人だ。
「両者の大きな違いは身体の動きの自由度にあるんだよぅ。」
「自由度?腕だけの競技で?」
ほとんど身体を拘束されてるにも等しい状態で、自由も何もあったものではないが?
「例えば、どちらも台に肘を立てるけど、腕相撲は肘が台から出るか浮くかさえしなければ競技中どんなに動いても違反にはならない。対するアームレスリングはエルボーパッドから浮いたり出たりするとファウルを取られる。」
「ファウル?エルボーパッド?」
専門用語…まあなんとなくは判るけど、一応尋ねておく。
「ファウルは違反のカウントだよぅ。ファウル2回で負けとみなされる。要するにイエローカードだねぇ。エルボーパッドってのは肘の固定位置だよぅ。」
反則即失格ではないのか。
これは留意しておく必要がありそうだ。
「あと腕相撲は使わない手について特にルールはないけど、アームレスリングはグリップバーを握って行い、そこから手を離した場合はファウルだよぅ。」
力を入れ易くしているのだろうか?相当厳密に行うスポーツのようだ。
「アームレスリングは肩を必要以上に傾けたらファウルだけど、腕相撲は台より下にならなければOKさぁ。」
ルールでがんじがらめだな、アームレスリング。
「要は競技として洗練された腕相撲って事ですよね?」
小難しくなってるだけで、本質的にはやはりどちらも腕力勝負だと思うんだがなあ。
「競うべきものを腕力に偏らせた競技と言えるかな。駆け引きや技術の要素はどちらもあるけど、腕相撲の方が奥が深いと思うねぇ。」
その辺りの意見は双方の競技者によって異なるのだろうな。
良いディベートのテーマに成りそうだ。
「あんまり納得いかないみたいだねぇ。」
スポーツは全般的にそうだが、言葉だけで説明されてもわかりにくい。
ルール説明も言葉で言われるよりはお手本があった方が簡単に理解できる。
「ではちょっとやってみようかぁ!」と金髪が辺りを見回す。
テーブルは足が低いソファ用のローテーブルなので、こういう勝負には向かない。
丁度いい程度の台となると…冷蔵庫かな。
この冷蔵庫は小型なので、少々低くはあるが、十分テーブルとして役割を果たせそうなサイズであった。
「マリオン!ちょっと審判とルールの説明をお願いしても良いかなぁ?」
金髪が、呼び出したまま待機させていた執事を呼び出す。
待ってましたとばかりに、マリオンがこちらへ宙を飛んでやってくる。
「かしこまりました『イロアス』様。それでは僭越ながら私マリオンが審判を努めさせて頂きます。」
俺と金髪に向かって深々と頭を垂れる。
「本来、審判は主・副の二人で行うのですが今回は私一人で裁かせていただきます。」
金髪と俺が冷蔵庫を挟んで向かい合う。
子供たちは、俺たちの対決を見世物代わりに楽しんでいるようで、野次や応援が飛ぶ。
「では、お互いに礼!」
俺と金髪が互いに頭を下げる。
なんだか日本の武道のような挨拶だ。
もしかして日本発の競技ではなかろうか?
「『セットアップ』を行います。私の指示に従わない場合は『ファウル』を取りますのでご注意下さい。」
まあ審判は神様です。どんな競技でも逆らってはいけませんな。
「今回はグリップがありませんので台の端を握ってください。手を離しますと『ファウル』です。」
競技の練習用に用意してくれたってよかろうに…VRなんだし。
「自分の胸が相手に正対するように構えます。」
お互いに見詰めあい、火花を散らす。
チュートリアルなのにちょっと真剣だ。
正対させるのは、身体が斜めになると純粋な腕力以外の力が働くからだろう。
「お互い手を組んでください。手首を曲げてはいけません。」
手首を巻くとガッチリロックされて動かなくなる。
当然の措置だ。
お互いに腕と手の甲が水平になるように腕を組む。
近付く戦いの緊張に、自然と身体が前のめりになってくる。
するとマリオンから注意が飛んできた。
「『にいちゃん』様、顔を拳に近付け過ぎないで下さい。拳一つ分は離すように。腕が自分の身体に触れた場合は『ファウル』ですのでご注意を。」
慌てて身体を離し、背筋を伸ばす。一々注文が多い競技だ。
「はい、そこで『ストップ!』です。組み手を動かさないで!動かすと『ファウル』ですよ!」
金髪はガッチリ組んだ腕を微動だにしない。
こちらは既に手に汗握ってベトベトだ。
それに気付いたのか「競技中に組手がスリップして外れた場合は、『ストラップ』という帯でお互いの手を固定し、再び試合を行います。」とマリオンが付け加える。
まだかまだかとドキドキしていると、いよいよマリオンがスタートについて説明を始める。
「開始の合図は『ゴー!』。試合中私が『ストップ』と宣言したら試合終了です。」
緊張が臨界に達し、周りの子供たちも息を飲んで見守っている。
「それでは………『ゴー!』」
開始の合図と共に右腕に渾身の力を篭める。
俺と金髪の腕を比べると、俺のほうが太い。
ギリシャ彫刻体型な金髪は、全体的に均整の取れた筋肉の付き方をしている。
対する俺は少々不恰好なものの、上半身重視。
単純な腕力では金髪を圧倒しているに違いない。
しかし、開始するもお互いに均衡が保たれている。
金髪の握りの硬さと、力の出し入れに対する絶妙な反応の良さで俺は次第に圧倒すされ始めた。
俺の腕がジリジリと彼の方に引き込まれてゆく。
「フンヌ!!」
最後の抵抗もむなしく、呼吸をする為に一瞬息を吐いた隙を突かれ、掛け声と共に押し切られ、手の甲が冷蔵庫に触れた。
「ストップ!ウィナー『イアロス』!」
俺の完敗であった。
最初から主導権を握られ挽回の余地も無く終った。
昔にやった腕相撲は、完全に体格差で勝負がついていたが、駆け引き一つでこうも不利を補えるのかと感心してしまう。
勝った金髪は、子供たちの賞賛を一身に浴びて気持ちよさげにしながら言った。
「さて、それでは『ファミリー・アームレスリング』の対策と方針を話し合おうか。」
一応言っておきますが、『リーダー』は俺です。




