我が家へようこそ!
意識が戻ると見覚えのある洋間だった。
コの字型に並んだソファとそれに囲まれたテーブル、大きなモニターに冷蔵庫、つまり俺たちの『ファミリールーム』だ。
人数こそ同じだが、前にこの部屋に居た人物が一人減り、居なかった人物が一人増えている。
美しく均整の取れた筋肉、短距離走者特有の太い足、巻き毛で美しい顔のギリシャ彫刻がそこにあった。
金髪だ。
そうなる様にと思ってトレードを願い出たが、彼は期待を裏切らない男だった。
人当たりのよさ、子供への気遣い、運動能力、そして目的。
どれを取っても理想的だ。
今回こちらからトレードして帰還させたのはワルガキの一人だ。
本当は少女か迷子を帰すつもりだったのだが、2人ともここに残りたいと言い出したからだ。
親とめぐり合えるまで待つ積もりなのか、それとも他に目的があるのかは解らないが意志は硬かった。
保護者としては、早々にワルガキ共を親元に帰しておきたかったという打算も働いて、結局ワルガキから順に帰す事にしたのである。
今回は、最年少の子(『リレー』の時の第2走者の子)をトレードした。
ルール上トレードしたプレイヤーは解放されるので、今頃は両親の元へと帰っていることだろう。
あの子にはメッセージを託してある。
「責任を持って全員を帰します。」と。
「ようこそ、俺たちの『ファミリールーム』へ!」
きょろきょろと部屋を見回す金髪に、歓迎の言葉を投げかける。
「『ファミリー・リレー』ではお世話になりました。改めて自己紹介をします。俺がこの『ファミリー』のリーダーを務める『プレイヤーネーム:ああはるお』こと『コールネーム:にいちゃん』です。ハルオでも結構です。今後ともよろしくお願いします。」
右手を差し出し、握手を求める。
「こちらこそよろしく。『コールネーム:イロアス』だよぅ。」
状況がやっとつかめてきたのか、金髪が手を握り返す。
強く握られた右手が痛い。
「もう怨んでなんかいないよぅ。折角最終戦を勝ち抜けそうなメンバーを集めたのに、あの苦労は何だったのか…なんて言わないさぁ」
金髪こと『イロアス』さんは、結構根に持つタイプらしい。
「このまま遺恨を残しても仕方ないから、これで手打ちって事にしようなぁ。」
と最後に全力と思しき力で俺の手を握り絞った。
これも罰だと思って痛みを堪える。
爽やかな態度を崩さずにこんな事をやるのだから、意外とこの人のお腹の中は真っ黒かもしれない。
まあ本来、心の底から怨まれてもおかしくないような裏切りをしたのだから、この程度の痛みは許容範囲だ。
俺たちが(表面上)仲良く握手しているのを見て、子供たちも笑顔で金髪を歓迎していた。
競技中、金髪『ファミリー』は子供たちに何かと世話を焼いてくれていたようで、金髪たちに対する信頼のようなものが芽生えているのかも知れない。
金髪自身は子供たちと直接触れ合ってはいないが、迷子の子を大声で励まし応援してくれていたのが好印象だったのだろう。
「おいちゃん、あの時は応援してくれてありがとう!」
「おっさんのキンニクすっげー!マンガみてー!」
「おっちゃん外国の人?何人?ヤンキー?」
などとそれぞれに親しみをこめて歓迎の意を示している。
「気にする事はないさぁ。良く頑張ったよぅ。」
「そうかぃ?それじゃあ触ってみるかなぁ?」
「生まれも育ちも日本人だよぅ。ジャップだよジャップ。」
「それから、私は『おじちゃん』ではありませんよぅ。『お兄さん』と呼んでくれるかなぁ。」
それぞれに答えを返し、談笑しながら皆でソファに座ってテーブルを囲んだ。
俺は一息着く為に冷蔵庫を開けて飲み物を取り出し全員に配った。
冷蔵庫の中は補充されており、パワーバーも全種類復活していたので、それをテーブルに広げて各自好きなものを食べるようにと指示すると、子供たちは我先にとオヤツタイムに入って静かになった。
左手でペットボトルを掴んでスポーツドリンクを飲みながら、金髪改め『イロアス』さんは、自分の管理メニューを立ち上げて右手で操作し何か確認を行っている。
初めは「ホントに7桁のポイント入ってるなぁ。」と嬉しそうにしていたが、何か芳しくない事があったのか眉をしかめて話し始めた。
「前の『ファミリー』では私がリーダーだったんだけど、今メニューを見たらリーダー権限がなくなってるねぇ。」
「リーダー権限?」
「『ファミリー』内の決定権だよぅ。新規参入があったからと言って、決めなおすわけではないようだねぇ。」
そう言って更に管理メニューを操作していると、
ボワン!
突如『イロアス』さんの前に3頭身の執事が現れた。
「何かご質問ですか?ご主人様。」
久しぶりすぎて存在を忘れていたが、このゲームの『ヘルプ』用ガイドャラクターの『マリオン』だ。
そういえば、ずっと時間ができたら『ヘルプ』しようと思って忘れていた。
「私のリーダー権限が無くなってるんだけど、リーダーがトレードで交換されていなくなった『ファミリー』はどうなるのぉ?」
「その場合は、前のリーダーが次のリーダーを指名してからトレード、という運びで再決定されます。」
「私は何も決めてこなかったけど大丈夫なのぉ?」
「このルールは敗者側『ファミリー』にのみ適用されます。勝者はリーダー権限で裁可すべきことがありませんので、問題ありませんよ。」
なんだか色々細かい事まで教えてくれるようだった。
いくら慌しかったとは言え、もっと早くに試してみるべきだったと後悔する。
そういえば、俺は『ファミリー・リレー』中に湧いた疑問があったので質問してみる事にした。
「競技の前に参加の是非を選択したけども、ずっと不参加にしているとどうなるのかな?」
そう、最終戦を目指すだけならば、ただ単に不参加し続ければ良いのではなかろうか?
そういうプレイヤーが沢山いたら、デスゲームが終らなくなってしまう。
「競技の不参加は連続して行えません。1度不参加すると次は必ず参加しなければなりません。」
「あと不参加すると観戦者ポイントの累積が消えるから注意してねぇ。」
そんな事も聞いてなかったのか?と言いたそうな顔でこちらの話を聞いていた金髪は、補足説明を加える。賞金狙いの金髪にしてみれば、その辺りが重要なのだろう。
マリオンは『ファミリー・ルーム』内では出したままに出来るそうなので、飲食物の片付けを彼に任せ、俺たちはモニターのスイッチを入れて次の競技と残り時間を確認する事にした。
これにて『リレー』の章は終わりです。
次の競技は何でしょうか?
候補はいくつかありますが、まだ決めてません。




