お疲れ様でした
俺たちの失格に最も衝撃を受けていたはずの金髪だが、立ち直りは早かった。
いや立ち直ったというよりは開き直ったといった方が正しい。
「急げ!早くバトンをよこせ!」
金髪の大音声に他の走者も混乱状態からはたと我に帰る。
敗者は確定した…しかし勝者は未だ確定していない。
残りの『ファミリー』は既に帰還の権利を有しているので、これから始まるのは賞金獲得権の争奪戦だ。
数百万ポイントがいったい金額にして幾らになるかは判らないが、先を目指せない以上は是が非でも獲得しておきたい数字だ。
「早くしろ!方針変更だ!クソッタレ!!!」
更に罵声を上げる金髪の声に急かされ、クラッシュした走者が未だ体勢を立て直せぬ中を事故に巻き込まれなかった5番手と6番手が最終走者の待つリレーゾーンへと走る。
金髪『ファミリー』の走者は今までのスロペースから一転、肉体がその本領を発揮すべく疾走を開始する。
しなやかで大柄な身体は、瞬発力の強い赤筋の力を存分に出し、あっという間に前の走者に追いつき、抜き去り、金髪へバトンを繋ぐ。
受け取った金髪は、遥か先を走る俺に追い着かんと爆走する。
もはや競技というよりは、一人でタイムトライアルをしているかのような独走状態だ。
彼と出会ったのが、最終戦でなくて良かったと思う。
そしてそれ程間を置かずにもの凄い速度でゴールテープを切った金髪は、そのまま俺の方に向かって歩いてきた。
「やられたねぇ。完敗だぁ。」
走っている間に冷静さを取り戻したのか、口調が元に戻っている。
どうやら流石にこちらの意図に気付いているようだった。
「俺は失格です。残念ですが貴方との賭けは俺の負けです。」
一応礼儀として悔しがって見せておく。
「負けたなんて思ってもいないくせに。」
「負けましたよ。だから俺は先へ進みます。」
負けこそが俺たちにとってのトロフィーだった。
だからこそ金髪は負けたと言うのだろう。
「君はこれで子供たちを全員生還させるチャンスをフイにした。次にまた同じ様なチャンスが来るとは限らないよぅ。」
その通りだ。この件については、後で子供たちに謝罪せねばならない。
あいつらの頑張りを仕方がなかったとはいえ無駄にしてしまった。
あれだけ健闘していただけにショックも一段と大きかろう。
こんな事ならば最初から負ける段取りを組んでおくべきだったが、今更言っても仕方の無い話だ。
「それは覚悟の上です。むしろ貴方のおかげで気付けた事が沢山ありました。ありがとうございました。」俺は深々と頭を下げる。
あんなにも考えがブレながらも、なんとか敗北を掴み次に進む事ができるのは、金髪が賞金狙いとして甘すぎたからだ。それが解っているかだろう、金髪の表情は苦笑いだ。
「結果は受け入れるよぅ。賞金ポイントは確保したし、そう悪い結末ではないさぁ。」
元より賞金ポイントが目当てなのだ。
何も無いよりはマシといったところだろう。
ゴール地点に他のプレイヤー達も集まり始め、金髪の『ファミリー』も早々に、彼らのリーダーを迎えに現れた。
「それではお別れだねぇ。これからの君たちの健闘を祈っているよ。」
諦めと爽やかさが同居する複雑な笑顔を残し、金髪は仲間の下へと去っていった。
やがて全ての走者がゴールし、競技は終了した。
解放が確定している為か、皆一様に表情が緩んでいる。
審判がプレイヤーを集めての表彰とポイントの授与を終えると、いよいよトレードの時がやって来た。
「それでは負け『ファミリー』のリーダーは、トレード対象の『ファミリー』を選択してください。」
と主審が宣言する。
俺が選択したのは、金髪の『ファミリー』。
遺恨を残してはいるが、更なる賞金の可能性を見逃しはしないだろうという打算だ。
選ばれた金髪たちも予想していたのか、これといって驚いた様子も無く、「トレードを受けますか?受けない場合は賞金ポイントが半分になります。」という主審の質問に「受けます!」と即答する。
「各リーダーは、トレードに出すプレイヤーを選んでください。」
管理画面が開き、子供から帰すべき一人を選択する。
俺たちは誰を最初に帰すかを事前に話し合って決めていた。
金髪たちの方も早々に選択が終了する。
「これにて『ファミリー・リレー』を終了いたします。一旦『ファミリールーム』へと転送いたしますので、勝者『ファミリー』はそこでログアウトの手続きをしてください。敗者『ファミリー』は次の協議の準備をお願いいたします。それでは皆様、お疲れ様でした。」
主審が首領の宣言と共に頭を下げると、意識が暗転した。




